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第一章 バロン

21:突然の御来訪でしたね

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「エドワード王太子殿下にご機嫌伺いに来たついでに、君にも挨拶をさせてもらおうと思ってね」
ケビンが、バロンの頬に手を伸ばしてきた。
「おや、火傷の痕がある」
その手が止る。
「古いものなので。痛みはありません」
愛想笑いをして、バロンはその手から完全に逃れた。
「首相。随分、バロンに会いに来るのが遅かったじゃないか。ドメイン共存派のお前のことだから、私が会見を開いた日に飛んでくると思ったぞ」
紅茶をすすりながら、ジロッとエドワードがケビンを見る。
「相変わらず、エドワード王太子殿下は僕にきつい」
「それは、お互いさまだろう」
そして、二人は、ハハハハッとわざとらしく笑いあう。
「新ドメイン法の制定で忙しくしているのか?首相の任期はあと一年だから、人気取りに大変だな。しかし、新ドメイン法の骨子を読ませて貰ったが、ドメイン法一条の改定は今回も無いようだが?」
「既得権を守ろうとする輩の力が強くてね。でも、小さなことから、変えていこうと思っているよ」
ケビンは、今度はバロンに握手を求めて来た。
左利きなのか、そちらの手を差し出してくるので、バロンもそれにならって左手を差し出す。
手の甲をさらりと撫でられた。
「所有者が変わると、手の甲の数字の末尾が変わるんだよね?痛みは無かった?」
「はい。大丈夫です」
答えると、ケビンの親指が、バロンの親指の付け根のデータ孔を触り始める。アンプルが入っているかどうか確かめるみたいに、少し力を込めて押してくる。
右手にこんなのあれば違法だが、左手のデータ孔はオールドドメインのスタンダードだ。どうして、そこまで気にするのだろう。
「あの……」
手を引き抜きかけると、ケビンは、さらに強く手を握って来て、ブンブンと上下に振った。
「君たち、ドメインの待遇が少しでも改善するよう、頑張らせてもらうよ」
ケビンが踵を返し、シャキシャキとした足取りで去っていく最中、バロンの対角上に座るエドワードはフンッと鼻を鳴らした。
「突然の御来訪でしたね」
とキース。
「びっくりしました」
とバロンも答える。
すると、エドワードが聞いて来た。
「お前、首相と出会ってどう思った?」
「どうって、テレビでよくお見かけする人だなあって」
「……」
何か悪いことを言ったのだろうか?
たっぷり数十秒沈黙したのち、エドワードが手の持っていた新聞をテーブルの上に投げてきた。
普段からバロンに対する態度は悪いが、どうして、ケビンをテレビで見たと答えただけでここまで機嫌を悪くするのだろう。
「これが、役所に行ったときのもの。これは、議会。それに、教会。病院。復興現場」
「急に何なんですか?」
「そこに書いてあることをちゃんと読め。それとも、読み書きのアンプルはインストールされていないのか?」
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