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第三章 エドワード
69:お前が手術を怖がって、泣き出すんじゃないかと思って
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そう言って打ち消すが、エドワードの足は、結局バロンの自室に向いていた。
ヴァレットになったバロンの自室は、エドワードの自室の内部にあった。
エドワードに何かあったとき、夜中でもすぐに駆けつけられるようにだ。
ドアをノックする。
「バロン。起きているか?」
しかし、返事が無い。
彼は、ヴァレットの仕事がなければ、王宮内を出歩くことがなく、部屋に引きこもりっぱなしなので、不在なのはかなり珍しい。
まさか、キースが気を利かせて、気晴らしに王宮見学はどうですか?と誘って出かけたとか?
いや、注目されるが嫌なあいつに限ってそれはないと、エドワードはバロンの部屋の前で首を振る。
「バロン?おい、バロン。いないのか?」
扉を叩く音がどんどん強まる。
「何ですか、騒々しい」
バロンの部屋から出て来たのは、白髭の王宮お抱え医師タイラーだ。
彼の頭越しに、ベッドに横たわるバロンの姿が見えた。
「あいつ、そんなに調子を崩しているのか?」
「違いますよ。彼の体調不良のせいで伸びていた、機密データ取り出しの手術、今夜することにしたんですよ」
「私は、そんなこと聞いていない」
「タブレットに方にご連絡差し上げました。殿下が忙しすぎて、見落としておられるのでは?貴方が連れ回すものだから、このドメインはしょっちゅう体調不良を起こし、私も今後、予定が詰まっていて医師会に出たり、復興現場で医療業務にあたる日が続きます」
「分かった」
エドワードは、「不満だ」という表情をありありと顔に露わしながら、返事をする。
タイラーは父親ギルバートの代からのお抱え医師で、エドワードを未だに子供だと思っている節がある。
日進月歩で進む医療技術に正直ついていけていない時代遅れの医師なのだが、王宮で幅を利かせているので、無下に辞めさせることもできない。
エドワードを軽んじるような態度を取るのは、アンの診察業務から外された腹いせだろう。それは彼が逆立ちしたって無理な医療行為だからだ。
「麻酔が利くまで、暫く席を外すよ」
とタイラーはバロンに言って、部屋を出ていく。
「殿下。あの……」
ベッドに寝ていたバロンが、身体を起こしかけた。
「いい。そのままでいろ」
エドワードは、小脇に抱えていたタブレットを小机に置き、部屋の隅から椅子を運んできてベッドの横に据え、座った。
「え?何で、そこに?」
「お前が手術を怖がって、泣き出すんじゃないかと思って」
すると、男のプライドを傷つけられたのか、「泣きませんよ」とバロンが声を低くする。
「悪い。からかいたかったわけじゃない」
昔の古傷がうずいて一人でいられず、お前と話しをすれば癒されるかと思ったんだ。
とエドワードは素直に言えない。
だから、別の話題を引っ張り出す。
「シファーチェの件を部下に調べさせた。火事の夜以降、見事なほどふっつりと途切れている。生死は今だ定かではないが、少し怪しいので、今後も調査は続ける」
「そうですか」
予想通り、シュンとバロンが沈み込む。
ヴァレットになったバロンの自室は、エドワードの自室の内部にあった。
エドワードに何かあったとき、夜中でもすぐに駆けつけられるようにだ。
ドアをノックする。
「バロン。起きているか?」
しかし、返事が無い。
彼は、ヴァレットの仕事がなければ、王宮内を出歩くことがなく、部屋に引きこもりっぱなしなので、不在なのはかなり珍しい。
まさか、キースが気を利かせて、気晴らしに王宮見学はどうですか?と誘って出かけたとか?
いや、注目されるが嫌なあいつに限ってそれはないと、エドワードはバロンの部屋の前で首を振る。
「バロン?おい、バロン。いないのか?」
扉を叩く音がどんどん強まる。
「何ですか、騒々しい」
バロンの部屋から出て来たのは、白髭の王宮お抱え医師タイラーだ。
彼の頭越しに、ベッドに横たわるバロンの姿が見えた。
「あいつ、そんなに調子を崩しているのか?」
「違いますよ。彼の体調不良のせいで伸びていた、機密データ取り出しの手術、今夜することにしたんですよ」
「私は、そんなこと聞いていない」
「タブレットに方にご連絡差し上げました。殿下が忙しすぎて、見落としておられるのでは?貴方が連れ回すものだから、このドメインはしょっちゅう体調不良を起こし、私も今後、予定が詰まっていて医師会に出たり、復興現場で医療業務にあたる日が続きます」
「分かった」
エドワードは、「不満だ」という表情をありありと顔に露わしながら、返事をする。
タイラーは父親ギルバートの代からのお抱え医師で、エドワードを未だに子供だと思っている節がある。
日進月歩で進む医療技術に正直ついていけていない時代遅れの医師なのだが、王宮で幅を利かせているので、無下に辞めさせることもできない。
エドワードを軽んじるような態度を取るのは、アンの診察業務から外された腹いせだろう。それは彼が逆立ちしたって無理な医療行為だからだ。
「麻酔が利くまで、暫く席を外すよ」
とタイラーはバロンに言って、部屋を出ていく。
「殿下。あの……」
ベッドに寝ていたバロンが、身体を起こしかけた。
「いい。そのままでいろ」
エドワードは、小脇に抱えていたタブレットを小机に置き、部屋の隅から椅子を運んできてベッドの横に据え、座った。
「え?何で、そこに?」
「お前が手術を怖がって、泣き出すんじゃないかと思って」
すると、男のプライドを傷つけられたのか、「泣きませんよ」とバロンが声を低くする。
「悪い。からかいたかったわけじゃない」
昔の古傷がうずいて一人でいられず、お前と話しをすれば癒されるかと思ったんだ。
とエドワードは素直に言えない。
だから、別の話題を引っ張り出す。
「シファーチェの件を部下に調べさせた。火事の夜以降、見事なほどふっつりと途切れている。生死は今だ定かではないが、少し怪しいので、今後も調査は続ける」
「そうですか」
予想通り、シュンとバロンが沈み込む。
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