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第ニ章 ベリル

59:これでも人気があったんだ。異国の王族が、身内同士で取り合いして殺傷沙汰になるぐらい

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ただ、卑猥なだけだ。
「ア、アーサーとこの場所とどんな関係があるんだ?」
焦ったベリルは、ルシウスにタブレットをバンッと押し返す。
「興奮するなって。アーサーがこうやってこの子たちを選んでたってこと、教えてやってんのに」
「―――え?」
「暇だから、ライブラリー行こう」とルシウスが仕切りを出て行く。
「ちょっと待て。アーサーがここで何をしていたんだよ?」
ベリルの心臓が不自然な鼓動を刻み始める。
「ゆっくり教えてやるよ。焦んなって」
迎え入れてくれた美しい青年たちが、全員、接客のために玄関ホールからいなくなると、ルシウスは小走りに左の大きな通路に向かって駆けていく。そして、螺旋階段を駆け上ってとある部屋に飛び込んだ。
息を切らしながら、ベリルもついていく。
「この部屋、何?」
ルシウスが入った部屋は、一面が本で埋め尽くされていた。そして、壁には先ほどとは違う少年が、素肌にマントを羽織り、王冠にキスをしながら微笑えむ映像が映っていた。数秒するとまた、別の少年が映し出される。
ルシウスは、放心気味のベリルをソファーに座らせる。
「だから、ライブラリーだってば。ほら、これが歴代の王たち」
「歴代?何それ?それにこの部屋、臭い。ロベルトみたいな匂いがする」
「誰?」
ベリルがそのときの状況を説明すると、「それ、確実にやってんじゃん」とゲラゲラ笑い出した。
「やる?何を?その言葉、さっきも言ったよな?」
「アーサーったら、いつまでも、ベリルを純情なままにしておきたいんだなあ」
とルシウスはさらに笑い声を大きくする。
「ちゃんと説明しろよ」と言いかけたとき、また壁の映像が移り変わっていき、ベリルは目を見開いた。
そこには、ソファーにふんぞり返り、王冠を足蹴にしマントを羽織ったルシウスが映っている。
「ルシウス?!あんたが、いる」
しかし、ルシウスは、「あー、ボクね。かつては鹿の園の王だったからね」と興味なさげに言う。
「これでも人気があったんだ。異国の王族が、身内同士で取り合いして殺傷沙汰になるぐらい。予約しても数か月待ちは当たり前。ここにいるオールドドメイン全員の売り上げを足しても、ボクに敵わない日があったよ。けどね、時代は移り変わるんだ。ポッと出のオールドドメインに、王の座を取られちゃってね。名前はシファーチェ」
ゆっくりと、ルシウスの映像がかき消され、新しい少年の姿が壁に映し出される。
ソファーに足を組んで挑発的な態度で微笑むマントを羽織った少年は、王冠を鷲掴みにしていた。
漆黒の黒髪に黒い目。象牙色の肌。
「……オレだ」
『アアー』
くぐもった声がして、ベリルは膠着する。
何だ、この悲鳴のような、けど、甘い叫び声。
無意識に喉に手を当てる。
息苦しくなって、鼻から息を吸い込むと、据えた匂いにむせそうになる。
けれど、知らない匂いじゃない。
だって、壁に映し出された映像に自分は映っていた。
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