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第ニ章 ベリル

51:僕はアーサー様が大嫌いだ

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アダムはベリルを置いて、タタタッと階段を降りて行ってしまう。
「ハハッ。スクリーニングされて、真っさらに近い状態になったオールドドメインって、好奇心旺盛であどけないよなあ。けど、すぐ、俺みたいに汚れちゃうんだろうけど。で、ベリル。俺はさ、あんたの採点では何点?」
「オレがロベルトの点数をつけるのか?何の点数だ?」
問いかけても、「ま、王の手腕にはとてもじゃないが、敵わねえだろうな。たった五日でも、王は王だ」とおかしな返答をしてきた。
そして、「また、アーサー様にぶっ壊されないよう、今度は長持ちしろよ」と笑いながら扉を閉めた。
混乱を抱えたまま階下に降りていくと、さっきベリルがいた部屋でアーサーがしきりに恐縮していた。
「マダム。こんなにお買い上げいただいてすみません」
「遠慮はいいのよ。あなた、また鉱山を一つ売りに出したんですって?本当にやっていけるの?ベリルが大切なのは分かるけれど、私だってあなたの元後見人。親みたいなものなんですからね」
「ええ。なんとか」
女性は「そう?心配だわ」と言って、チェインに紙と羽ペンを持ってこさせ、さらさらと筆を走らせた。
「私のお友達の住所と名前。あなたのことはもう紹介しておいたから、近いうち訪ねてごらんなさい。貴方のデザインする宝石をとても気に入っている方だから」
「ありがとうございます」
すると女性は、アーサーの両手を取って言い聞かせた。
「寂しいからって昔みたいに、いかがわしいパーティーのハシゴをしたり、良くない場所を宿みたいに使ってはなりませんよ」
「はい。マダム」
まるで叱られた子供みたいに素直に返事をしたアーサーは、戻って来たベリルを見つけて、女性に暇を告げた。
「隣り同士なのに、なかなか会えなくて寂しいわ。気軽に遊びに来てね」
玄関先で、女性と三体のオールドドメインが見送ってくれた。
「じゃあね、ベリル」
「また、遊ぼう」
とアダムとスティーブが手を振る。
彼らより後ろに控えていたチェインが前に出て来て、「友達になれた記念にハグさせて欲しい」と両手を広げてきた。
「う、うん」
たいして話もしなかったのに、と違和感を覚えていると、アーサーに促された。
チェインの手がベリルの背中に回る。ベリルも、それに倣った。
すると、チェインがベリルの髪に顔を埋めてくる。そして、早口で言った。
「僕はアーサー様が大嫌いだ」
予想もしない告白だった。
身体を離そうとすると、チェインが力を込めて抱きしめてくる。
「気を付けるんだよ。どうにもならない状況になったら、マダムを頼るといい。なんとかしてくれると思う」
と早口で囁いたチェインは、ようやくベリルを離し、
「今日は会えてうれしかったよ!ベリル」
と嘘くさい笑顔を見せた。
そして、隣家訪問から十日があっという間に過ぎた。
二月の半ばに近くなり、英国の冬はますます厳しさを増していた。
商用の帰りの馬車の中で、ベリルはアーサーを盗み見ていた。
どうして、この男は、そんなよくないことばかり言われるのだろう?
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