33 / 280
第一章 バロン
33:シファーチェの行方は……知っている?
しおりを挟む
治療を受けるドメインが入るものだ。
そこにモデルのように美しい男が膝をついて、カプセルを覗き込んでいた。
ルシウスと同じく金の髪に青い目。年齢は二十代後半といったところか。
今にも泣き出しそうに瞳が潤んでいた。
「バロン、こっちだよ」
ルシウスが手招きして、二人を休憩室へと案内する。
休憩室には、テーブルや椅子、簡易ベッドがあって、ダニエルやスタッフの私物なのか、服やタブレット、スナック菓子などが置かれていた。
さっさと椅子に座ったエドワードは、挙動不審なバロンを見つめる。
「さっきからどうした、様子がおかしいぞ?古巣の知り合いに忘れられていたのが、そんなにショックだったのか?」
エドワードは腕組みをし、指をトントンと動かし始める。イライラし始めた証拠だ。
「それとも、鹿の園の放火の件を、ルシウスに謝りたいのか?ならさっさと、謝ればいい。謝っても許してもらえないかもしれないが、謝ったことには変わりはない」
やがて、ルシウスがコーヒーカップが入ったトレーを持って入って来た。
「殿下、コーヒーでいい?あと、マフィンありがとう。キッチンが甘い匂いでいっぱいだ」
「覚悟して食べてくれ」
コーヒーカップの乗ったソーサーを受け取りながら、エドワードが答える。
「ルシウス。バロンが、伝えたいことがあるそうだ」
「へ?何?」
エドワードに給仕していたルシウスがくるっと振り向いて、美貌の顔で近づいて来る。
「あの、その」
確かに、放火事件のことも、心に重くのしかかっているのだが、今、気になっているのは……。
「さっさと言え、バロン」
エドワードにどやされて、バロンはようやく口を開いた。
「……鹿の園の放火、犯人は俺なんだ。ケガはなかった?」
すると、ルシウスは片眉をクッと寄せたまま、意味が分からないという顔をしている。
「鹿の園の放火?ああ、あったあった。そういえばそんな事件。けど、ボクはその頃はもう、ダニエルに買い取られてあそこには居なかったよ」
バロンが探している少年に地位を取って代わられ、王のランクより下位の公爵に落ちたと言っても、伝説的な人気だったルシウスだ。買い取ったダニエルという男、よほどの財力があるのだろう。
ヨレヨレの白衣姿からは想像できないが。
ああ、そうか。ここは裏で違法なことをやっている違法な闇ラボなんだ。
だから、自分はここに。
全てがきっちり繋がったような気がした。
ポンと、ルシウスがバロンの肩を叩いた。
「あんまり気にするなって。オーナーや客に仕返ししたいドメインなんて、腐る程いるだろうし。けど、まあ、実行に移す、移さないっていう大きな差はあるだろうけど」
ピッと音を立てて、心を裂かれた気がした。
痛みで心の感覚が麻痺しかけているまま、バロンは聞いた。
「シファーチェの行方は……知っている?」
少年の名を、久しぶりに口に出した。
「俺の放火事件以来、鹿の園のホームページに出て来ないんだ」
すると、ルシウスはまるで楽しいことを話すかのように、微笑を浮かべた。
「あいつ?死んだよ」
「……」
「ルシウスー!!ちょっと来てくれ」
そこにモデルのように美しい男が膝をついて、カプセルを覗き込んでいた。
ルシウスと同じく金の髪に青い目。年齢は二十代後半といったところか。
今にも泣き出しそうに瞳が潤んでいた。
「バロン、こっちだよ」
ルシウスが手招きして、二人を休憩室へと案内する。
休憩室には、テーブルや椅子、簡易ベッドがあって、ダニエルやスタッフの私物なのか、服やタブレット、スナック菓子などが置かれていた。
さっさと椅子に座ったエドワードは、挙動不審なバロンを見つめる。
「さっきからどうした、様子がおかしいぞ?古巣の知り合いに忘れられていたのが、そんなにショックだったのか?」
エドワードは腕組みをし、指をトントンと動かし始める。イライラし始めた証拠だ。
「それとも、鹿の園の放火の件を、ルシウスに謝りたいのか?ならさっさと、謝ればいい。謝っても許してもらえないかもしれないが、謝ったことには変わりはない」
やがて、ルシウスがコーヒーカップが入ったトレーを持って入って来た。
「殿下、コーヒーでいい?あと、マフィンありがとう。キッチンが甘い匂いでいっぱいだ」
「覚悟して食べてくれ」
コーヒーカップの乗ったソーサーを受け取りながら、エドワードが答える。
「ルシウス。バロンが、伝えたいことがあるそうだ」
「へ?何?」
エドワードに給仕していたルシウスがくるっと振り向いて、美貌の顔で近づいて来る。
「あの、その」
確かに、放火事件のことも、心に重くのしかかっているのだが、今、気になっているのは……。
「さっさと言え、バロン」
エドワードにどやされて、バロンはようやく口を開いた。
「……鹿の園の放火、犯人は俺なんだ。ケガはなかった?」
すると、ルシウスは片眉をクッと寄せたまま、意味が分からないという顔をしている。
「鹿の園の放火?ああ、あったあった。そういえばそんな事件。けど、ボクはその頃はもう、ダニエルに買い取られてあそこには居なかったよ」
バロンが探している少年に地位を取って代わられ、王のランクより下位の公爵に落ちたと言っても、伝説的な人気だったルシウスだ。買い取ったダニエルという男、よほどの財力があるのだろう。
ヨレヨレの白衣姿からは想像できないが。
ああ、そうか。ここは裏で違法なことをやっている違法な闇ラボなんだ。
