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第一章 バロン

28:お前は、こうされて、親密な情を感じるか?

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 ハッとして、指で触れる。
「あの、これ……」
「網を被って巣箱からハチミツを採ったのだが、ハチが紛れてしまってな。心配ない。毒のあるハチではないから、数日で治る」
指を離すと、エドワードが小瓶を開けた。小指で掬って、朝日のように黄色い液体をバロンの口に近づけてくる。
「甘いのが好きなら、舐めてみろ。疲れた身体にもいいらしい」
「舐める?え?」
「早く。垂れる」
これは、命令だ。
やけくそになって、エドワードの小指を咥えた。
粘性の高いハチミツはエドワードの小指に絡みついていて、舌で舐めとるのに苦労した。
この絵面、なんだか恥ずかしい。
そう思っているとエドワードが空いている手で、バロンの左頬に触れて来た。
バロンは、慌てて小指を離す。
「そっちは、……勘弁し……」
拒否するが、エドワードはさらにもう一方の手でも、バロンの頬を触って来て、両方を抑え込む。
背筋が、ゾワゾワする。
「お前は、こうされて、親密な情を感じるか?」
「感じますっ……けど」
「けど?」
「殿下の触り方は、それ以外の……」
バロンの声は、尻つぼみになる。
「性的なものも感じるというのか?安心しろ。私は、嫌がるお前を使って、どうこうしたいわけじゃない。もっと簡易的なやり方で処理できることを知っているし、誰かと身体を重ねるのは、面倒という思いの方が強い」
「……じゃあ、なんで、……こんなこと」
背中を伝って尾骨まで刺激が走り始め、バロンは切れ切れに言う。
「さあ。何でだろうな?泣きそうな顔をされるよりは、いいからじゃないか?」
全然、答えになっていないっ。
息が上がって来て、ようやくエドワードが触るのを止めてくれた。
左の髪を描き上げられて、バロンは隠すために寝返りを打つ。
エドワードが言った。
「もう、私に同行するのは限界か?」
「それを判断するのは、俺ではありませんから」
少しの間、傍らに黙って座っていたエドワードが立ち上がりながら言った。
「ニ、三日、ゆっくり休んでいい。その後、行きたい場所があるから、付き合え」
 
翌日にはバロンは元気になり、二日目には暇を持て余すほどにまでなった。
どうして、ここまで元気になれたのは分からない。
紅茶の時間ごとに、一匙入れたハチミツのお蔭かなと思うことにした。
休んで三日目。この日は、エドワードが完全に公務が休みの日で、行きたい場所とやらに付き合うことになった。
度無しの眼鏡にハットを事前に渡され、バロンは着替えた後、客室でエドワードを待つ。
その間に、ここ数日分の新聞をキースに貰って読むと、
『エドワード王太子殿下、男娼不在で久しぶりの公務』
『オールドドメインで人気取り。しかし、好感度指数は微増』
『男娼帯同の公務に、世間の厳しい目』
という見出しが躍っている。
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