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第一章 バロン
26:殿下っ。何、されてるんですか?
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その部屋は、鹿の園最高位の王の部屋で、誰と寝ているか分かっていたはずなのに、実際に二人の姿を見ると、とてつもなくショックだった。
少年には、新人時代に鹿の園で生きて行けるようにと、自分のつたない性技を教えてやったのだ。
恩を仇で返された気がした。
バロンは自分が価値のないドメインに思えて来て、気が付けば自分の部屋に火を放っていた。
あっという間に、赤い炎が舌のようには這いまわる。
煙に巻かれて顔が焼けただれ始めたとき、逃げろと叫ぶ男の声がして、窓に向かって放り投げられた。
部屋は一階で、外には雪が積もっていたので、ケガはなかった。
起き上がると、バロンの部屋は炎に包まれていて、隣に部屋にも延焼を始めていた。
きっと、大火事になる。
鹿の園が丸ごと燃えてしまう。
敷地内は騒然としていて、バロンは恐ろしくなり逃げ出した。
少年が助かったのか、助からなかったのか、今でもバロンは確かめていない。
―――パチ、パチ、パチ。
薪が爆ぜる音がした。
「……ここは」
ベッドに、バロンはいた。
寝返りを打つと、暖炉に赤々と火が灯っている。
「だから、あんな、夢を見たのか」
ぼんやりしていると、誰かがさっと寝室を覗き込んで去って行った。
きっと、キースだ。
窓の外はすっかり暗くなっている。
こんな夜遅くまで残らせてしまったと申し訳なく思った。
それに、エドワードに同行する仕事もすっぽかしてしまった。
明日、小言を食らうだろうなあと思いながら、ブランケットを目の上まで引き上げる。
一体、エドワードは自分に何をさせたいんだろう?
親密な状態をマスコミに見せることと、機密データ。
この二つは繋がっているのだろうが、バロンには全容が見えない。
カラカラとカートが引かれてくる音がした。
きっとキースが気を使って、紅茶を持ってきてくれたのだ。
嗅いだことのある甘い匂いもする。
きっと、メアリーのマフィンを温めてくれたのだろう。
礼を言いたいところだが、今は誰とも話をしたくない。
申し訳ないが寝たふりをさせてもらおうとバロンは決め込んだが、ギシッとベッドが軋んで、重みがかかった時点で、変だなと思った。
キースは、ジェントルマン・イン・ウエイティングとして世話をしてくれるが、こんなに距離は近くない。
目の上のブランケットを下げる。
ベッドに腰掛け、顔を覗き込んでいたのは、エドワードだった。
「殿下っ。何、されてるんですか?」
「見てわからんのか?」
カートからベッドに下ろされたトレーに乘っているのは、紅茶の入ったティーカップ、ハチミツの小瓶、それに皿に乘ったかなり小さめにカットされたマフィン。
エドワードが耳を指さした。
「医師が、言っていた。お前がフラフラと倒れて起き上がれなかったのは、ストレスが耳にきているからだそうだ。人間もオールドドメインも、一番弱いところにストレスがかかるらしい。大勢の場に連れ出され、心無いことを何度も言われたせいだな」
少年には、新人時代に鹿の園で生きて行けるようにと、自分のつたない性技を教えてやったのだ。
恩を仇で返された気がした。
バロンは自分が価値のないドメインに思えて来て、気が付けば自分の部屋に火を放っていた。
あっという間に、赤い炎が舌のようには這いまわる。
煙に巻かれて顔が焼けただれ始めたとき、逃げろと叫ぶ男の声がして、窓に向かって放り投げられた。
部屋は一階で、外には雪が積もっていたので、ケガはなかった。
起き上がると、バロンの部屋は炎に包まれていて、隣に部屋にも延焼を始めていた。
きっと、大火事になる。
鹿の園が丸ごと燃えてしまう。
敷地内は騒然としていて、バロンは恐ろしくなり逃げ出した。
少年が助かったのか、助からなかったのか、今でもバロンは確かめていない。
―――パチ、パチ、パチ。
薪が爆ぜる音がした。
「……ここは」
ベッドに、バロンはいた。
寝返りを打つと、暖炉に赤々と火が灯っている。
「だから、あんな、夢を見たのか」
ぼんやりしていると、誰かがさっと寝室を覗き込んで去って行った。
きっと、キースだ。
窓の外はすっかり暗くなっている。
こんな夜遅くまで残らせてしまったと申し訳なく思った。
それに、エドワードに同行する仕事もすっぽかしてしまった。
明日、小言を食らうだろうなあと思いながら、ブランケットを目の上まで引き上げる。
一体、エドワードは自分に何をさせたいんだろう?
親密な状態をマスコミに見せることと、機密データ。
この二つは繋がっているのだろうが、バロンには全容が見えない。
カラカラとカートが引かれてくる音がした。
きっとキースが気を使って、紅茶を持ってきてくれたのだ。
嗅いだことのある甘い匂いもする。
きっと、メアリーのマフィンを温めてくれたのだろう。
礼を言いたいところだが、今は誰とも話をしたくない。
申し訳ないが寝たふりをさせてもらおうとバロンは決め込んだが、ギシッとベッドが軋んで、重みがかかった時点で、変だなと思った。
キースは、ジェントルマン・イン・ウエイティングとして世話をしてくれるが、こんなに距離は近くない。
目の上のブランケットを下げる。
ベッドに腰掛け、顔を覗き込んでいたのは、エドワードだった。
「殿下っ。何、されてるんですか?」
「見てわからんのか?」
カートからベッドに下ろされたトレーに乘っているのは、紅茶の入ったティーカップ、ハチミツの小瓶、それに皿に乘ったかなり小さめにカットされたマフィン。
エドワードが耳を指さした。
「医師が、言っていた。お前がフラフラと倒れて起き上がれなかったのは、ストレスが耳にきているからだそうだ。人間もオールドドメインも、一番弱いところにストレスがかかるらしい。大勢の場に連れ出され、心無いことを何度も言われたせいだな」
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