だから、自分はここに。
全てがきっちり繋がったような気がした。
ポンと、ルシウスがバロンの肩を叩いた。
「あんまり気にするなって。オーナーや客に仕返ししたいドメインなんて、腐る程いるだろうし。けど、まあ、実行に移す、移さないっていう大きな差はあるだろうけど」
ピッと音を立てて、心を裂かれた気がした。
痛みで心の感覚が麻痺しかけているまま、バロンは聞いた。
「シファーチェの行方は……知っている?」
少年の名を、久しぶりに口に出した。
「俺の放火事件以来、鹿の園のホームページに出て来ないんだ」
すると、ルシウスはまるで楽しいことを話すかのように、微笑を浮かべた。
「あいつ?死んだよ」
「……」
「ルシウスー!!ちょっと来てくれ」
0
お気に入りに追加
32
あなたにおすすめの小説
【完結】人型兵器は電気猫の夢を見るか?
有喜多亜里
BL
【猫キチ男が猫型ロボットを撫で回している、なんちゃってスペースファンタジー(コメディ寄り)】
別宇宙から現れて軍艦を襲う〝何か〟。その〝何か〟に対抗するため、天才少年博士ナイトリーは四体の人型兵器を作り、銀河系を四分する各勢力にパイロット供出を要請した。だが、二年後のある日、ナイトリーは謎の死を遂げてしまう。周囲は頭を抱えるが、パイロットの一人・カガミが飼っている猫型ロボットの中にナイトリーの記憶の一部が潜んでいた。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-
ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。
自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。
そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。
安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。
いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して!
この世界は無い物ばかり。
現代知識を使い生産チートを目指します。
※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。
消えない思い
樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。
高校3年生 矢野浩二 α
高校3年生 佐々木裕也 α
高校1年生 赤城要 Ω
赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。
自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。
そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。
でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。
彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。
そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。
ざまぁから始まるモブの成り上がり!〜現実とゲームは違うのだよ!〜
KeyBow
ファンタジー
カクヨムで異世界もの週間ランク70位!
VRMMORゲームの大会のネタ副賞の異世界転生は本物だった!しかもモブスタート!?
副賞は異世界転移権。ネタ特典だと思ったが、何故かリアル異世界に転移した。これは無双の予感?いえ一般人のモブとしてスタートでした!!
ある女神の妨害工作により本来出会える仲間は冒頭で死亡・・・
ゲームとリアルの違いに戸惑いつつも、メインヒロインとの出会いがあるのか?あるよね?と主人公は思うのだが・・・
しかし主人公はそんな妨害をゲーム知識で切り抜け、無双していく!

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
後輩に嫌われたと思った先輩と その先輩から突然ブロックされた後輩との、その後の話し…
まゆゆ
BL
澄 真広 (スミ マヒロ) は、高校三年の卒業式の日から。
5年に渡って拗らせた恋を抱えていた。
相手は、後輩の久元 朱 (クモト シュウ) 5年前の卒業式の日、想いを告げるか迷いながら待って居たが、シュウは現れず。振られたと思い込む。
一方で、シュウは、澄が急に自分をブロックしてきた事にショックを受ける。
唯一自分を、励ましてくれた先輩からのブロックを時折思い出しては、辛くなっていた。
それは、澄も同じであの日、来てくれたら今とは違っていたはずで仮に振られたとしても、ここまで拗らせることもなかったと考えていた。
そんな5年後の今、シュウは住み込み先で失敗して追い出された途方に暮れていた。
そこへ社会人となっていた澄と再会する。
果たして5年越しの恋は、動き出すのか?
表紙のイラストは、Daysさんで作らせていただきました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる