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第ニ章 ベリル

53:新人食いのアーサーとか

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ベックス宮殿も議会も商用の行き返りに何度も見たが、呆れるほどの大きさだ。
アリスは内緒話でもするかのように、夕刻の議事堂前の階段をヒソヒソ声で歩き始める。
『たった今、新ドメイン法が議会を通過しました。賛成派がピン差の勝利。これでオールドドメインたちの待遇は、本当に向上するのでしょうか?』
足を組んでスリッパをパタパタ鳴らしながら見ていたルシウスは、「やったよ、ダニエル。ボク、外出時にグローブつけられるようになった」と感情の籠らない声で言った。
すると、ルシウスによそってもらったシチューを食べながらダニエルが苦笑した。
「旧ドメイン法も、クソだったが、」
その続きをルシウスが、あうんの呼吸で引き取る。
「新ドメイン法もクソッ」
テレビ画面には、グローブを持って手の甲に数字を見せながら、議会の入り口前で喜ぶオールドドメインの姿が映しだされた。
細面の中年男性がマイクを持って興奮気味に叫ぶ。
『こちら、ウイリアム!見てください。ケビン首相が舵取りをした新ドメイン法が議会を通過し、熱狂的に喜ぶオールドドメインたちが集まっています』
一方、ダニエルの館では、
「これ、エキストラかな?」
とルシウス。
「時給幾らなのか、首相に聞いて来いよ」
とダニエル。
二人ともすごいことを言ってるなあとベリルは思いながら、聞いていた。
ダニエルが、テレビからベリルへと視線を移した。
「どうだ、アーサーとの暮らしは?」
「よく、分かんない」
「急に、泊まりに来たいなんて、何かあったのか?」
「聞きたいことがあってさ」
ベリルは、ホカホカと湯気を立てるシチューを見つめる。
「何だ?どうした?具合でも悪くて、アーサーには相談できないとかそういうことか?」
ダニエルは心配そうな顔で、身を乗り出してきたので、ベリルは首を振った。
「違う。聞きたいのは、アーサーがどんな人間かってこと」
「どんな人間?」
ダニエルは声を裏返す。
「あのまんまの男だ。優しくて、もろくて。でも、ああ見えて、土壇場のときに、物凄い勇気が出せる」
「でも、商用に出かけると変な噂を聞く」
「例えば?」
ダニエルは、ベリルに聞きながら、シチューに入った鶏肉をスプーンで掬って、口の中に放り込む。
「新人食いのアーサーとか」
「グッ」
鶏肉を咀嚼していたダニエルが、咳き込む。
「おまっ……」
「はいはいはいはい、ダニエル。落ち着いて」
椅子から飛び上がって背後に回ったルシウスが、ダニエルの背中をバンバンと叩く。
ようやく落ち着いたダニエルが涙目で言った。
「あんま、いい言葉じゃねえってことは、うすうす分かってんだろ?」
「じゃあ、スクリーニングって何?アーサーにぶっ壊されないよう注意しろって言われたけど、どういう意味?」
まいったなというようにダニエルが頭を掻き始める。
「やっぱ、それって真実?」
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