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第ニ章 ベリル
46:だって、気持ちが良かったし
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何だ、簡単じゃないか。
ベリルは身体の力を抜いて、目を瞑る。
強い独占欲が湧いて来て、この場所は誰にも譲らないと決めた。
「違う。それでは、職人の持ち方だ」
プレゼントされた白手袋を付けて、リング型のルーペを人差し指にはめて宝石を覗いていると、アーサーから注意が飛んだ。
ニューイヤーの月から一ヶ月時は進んで、二月になった。
今は、英国で一番、寒い時期だ。
しかし、ベリルの部屋にはオイルヒーターが焚かれ、じんわりと温かい。
部屋全体を瞬時に温めるシステムもアーサーの館にはあったが、ベリルは、このアンティークな暖房が好きだった。
アーサーの体温と似ているからだ。
「肘が上がっている。宝石の鑑定士は、肘は垂直に、胸にくっつけるようにしてルーペを見て、宝石を鑑定する」
肘を掴まれて、胸元にくっつけさせられる。
「アーサーって、力が強いんだな。さすが、大人って感じだ」
「僕は並だよ。軍人のエドワードの足元にも及ばない」
「でも、オレ、ベッドに引きづり込まれた」
あのときのぬくもりが嬉しくて、ベリルは照れ笑いをする。
「あれは寝ぼけていた僕が悪かった。でも、数時間も僕の腕の中でじっとしていた君も君だ」
「だって、気持ちが良かったし」
「助手はああいうことはしない」
「そうだけど」
これは、おかしい感覚なのだろうか?
上手く口では説明できないけれど、絶対に間違えていない自信があるのに。
アーサーが、話題を変えた。
「この標本箱の宝石の観察も、そろそろ、飽きてきただろう?僕が見習い時代に使っていたこれをあげるから、今日から別の鑑定練習をしてみよう」
アーサーは、ポケットから手のひらサイズの、ギッシリ膨らんだ白い袋を取り出す。
テーブルの上に柔らかい布を引くと、そこに白い袋の中身を出した。
パラパラと白色に輝く宝石が、大量に出てくる。
「すごい。光り方が段違いだ!!」
「これは、メレダイヤといって、0.1カラット以下の小粒のダイヤだ。傷、気泡の位置、透明度がそれぞれ、違う。鑑定士見習いは、ルーペで一個一個見て、クオリティーチェックする。きっと最初のうちは一日かかっても終わらないかもしれないけれど、慣れてきたら一時間も経たないうちに全てチェックできるようになるよ」
アーサーは、ブックスタンドに挟まれたノートを一冊取り出した。そして、すぐにパタンと閉じてしまう。
きっと、前、この館にいた奴が使ったノートだったんだろうなとベリルは気付くが、「そいつは、誰?」とは聞けない。
アーサーは過去に浸って生きているから、聞いたら悲しむのが目に見えている。
彼の片耳にかけた通信機がツーツ―と鳴った。
すると、痙攣したかのように、アーサーは身体をビクつかせる。
「……はい。アーサーです」
第一声は物凄く暗かったのだが、「ああ、マダム!お久しぶりです!!」と声色が急に変わった。
ベリルは身体の力を抜いて、目を瞑る。
強い独占欲が湧いて来て、この場所は誰にも譲らないと決めた。
「違う。それでは、職人の持ち方だ」
プレゼントされた白手袋を付けて、リング型のルーペを人差し指にはめて宝石を覗いていると、アーサーから注意が飛んだ。
ニューイヤーの月から一ヶ月時は進んで、二月になった。
今は、英国で一番、寒い時期だ。
しかし、ベリルの部屋にはオイルヒーターが焚かれ、じんわりと温かい。
部屋全体を瞬時に温めるシステムもアーサーの館にはあったが、ベリルは、このアンティークな暖房が好きだった。
アーサーの体温と似ているからだ。
「肘が上がっている。宝石の鑑定士は、肘は垂直に、胸にくっつけるようにしてルーペを見て、宝石を鑑定する」
肘を掴まれて、胸元にくっつけさせられる。
「アーサーって、力が強いんだな。さすが、大人って感じだ」
「僕は並だよ。軍人のエドワードの足元にも及ばない」
「でも、オレ、ベッドに引きづり込まれた」
あのときのぬくもりが嬉しくて、ベリルは照れ笑いをする。
「あれは寝ぼけていた僕が悪かった。でも、数時間も僕の腕の中でじっとしていた君も君だ」
「だって、気持ちが良かったし」
「助手はああいうことはしない」
「そうだけど」
これは、おかしい感覚なのだろうか?
上手く口では説明できないけれど、絶対に間違えていない自信があるのに。
アーサーが、話題を変えた。
「この標本箱の宝石の観察も、そろそろ、飽きてきただろう?僕が見習い時代に使っていたこれをあげるから、今日から別の鑑定練習をしてみよう」
アーサーは、ポケットから手のひらサイズの、ギッシリ膨らんだ白い袋を取り出す。
テーブルの上に柔らかい布を引くと、そこに白い袋の中身を出した。
パラパラと白色に輝く宝石が、大量に出てくる。
「すごい。光り方が段違いだ!!」
「これは、メレダイヤといって、0.1カラット以下の小粒のダイヤだ。傷、気泡の位置、透明度がそれぞれ、違う。鑑定士見習いは、ルーペで一個一個見て、クオリティーチェックする。きっと最初のうちは一日かかっても終わらないかもしれないけれど、慣れてきたら一時間も経たないうちに全てチェックできるようになるよ」
アーサーは、ブックスタンドに挟まれたノートを一冊取り出した。そして、すぐにパタンと閉じてしまう。
きっと、前、この館にいた奴が使ったノートだったんだろうなとベリルは気付くが、「そいつは、誰?」とは聞けない。
アーサーは過去に浸って生きているから、聞いたら悲しむのが目に見えている。
彼の片耳にかけた通信機がツーツ―と鳴った。
すると、痙攣したかのように、アーサーは身体をビクつかせる。
「……はい。アーサーです」
第一声は物凄く暗かったのだが、「ああ、マダム!お久しぶりです!!」と声色が急に変わった。
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