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第ニ章 ベリル
62:絶対に、失敗したくなくて。君とずっと一緒にいたくて。もう、絶対に失いたくなくてっ
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ベリルはアーサーの腕の中で頷く。
背後で「ああ、よかった、よかった。ボク、焦っちゃったよ」とふざけた調子でルシウスが起き上がる。
ダニエルは、苦虫を噛み潰すかのような顔で振り向き、笑っているルシウスにもう一発平手を張る。
「頼むっ。もう殴るな」
ダニエルにコートのえりあしを掴まれて立たされたルシウスは、口元の血を拭いもせずに言う。
「心配ないよ、ベリル。こんなの、甘噛みみたいなものだし」
すると、ダニエルがルシウスの髪を掴んだ。
「よりによって、ベリルをこんなところに連れてくるなんて、お前、こいつを殺したいのか?一緒に暮らすようになって、人の心というものを教えてきたつもりだ」
「だって、ボクは人じゃない。ある日、十七才で目覚めさせられたドメインだ」
のけ反ったルシウスは、先ほどより激しく笑い出す。
ダニエルは、ルシウスの髪の束を掴んでギリギリと締め上げた。
「何で、こんなことをした?」
すると、ルシウスがゾッとするような美しさで笑う。
「だって、定期的に刺激を与えてやらないと、ダニエル、ボクに飽きちゃうだろ?」
ダニエルの、目元がピクピクと動く。
そして、力任せにルシウスの血の付いた口元を親指で拭った。
すると、ルシウスが甘える猫みたいに、ダニエルに縋りつく。
「なあ。家で、身体重ねるんだろ?」
「黙れ。帰るぞ」
ダニエルは、肩を落としルシウスを引きずって歩き出す。
そして、振り向かずに言った。
「アーサー。ベリルは一過性の痙攣で大事なさそうだ。でも、ラボで様子を見ておくか?」
「ベリルよりルシウスの方が一大事だよ、ダニエル」
「そうかもな。すまない、アーサー。ベリル。この詫びは必ず」
すると、ルシウスがダニエルの声に被せるようにして叫ぶ。
「ラボのどうでもいいオールドドメインなんてほっといて、昼までしよう。なんなら夕方までだっていい」
「黙れっ!!」
「ウルセー!鹿の園の会員証を、大事にラボの机に隠していたくせに」
「隠してたんじゃねえ。すっかり存在を忘れていただけだ」
二人のケンカする声は、二人が東門を出て行ってからも暫く聞こえていた。
雪の積もる地面に座ったまま抱き合っていると、突風が吹いて、アーサーが寒そうに首を縮込めた。
「アーサー、コートは?」
「ダニエルから連絡を受けて、取る物も取らず商用先を飛び出してきてしまって」
「……ごめん」
頬に触れると、冷え切っていた。
アーサーが目を瞑ると、水滴が目元に滲む。
「本当に、ごめん」
「僕こそ、悪かった。ずっと秘密にするつもりはなかったんだ。おいおい話すつもりだった。ゆっくり時間をかけて。絶対に、失敗したくなくて。君とずっと一緒にいたくて。もう、絶対に失いたくなくてっ」
アーサーが力任せにベリルを押し倒してきた。
コートを着ていても、背中が冷たい。
アーサの肩が震え、熱い涙がポタポタと雫となって、ベリルの頬に落ちてきた。
背後で「ああ、よかった、よかった。ボク、焦っちゃったよ」とふざけた調子でルシウスが起き上がる。
ダニエルは、苦虫を噛み潰すかのような顔で振り向き、笑っているルシウスにもう一発平手を張る。
「頼むっ。もう殴るな」
ダニエルにコートのえりあしを掴まれて立たされたルシウスは、口元の血を拭いもせずに言う。
「心配ないよ、ベリル。こんなの、甘噛みみたいなものだし」
すると、ダニエルがルシウスの髪を掴んだ。
「よりによって、ベリルをこんなところに連れてくるなんて、お前、こいつを殺したいのか?一緒に暮らすようになって、人の心というものを教えてきたつもりだ」
「だって、ボクは人じゃない。ある日、十七才で目覚めさせられたドメインだ」
のけ反ったルシウスは、先ほどより激しく笑い出す。
ダニエルは、ルシウスの髪の束を掴んでギリギリと締め上げた。
「何で、こんなことをした?」
すると、ルシウスがゾッとするような美しさで笑う。
「だって、定期的に刺激を与えてやらないと、ダニエル、ボクに飽きちゃうだろ?」
ダニエルの、目元がピクピクと動く。
そして、力任せにルシウスの血の付いた口元を親指で拭った。
すると、ルシウスが甘える猫みたいに、ダニエルに縋りつく。
「なあ。家で、身体重ねるんだろ?」
「黙れ。帰るぞ」
ダニエルは、肩を落としルシウスを引きずって歩き出す。
そして、振り向かずに言った。
「アーサー。ベリルは一過性の痙攣で大事なさそうだ。でも、ラボで様子を見ておくか?」
「ベリルよりルシウスの方が一大事だよ、ダニエル」
「そうかもな。すまない、アーサー。ベリル。この詫びは必ず」
すると、ルシウスがダニエルの声に被せるようにして叫ぶ。
「ラボのどうでもいいオールドドメインなんてほっといて、昼までしよう。なんなら夕方までだっていい」
「黙れっ!!」
「ウルセー!鹿の園の会員証を、大事にラボの机に隠していたくせに」
「隠してたんじゃねえ。すっかり存在を忘れていただけだ」
二人のケンカする声は、二人が東門を出て行ってからも暫く聞こえていた。
雪の積もる地面に座ったまま抱き合っていると、突風が吹いて、アーサーが寒そうに首を縮込めた。
「アーサー、コートは?」
「ダニエルから連絡を受けて、取る物も取らず商用先を飛び出してきてしまって」
「……ごめん」
頬に触れると、冷え切っていた。
アーサーが目を瞑ると、水滴が目元に滲む。
「本当に、ごめん」
「僕こそ、悪かった。ずっと秘密にするつもりはなかったんだ。おいおい話すつもりだった。ゆっくり時間をかけて。絶対に、失敗したくなくて。君とずっと一緒にいたくて。もう、絶対に失いたくなくてっ」
アーサーが力任せにベリルを押し倒してきた。
コートを着ていても、背中が冷たい。
アーサの肩が震え、熱い涙がポタポタと雫となって、ベリルの頬に落ちてきた。
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