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第三章 エドワード
68:私を恨んでいるのか?
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話がそれたと思ったのか、アーサーは不自然なほど早口になる。
「泣いたり笑ったり、忙しい奴だぞ。メアリーの爆弾にも興味を示していた」
『マフィン爆弾か。懐かしいな』と笑うアーサーの声とともに『なあ、アーサー。準備ってこれでいいのか?』という少年の声が聞こえてくる。
「誰かいるのか?」
『通いのニュードメインだよ。ごめん、もう、時間だから切るね。あと、鹿の園の会員証は持っていない。……失くしてしまって、だから君に会い辛かったんだ』
―――プツン、と通信が途切れた。
「無くした?物持ちのいいお前が?」
エドワードは吹雪になってきた外を見て、窓を閉め鍵をかけた。
「解せない」
エドワードは、通信機を外しながら呟く。
窓の外は深々と雪が降っている。
幼い頃、ここでメアリーやダニエル、そしてアーサーと雪遊びをした。
ダニエルやメアリーの家は、英国の古くからの貴族で、必然と一緒に遊ばされていた。
アーサーは、後から仲間になったのだ。
彼の両親はロシアの名だたる宝石商で、世界中に鉱山を所有していたがアーサーが幼い頃、ロシアで革命が起こり英国に亡命してきた。
そして、英国で生活基盤を作るため、そして地位を獲得するために、世界中のジュエラーがよだれを垂らす希少な宝石を王家に献上した。王家は爵位という形でアーサー一家にお礼をした。
中世ならいざ知らず、爵位制度など無くても生活するのに困りはしないが、ステイタスとして得たがる人間は後を絶たない。しかし、爵位自身体が飽和状態で何代王家に尽くしても、得れない者がほとんどだ。
当然、よそ者のアーサー一家が物で王家を釣ったと、批判の的となった。
「ロシアのエセ貴族」。
それが当時のアーサーのあだ名だ。
当時、王であったエドワードの父ギルバートの好感度も急落した。しかし、そうなることは分かっていたし、そうまでして王家は財源を得なければならなかった。
秘密裏に行われていた細胞研究に、多額の資金を必要としていたからだ。
両親たちの思惑を知ったのはエドワードが十代に入ってからで、アーサーと出会った五歳の頃は知りもしなかった。
一緒に遊んだのは、「私は次期国王で、弱い者を守らねばならない」という子供じみた尊大な義務感からだ。察しのよかったアーサーは子供ながらどのようにして英国で生きていけばいいのか分かっていたようで、エドワードの前で出過ぎることも無かったし、貰った物はなんでも喜んで大切にした。
冷えた窓辺に立っていると、左脇の古傷が、シグナルを発するかのように、ジンジンと痛みだす。
エドワードはそこを押えながら、呟いた。
「私を恨んでいるのか?」
十二才でテロにあった時の傷だ。
長く昏睡状態に陥るほど重症だったが、アーサーが盾になってくれなければ、おそらくその場で死んでいた。
「身を挺して守ったのに、自分が困っているときは、手を差し伸べないひどい奴だと思っているか?」
誰もいない執務室で、エドワードの問いに答える者はいない。
誰かと話がしたい。
たわいのない話を。
ふいにバロンの顔が浮かんだ。
「あいつは、まだ万全な状態じゃない」
「泣いたり笑ったり、忙しい奴だぞ。メアリーの爆弾にも興味を示していた」
『マフィン爆弾か。懐かしいな』と笑うアーサーの声とともに『なあ、アーサー。準備ってこれでいいのか?』という少年の声が聞こえてくる。
「誰かいるのか?」
『通いのニュードメインだよ。ごめん、もう、時間だから切るね。あと、鹿の園の会員証は持っていない。……失くしてしまって、だから君に会い辛かったんだ』
―――プツン、と通信が途切れた。
「無くした?物持ちのいいお前が?」
エドワードは吹雪になってきた外を見て、窓を閉め鍵をかけた。
「解せない」
エドワードは、通信機を外しながら呟く。
窓の外は深々と雪が降っている。
幼い頃、ここでメアリーやダニエル、そしてアーサーと雪遊びをした。
ダニエルやメアリーの家は、英国の古くからの貴族で、必然と一緒に遊ばされていた。
アーサーは、後から仲間になったのだ。
彼の両親はロシアの名だたる宝石商で、世界中に鉱山を所有していたがアーサーが幼い頃、ロシアで革命が起こり英国に亡命してきた。
そして、英国で生活基盤を作るため、そして地位を獲得するために、世界中のジュエラーがよだれを垂らす希少な宝石を王家に献上した。王家は爵位という形でアーサー一家にお礼をした。
中世ならいざ知らず、爵位制度など無くても生活するのに困りはしないが、ステイタスとして得たがる人間は後を絶たない。しかし、爵位自身体が飽和状態で何代王家に尽くしても、得れない者がほとんどだ。
当然、よそ者のアーサー一家が物で王家を釣ったと、批判の的となった。
「ロシアのエセ貴族」。
それが当時のアーサーのあだ名だ。
当時、王であったエドワードの父ギルバートの好感度も急落した。しかし、そうなることは分かっていたし、そうまでして王家は財源を得なければならなかった。
秘密裏に行われていた細胞研究に、多額の資金を必要としていたからだ。
両親たちの思惑を知ったのはエドワードが十代に入ってからで、アーサーと出会った五歳の頃は知りもしなかった。
一緒に遊んだのは、「私は次期国王で、弱い者を守らねばならない」という子供じみた尊大な義務感からだ。察しのよかったアーサーは子供ながらどのようにして英国で生きていけばいいのか分かっていたようで、エドワードの前で出過ぎることも無かったし、貰った物はなんでも喜んで大切にした。
冷えた窓辺に立っていると、左脇の古傷が、シグナルを発するかのように、ジンジンと痛みだす。
エドワードはそこを押えながら、呟いた。
「私を恨んでいるのか?」
十二才でテロにあった時の傷だ。
長く昏睡状態に陥るほど重症だったが、アーサーが盾になってくれなければ、おそらくその場で死んでいた。
「身を挺して守ったのに、自分が困っているときは、手を差し伸べないひどい奴だと思っているか?」
誰もいない執務室で、エドワードの問いに答える者はいない。
誰かと話がしたい。
たわいのない話を。
ふいにバロンの顔が浮かんだ。
「あいつは、まだ万全な状態じゃない」
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