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第ニ章 ベリル

48:この人とオレ、会ったことある?

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ウォークインクローゼットのような部屋は、全部が棚になっていて、中央に背もたれのないソファーがある。棚にはジュエリーケースに入った宝石が等間隔で並んでいた。
シルバーやプラチナに埋め込まれた色んな色の宝石が輝いている。
「すごい。綺麗だ」
「僕が、デザインしているんだ。実家は代々、宝石商でね。小さい頃から、鑑定やデザインを学んできたから」
アーサーは、トランクにジュエリーケースに入った宝石を次々と詰めていく。
そして、奥に手を伸ばして「ああ。懐かしいな」と言いながら本くらいの大きさの銀色の箱を取り出した。
アーサーがソファーに座って、ベリルに隣に腰掛けるように言う。
銀の箱が開けられ、ベリルは驚きの声を上げた。
白、黒、赤、青、緑、黄色と六色の小さな宝石が並んでいる。大きさはクオリティーチェックで使った0.1カラットのメレダイヤぐらい。でも、輝きが圧倒的だ。
「昔、僕と幼馴染二人がアン女王から頂いたんだ。大切な相手ができたとき、ペアで使いなさいってね」
アーサーがポケットから小さなタブレットを取り出す。「アン女王を」とタブレットに向かって言ったのち、それをベリルに渡してきた。
黒いベールを被った女性が、墓の前で祈っていた。
顔は見えない。
けれど、この後ろ姿、知らない相手ではない気がする。
「この人とオレ、会ったことある?」
「爵位を持っていたとしても、謁見は難しい方だよ。とても、お忙しいから」
「そっか」
勘違いかと思いなおし、ベリルは銀の箱の中で光る宝石を見つめる。
「アーサーが貰った石はどれ?」
すると、緑と黄色の石が指差される。
「君のベリルという名前の由来にもなっている」
「オレの?」
自分の名前なんて、意味のない言葉の羅列かと思っていた。
「詳しく教えて!」
アーサーは白手袋をはめて、緑と黄色の宝石を手のひらに乗せた。
「ベリルという石は、時間が経つと色も構造も変化する不思議な石なんだ。成長石とも呼ばれている」
「成長?オールドドメインのオレは、百六十九センチ、五十四キロ、十五才の設定のままじゃないの?」
「確かに見た目は変わらないかもしれないけれど、心が変わっていく。色んなことを覚えてね」
「なあ。、何で、この宝石と同じ名前を付けてくれたんだ?大切な相手ができたとき、ペアで使えってアン女王に言われた宝石の名を」
ベリルの質問にアーサーは答えず、銀の箱を閉じた。
棚にそれを戻す背中に向かってベリルは聞いた。
「アーサー。……聞いてもいいか?」
「どうしたの、そんな沈んだ声で」
「オレは、この緑か黄色の石のどちらかを……アーサーから……貰える可能性はあったりするのか?」
「……」
沈黙が何よりの答えなのに、「何で?」とベリルは聞いていた。
無理やり聞き出したって、心が痛むだけなのは分かっているのに。
もう大切な相手がいるから?
オールドドメインは、人間の大切な相手にはなりえないから?
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