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第一章 バロン

31:名前はルシウス。俺のパートナーだ

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エドワードとダニエルが先に立って歩き出す。
「来客が他にもあるんだ。少し、待てるか」
「ああ、構わない。今日は一日、公務はない」
ダニエルは、耳にかけた通信機器で「おい、ルシウス。客だ、挨拶しろ」と通話する。
聞き覚えのある名前だった。
バロンの放火によって消えた少年の前に、王の座にいた少年で、君臨した長さと美貌、それに口の悪さが群を抜いていた。
これだと他のオールドドメイン男娼に嫌われそうなものだが、取り巻きが重要と熟知しているのか、客から貰ったチップでチョコレートやシャンパンを大量に買ってきては、ランクが下の、あまり贅沢ができない同僚に配っていた。
バロンも、何度もその恩恵にあずかったことがある。
人間から施しを受けるならまだしも、同種からこんなことをされるなんて、格差を感じるなあと毎回情けなく思っていた。
「昼寝してたのに何だよ、急に。ドメイン使いが荒いなあ、ダニエルは」
肩までの金髪を無造作に結った青い目をした細身の少年が、眠そうな顔で館の扉を開けて出てくる。
身体の薄さを際立たせるようなタートルネックを着ていて手の甲には、数字が羅列された刻印があった。
やっぱり、彼だ。
バロンは罪の意識で棒立ちになった。
だが、ルシウスは、エドワードやダニエルの影になっているバロンの存在に気付かない。
「うわっ。エドワード王太子殿下だ」
と驚きの声を上げる。
「名前はルシウス。俺のパートナーだ」
とダニエルが紹介する。
「随分、綺麗な顔をしている」
すると、ルシウスが小憎たらしい笑顔を見せた。
「エドワード王太子殿下。それは、ボクが鹿の園出身のオールドドメイン男娼だからだよ」
「おい、ルシウス。わざわざ自分から言うことないだろう、そんなこと」
とダニエルは渋い顔だ。
「呼び方は、殿下でいい。ダニエルが世話をかけていることだろう。末永くあいつをよろしく。ああ、鹿の園と言えば、バロンもそうだ」
急に話を振られ、バロンの頭は真っ白になる。
「あの……俺」
しかし、ルシウスは、バロンを暫く見つめた後、首を傾げる。
「バロン、誰だっけ?ごめん、ボク、全然、覚えてないや」
上空で風を切る音がして、ルシウスが空を見上げてしまったので、話はそこで終わってしまった。
ファルコン(ハヤブサ)を模した配送ドローンが、くちばしに白い箱を咥えて旋回している。
「あ、そうだ。今日だったんだ。おーい、こっち」
ルシウスが手を上げると、ファルコンがゆっくりと降下してきた。
時速二百キロで飛ぶ小型運搬機で、最初は山間部などにいる患者に緊急薬を届ける機械として日本で開発された。世に出た当初から時速百キロのスピードで空を飛び、荷物を届けることが可能で、あっという間に世界に広まって、小型荷物運搬のシェアを独占している。
英国では管轄は運輸省で、配送ドローン専用の飛行区域を指定したり、監視ドローンを飛ばして飛行区域から外れた配送ドローンを、人のいない地域に打ち落としたりするなどしている。
ベックス宮殿と議会は特別区になっていて、配送ドローンは通過できない。
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