上 下
18 / 281
第一章 バロン

18:私が、余計なことを言ってしまって

しおりを挟む
傍に居られなくなって食堂を出ると、ちょうど、居間の扉を押してエドワードが入ってくるところだった。
生の記者会見は、王宮内で行われていたようだ。
エドワードを避けて廊下に出て行こうとすると、二の腕をがっしりと掴まれた。
「どこに行く?」
行き場所などない。
エドワードによって、全国的に顔を晒されてしまった以上、もう違法娼館に潜り込むことはできないし、なんとか廃棄業者を見つけたとしても、エドワードを恐れて作業してくれないだろう。
何も打つ手がない自分が、情けなくて堪らない。
バロンは壊れるほど、左右に首を振った。
「どうした?ドメインのくせに、情緒不安定なんて。故障か?」
エドワードの心無い言葉にますます落ち込む。
パタパタと足音を立てて、キースが駆けてきた。
「何かあったのか?」
「私が、余計なことを言ってしまって」
「まあ、いい。キース。急いでコートを二枚持って来てくれ」
「お出かけですか?本日の業務は、記者会見のみのはず。それに、外はまた天気が崩れてきました。昼過ぎには、大雪になるとのことですよ」
「役所に行ってくる。バロンの所有権移転だ」
「えっ?!」
バロンは、叫び声を上げた。
「急いで、お持ちします」
キースが居なくなり、バロンは唇を震わせながらエドワードに訴えた。
「……俺をどうしたいんですか?オールドドメイン男娼を、王族が所有するだなんて、すぐバレますよ」
「ああ、バレるだろうな」
エドワードは、含み笑いをしている。
「じゃあ、俺を完全に自分の物にして、抱くつもりなんですか?最低ランクの男娼ですよ?」
「そのつもりは、全くない」
抱かれるのは、好きではない。
けれど、存在理由はそれしかないので、バロンという男を丸ごと否定された気分になる。
「だったら、暴力でも自白剤でも使って、機密データのあり方を吐かせればいいじゃないですかっ!!そして、さっさと廃棄してくださいっ」
バロンの反抗に、エドワードはムッとしたようだ。戻って来たキースからコートを受け取ると、乱暴にバロンに押し付けると、さっさと歩き出す。
「さあ、行って」
キースがバロンの背中を押しながら、冷たく冷やしたハンカチを差し出してきた。
「記者会見は終わったばかりで、王宮には大勢の記者が残っています。写真を撮られるはず。目を冷やすのに使ってください。男が、何度も泣き顔を撮られるのは嫌でしょう?」
王宮の入り口には、二頭立ての馬車が止められていた。英国のシンボル二頭のライオンが付いていて、一目で王族が出かけるためのものだと分かる。
記者やカメラマンたちが、寒そうに背中を丸めて辺りをウロウロしていた。
バロンは、急いでキースから貸して貰ったハンカチを目に当てる。
そして、ようやく理解した。
エドワードが急いでコートを二枚持って来いとキースを急かしたのは、こういう意味だったのかと。
また、ハンカチを貸してくれたキースの目的は、バロンへの優しさではなく、主人であるエドワードが、バロンを泣かしたように見えては心証が悪いと考えたのだろう。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

魔王に飼われる勇者

たみしげ
BL
BLすけべ小説です。 敵の屋敷に攻め込んだ勇者が逆に捕まって淫紋を刻まれて飼われる話です。

寮生活のイジメ【社会人版】

ポコたん
BL
田舎から出てきた真面目な社会人が先輩社員に性的イジメされそのあと仕返しをする創作BL小説 【この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。】 全四話 毎週日曜日の正午に一話ずつ公開

塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。 そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。

仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

モテる兄貴を持つと……(三人称改訂版)

夏目碧央
BL
 兄、海斗(かいと)と同じ高校に入学した城崎岳斗(きのさきやまと)は、兄がモテるがゆえに様々な苦難に遭う。だが、カッコよくて優しい兄を実は自慢に思っている。兄は弟が大好きで、少々過保護気味。  ある日、岳斗は両親の血液型と自分の血液型がおかしい事に気づく。海斗は「覚えてないのか?」と驚いた様子。岳斗は何を忘れているのか?一体どんな秘密が?

騎士団長の秘密

さねうずる
BL
「俺は、ポラール殿を好いている」 「「「 なんて!?!?!?」」 無口無表情の騎士団長が好きなのは別騎士団のシロクマ獣人副団長 チャラシロクマ×イケメン騎士団長

皇帝陛下の精子検査

雲丹はち
BL
弱冠25歳にして帝国全土の統一を果たした若き皇帝マクシミリアン。 しかし彼は政務に追われ、いまだ妃すら迎えられていなかった。 このままでは世継ぎが産まれるかどうかも分からない。 焦れた官僚たちに迫られ、マクシミリアンは世にも屈辱的な『検査』を受けさせられることに――!?

騎士さま、むっつりユニコーンに襲われる

雲丹はち
BL
ユニコーンの角を採取しにいったらゴブリンに襲われかけ、むっつりすけべなユニコーンに処女を奪われてしまう騎士団長のお話。

処理中です...