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第三章 エドワード

71:殿下、あの、大丈夫ですか?

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エドワードにしてみれば、そんなつもりはないのだが、タイラーは軽くため息をついて「疲れを溜めないよう、ほどほどにしてくださいよ」と呆れ顔だ。
「機密データが無事に戻ったことを世間に公表されるのですか?」
「ああ。王立細胞研究所でデータの解析が終わったらな」
「では、あのドメインは用済みになりますね」
「まあ、そうだが」
「まさか、行くとこのがないのであれば、このままここで働かせる気ですか?」
タイラーが吐き捨てる。
「どうぞ、恩赦を御検討下さい。世間にあのように晒し者にされて、それ相応の罰は受けたでしょう。それに、殿下の傍に、オールドドメインがうろちょろしているのを見るのは、正直好きではありません」
タイラーは、言いたいことを言い終わるとさっさと去っていく。
自分のことで手いっぱいで、バロンの先のことなど、正直考えたことがなかった。
「おい」と呼びかければ、素直に「はい」と返事をする。
常に数歩下がった位置にいて、いつも気配を消している。
いつの間にか、傍にいるのが当たり前になっていた。
体調不良で数日抜けられると、エドワードは妙に物足りなくなる。
すぐにまた時間を共にする生活がやってくると思っていたのに、手放すなど……。
バロンの傍に戻ると、痛みで体温が上がってしまったのか赤い顔で唸っていた。
タオルを濡らして顔を拭いてやると、気持ちが良さそうな顔をする。
「痛み止めの薬を飲むか?」
「それ、睡眠導入剤が入っているんでしょう?嫌です」
「意固地な奴だな。口移しで飲ませるぞ」
「そういうっ、冗談っ、止めてくださいっ」
バロンは寝返りを打ち、エドワードに背を向ける。
「確かに冗談で言ったが、実行に移せと言われたら、私は出来る。何が言いたいのかというと、お前は魅力のあるドメインだと褒めている」
「何ですか、それ」
エドワードとしては、精いっぱいの賛辞を贈ったつもりなのだが、バロンには不満のようだ。
コチコチと、ベッド横の小机に置かれた時計が静かに時を刻む。
バロンは傷が痛むのか時折、声を上げた。
「意地を張らずに、飲め」
「嫌……です」
「何で、そんなに頑ななんだ、お前は」
「……になるかと」
「何だって?」
「ないとは分かっているのですが、眠っているうちに廃棄になるんじゃないかと、思ってしまうんです」
「ここまで世間に晒しておいて、それはない」
獲物を呼び寄せるためにそうしたのだから、とそこまで説明したら、バロンは納得するかもしれないが、それは打ち明けることはできない。
多分、こうやって誰にも明かせない秘密を多く抱えているから、自分以外を信用できず疑心暗鬼になってしまうのだろう。
「殿下、あの、大丈夫ですか?」
バロンが、肩越しに振り向いて戸惑いながら聞いて来た。
「何だ?この状況下で、私の心配か?」
「表情が、なんというか、辛そうです。ラリーさんを呼ばれては?それとも、彼とケンカでもしたんですか?」
「ラリー?どうして、奴の名が出てくる?」
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