【完結】王と伯爵に捧げる七つの指輪

遊佐ミチル

文字の大きさ
上 下
46 / 280
第ニ章 ベリル

46:だって、気持ちが良かったし

しおりを挟む
何だ、簡単じゃないか。
ベリルは身体の力を抜いて、目を瞑る。
強い独占欲が湧いて来て、この場所は誰にも譲らないと決めた。
 
「違う。それでは、職人の持ち方だ」
プレゼントされた白手袋を付けて、リング型のルーペを人差し指にはめて宝石を覗いていると、アーサーから注意が飛んだ。
ニューイヤーの月から一ヶ月時は進んで、二月になった。
今は、英国で一番、寒い時期だ。
しかし、ベリルの部屋にはオイルヒーターが焚かれ、じんわりと温かい。
部屋全体を瞬時に温めるシステムもアーサーの館にはあったが、ベリルは、このアンティークな暖房が好きだった。
アーサーの体温と似ているからだ。
「肘が上がっている。宝石の鑑定士は、肘は垂直に、胸にくっつけるようにしてルーペを見て、宝石を鑑定する」
肘を掴まれて、胸元にくっつけさせられる。
「アーサーって、力が強いんだな。さすが、大人って感じだ」
「僕は並だよ。軍人のエドワードの足元にも及ばない」
「でも、オレ、ベッドに引きづり込まれた」
あのときのぬくもりが嬉しくて、ベリルは照れ笑いをする。
「あれは寝ぼけていた僕が悪かった。でも、数時間も僕の腕の中でじっとしていた君も君だ」
「だって、気持ちが良かったし」
「助手はああいうことはしない」
「そうだけど」
これは、おかしい感覚なのだろうか?
上手く口では説明できないけれど、絶対に間違えていない自信があるのに。
アーサーが、話題を変えた。
「この標本箱の宝石の観察も、そろそろ、飽きてきただろう?僕が見習い時代に使っていたこれをあげるから、今日から別の鑑定練習をしてみよう」
アーサーは、ポケットから手のひらサイズの、ギッシリ膨らんだ白い袋を取り出す。
テーブルの上に柔らかい布を引くと、そこに白い袋の中身を出した。
パラパラと白色に輝く宝石が、大量に出てくる。
「すごい。光り方が段違いだ!!」
「これは、メレダイヤといって、0.1カラット以下の小粒のダイヤだ。傷、気泡の位置、透明度がそれぞれ、違う。鑑定士見習いは、ルーペで一個一個見て、クオリティーチェックする。きっと最初のうちは一日かかっても終わらないかもしれないけれど、慣れてきたら一時間も経たないうちに全てチェックできるようになるよ」
アーサーは、ブックスタンドに挟まれたノートを一冊取り出した。そして、すぐにパタンと閉じてしまう。
きっと、前、この館にいた奴が使ったノートだったんだろうなとベリルは気付くが、「そいつは、誰?」とは聞けない。
 アーサーは過去に浸って生きているから、聞いたら悲しむのが目に見えている。
彼の片耳にかけた通信機がツーツ―と鳴った。
すると、痙攣したかのように、アーサーは身体をビクつかせる。
「……はい。アーサーです」
第一声は物凄く暗かったのだが、「ああ、マダム!お久しぶりです!!」と声色が急に変わった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】人型兵器は電気猫の夢を見るか?

有喜多亜里
BL
【猫キチ男が猫型ロボットを撫で回している、なんちゃってスペースファンタジー(コメディ寄り)】 別宇宙から現れて軍艦を襲う〝何か〟。その〝何か〟に対抗するため、天才少年博士ナイトリーは四体の人型兵器を作り、銀河系を四分する各勢力にパイロット供出を要請した。だが、二年後のある日、ナイトリーは謎の死を遂げてしまう。周囲は頭を抱えるが、パイロットの一人・カガミが飼っている猫型ロボットの中にナイトリーの記憶の一部が潜んでいた。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-

ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。 自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。 28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。 いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して! この世界は無い物ばかり。 現代知識を使い生産チートを目指します。 ※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。

消えない思い

樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。 高校3年生 矢野浩二 α 高校3年生 佐々木裕也 α 高校1年生 赤城要 Ω 赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。 自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。 そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。 でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。 彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。 そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。

ざまぁから始まるモブの成り上がり!〜現実とゲームは違うのだよ!〜

KeyBow
ファンタジー
カクヨムで異世界もの週間ランク70位! VRMMORゲームの大会のネタ副賞の異世界転生は本物だった!しかもモブスタート!? 副賞は異世界転移権。ネタ特典だと思ったが、何故かリアル異世界に転移した。これは無双の予感?いえ一般人のモブとしてスタートでした!! ある女神の妨害工作により本来出会える仲間は冒頭で死亡・・・ ゲームとリアルの違いに戸惑いつつも、メインヒロインとの出会いがあるのか?あるよね?と主人公は思うのだが・・・ しかし主人公はそんな妨害をゲーム知識で切り抜け、無双していく!

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

後輩に嫌われたと思った先輩と その先輩から突然ブロックされた後輩との、その後の話し…

まゆゆ
BL
澄 真広 (スミ マヒロ) は、高校三年の卒業式の日から。 5年に渡って拗らせた恋を抱えていた。 相手は、後輩の久元 朱 (クモト シュウ) 5年前の卒業式の日、想いを告げるか迷いながら待って居たが、シュウは現れず。振られたと思い込む。 一方で、シュウは、澄が急に自分をブロックしてきた事にショックを受ける。 唯一自分を、励ましてくれた先輩からのブロックを時折思い出しては、辛くなっていた。 それは、澄も同じであの日、来てくれたら今とは違っていたはずで仮に振られたとしても、ここまで拗らせることもなかったと考えていた。 そんな5年後の今、シュウは住み込み先で失敗して追い出された途方に暮れていた。 そこへ社会人となっていた澄と再会する。 果たして5年越しの恋は、動き出すのか? 表紙のイラストは、Daysさんで作らせていただきました。

処理中です...