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第一章 バロン
18:私が、余計なことを言ってしまって
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傍に居られなくなって食堂を出ると、ちょうど、居間の扉を押してエドワードが入ってくるところだった。
生の記者会見は、王宮内で行われていたようだ。
エドワードを避けて廊下に出て行こうとすると、二の腕をがっしりと掴まれた。
「どこに行く?」
行き場所などない。
エドワードによって、全国的に顔を晒されてしまった以上、もう違法娼館に潜り込むことはできないし、なんとか廃棄業者を見つけたとしても、エドワードを恐れて作業してくれないだろう。
何も打つ手がない自分が、情けなくて堪らない。
バロンは壊れるほど、左右に首を振った。
「どうした?ドメインのくせに、情緒不安定なんて。故障か?」
エドワードの心無い言葉にますます落ち込む。
パタパタと足音を立てて、キースが駆けてきた。
「何かあったのか?」
「私が、余計なことを言ってしまって」
「まあ、いい。キース。急いでコートを二枚持って来てくれ」
「お出かけですか?本日の業務は、記者会見のみのはず。それに、外はまた天気が崩れてきました。昼過ぎには、大雪になるとのことですよ」
「役所に行ってくる。バロンの所有権移転だ」
「えっ?!」
バロンは、叫び声を上げた。
「急いで、お持ちします」
キースが居なくなり、バロンは唇を震わせながらエドワードに訴えた。
「……俺をどうしたいんですか?オールドドメイン男娼を、王族が所有するだなんて、すぐバレますよ」
「ああ、バレるだろうな」
エドワードは、含み笑いをしている。
「じゃあ、俺を完全に自分の物にして、抱くつもりなんですか?最低ランクの男娼ですよ?」
「そのつもりは、全くない」
抱かれるのは、好きではない。
けれど、存在理由はそれしかないので、バロンという男を丸ごと否定された気分になる。
「だったら、暴力でも自白剤でも使って、機密データのあり方を吐かせればいいじゃないですかっ!!そして、さっさと廃棄してくださいっ」
バロンの反抗に、エドワードはムッとしたようだ。戻って来たキースからコートを受け取ると、乱暴にバロンに押し付けると、さっさと歩き出す。
「さあ、行って」
キースがバロンの背中を押しながら、冷たく冷やしたハンカチを差し出してきた。
「記者会見は終わったばかりで、王宮には大勢の記者が残っています。写真を撮られるはず。目を冷やすのに使ってください。男が、何度も泣き顔を撮られるのは嫌でしょう?」
王宮の入り口には、二頭立ての馬車が止められていた。英国のシンボル二頭のライオンが付いていて、一目で王族が出かけるためのものだと分かる。
記者やカメラマンたちが、寒そうに背中を丸めて辺りをウロウロしていた。
バロンは、急いでキースから貸して貰ったハンカチを目に当てる。
そして、ようやく理解した。
エドワードが急いでコートを二枚持って来いとキースを急かしたのは、こういう意味だったのかと。
また、ハンカチを貸してくれたキースの目的は、バロンへの優しさではなく、主人であるエドワードが、バロンを泣かしたように見えては心証が悪いと考えたのだろう。
生の記者会見は、王宮内で行われていたようだ。
エドワードを避けて廊下に出て行こうとすると、二の腕をがっしりと掴まれた。
「どこに行く?」
行き場所などない。
エドワードによって、全国的に顔を晒されてしまった以上、もう違法娼館に潜り込むことはできないし、なんとか廃棄業者を見つけたとしても、エドワードを恐れて作業してくれないだろう。
何も打つ手がない自分が、情けなくて堪らない。
バロンは壊れるほど、左右に首を振った。
「どうした?ドメインのくせに、情緒不安定なんて。故障か?」
エドワードの心無い言葉にますます落ち込む。
パタパタと足音を立てて、キースが駆けてきた。
「何かあったのか?」
「私が、余計なことを言ってしまって」
「まあ、いい。キース。急いでコートを二枚持って来てくれ」
「お出かけですか?本日の業務は、記者会見のみのはず。それに、外はまた天気が崩れてきました。昼過ぎには、大雪になるとのことですよ」
「役所に行ってくる。バロンの所有権移転だ」
「えっ?!」
バロンは、叫び声を上げた。
「急いで、お持ちします」
キースが居なくなり、バロンは唇を震わせながらエドワードに訴えた。
「……俺をどうしたいんですか?オールドドメイン男娼を、王族が所有するだなんて、すぐバレますよ」
「ああ、バレるだろうな」
エドワードは、含み笑いをしている。
「じゃあ、俺を完全に自分の物にして、抱くつもりなんですか?最低ランクの男娼ですよ?」
「そのつもりは、全くない」
抱かれるのは、好きではない。
けれど、存在理由はそれしかないので、バロンという男を丸ごと否定された気分になる。
「だったら、暴力でも自白剤でも使って、機密データのあり方を吐かせればいいじゃないですかっ!!そして、さっさと廃棄してくださいっ」
バロンの反抗に、エドワードはムッとしたようだ。戻って来たキースからコートを受け取ると、乱暴にバロンに押し付けると、さっさと歩き出す。
「さあ、行って」
キースがバロンの背中を押しながら、冷たく冷やしたハンカチを差し出してきた。
「記者会見は終わったばかりで、王宮には大勢の記者が残っています。写真を撮られるはず。目を冷やすのに使ってください。男が、何度も泣き顔を撮られるのは嫌でしょう?」
王宮の入り口には、二頭立ての馬車が止められていた。英国のシンボル二頭のライオンが付いていて、一目で王族が出かけるためのものだと分かる。
記者やカメラマンたちが、寒そうに背中を丸めて辺りをウロウロしていた。
バロンは、急いでキースから貸して貰ったハンカチを目に当てる。
そして、ようやく理解した。
エドワードが急いでコートを二枚持って来いとキースを急かしたのは、こういう意味だったのかと。
また、ハンカチを貸してくれたキースの目的は、バロンへの優しさではなく、主人であるエドワードが、バロンを泣かしたように見えては心証が悪いと考えたのだろう。
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