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第一章 バロン
16:ドメインを、ゴミ捨て場に?
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「殿下の指示ですよ」
「え?」
人間は人間、ドメインはドメインと、ビシッと線引きしそうな男なのに?
「ベックス宮殿では、ジェントルマン・イン・ウエイティングは、仕事の時に白手袋をつけるのがルール。そちらに従えとのことでした。あの見た目から、野生のグリズリーだなんて言われていますが、本当はとてもお優しい方なんです。細胞が壊死する直前の状態で、ゴミ捨て場に捨てられていた私のことも拾ってくださいましたし」
「ドメインを、ゴミ捨て場に?」
「もちろん違法投棄ですが、そんな酷い時代もあったんですよ。なので、バロンもあまり心配せずに」と言いながら、キースはミルクたっぷりの紅茶を差し出してきた。
「いいんですか?」
ドメインは、栄養剤さえあれば、食事も水分補給も必要が無い。人間と同じ食生活も可能だが、ドメインと一線を引くために食事の同席を許さない人間も多い。王宮ならなおさらだろうと、バロンは尻込みしてしまう。
「殿下は王宮内にいる者は、ドメインであっても人間と同じ食事をするようにという方針です。今後は、一緒に食事をすることになると思いますよ。巡りが早い栄養剤は、緊急時のみご使用ください」
「……はあ。そうですか」
人間と食事なんて、普通に考えたらうれしいことだ。
しかし、エドワードと一緒となると、考えただけで、胃がキリキリしてくる。
「新聞もいかがですか?」
「新聞?タブレットがあるんですか?」
電子機器など、テーブルを見回してもどこにもないようだけど、と紅茶をすすりながら思っていると、バロンが居間から紙の束を持ってきた。
「すごい!王室は、紙の新聞を購読しているんですね。初めて見ました」
「王都の住人のほとんどは、紙の新聞を読んでいると思いますよ」
「さすが、クラッシックシティー」
わざわざ紙で情報を読むなんて、なんて贅沢なんだろう。
バロンは、初めて触る紙の新聞の一面を開いた途端、紅茶を拭き出しそうになった。
自分が載っている。
タイトルは、こうだった。
『エドワード王太子殿下救出の男娼は、三年前、鹿の園に放火したバロンか?』
バロンは、むせながら、キースに聞いた。
「これ、全国版ですか?」
「ええ、そうです」とキースが答える。
写真のバロンは、エドワードが肩に掛けてくれた軍コートを着て、俯き涙ぐんでいた。
まるで、エドワードに助け出され心底安心しているといった表情だ。
事実は全く異なるのに。
いや、待てよ。これは、偶然か?
新聞を食い入るように見ながら、バロンは思う。
どうして、エドワードはあの瞬間に、自分に軍コートをかけた?
しかも、ホカホカに温めていたものを、「震えさせておけ」と言った自分に。
ラリーに、鹿の園時代のように髪を切らせたのは?
上階に連れられていったとき、エドワードが窓から階下を眺めていた理由は……、
「全て、ここにつなげるため?」
つまり、自分はいいように利用された?
バロンは、「エドワード王太子殿下はどちらにっ?」とキースに向かって叫んでいた。
「今の時間帯なら、年明け一回目の定例会見に出られているかと」
「テレビッ!この部屋にテレビはありますか?」
にこやかにキースが頷いて、「テレビ、オン」と壁に向かって言う。
「え?」
人間は人間、ドメインはドメインと、ビシッと線引きしそうな男なのに?
「ベックス宮殿では、ジェントルマン・イン・ウエイティングは、仕事の時に白手袋をつけるのがルール。そちらに従えとのことでした。あの見た目から、野生のグリズリーだなんて言われていますが、本当はとてもお優しい方なんです。細胞が壊死する直前の状態で、ゴミ捨て場に捨てられていた私のことも拾ってくださいましたし」
「ドメインを、ゴミ捨て場に?」
「もちろん違法投棄ですが、そんな酷い時代もあったんですよ。なので、バロンもあまり心配せずに」と言いながら、キースはミルクたっぷりの紅茶を差し出してきた。
「いいんですか?」
ドメインは、栄養剤さえあれば、食事も水分補給も必要が無い。人間と同じ食生活も可能だが、ドメインと一線を引くために食事の同席を許さない人間も多い。王宮ならなおさらだろうと、バロンは尻込みしてしまう。
「殿下は王宮内にいる者は、ドメインであっても人間と同じ食事をするようにという方針です。今後は、一緒に食事をすることになると思いますよ。巡りが早い栄養剤は、緊急時のみご使用ください」
「……はあ。そうですか」
人間と食事なんて、普通に考えたらうれしいことだ。
しかし、エドワードと一緒となると、考えただけで、胃がキリキリしてくる。
「新聞もいかがですか?」
「新聞?タブレットがあるんですか?」
電子機器など、テーブルを見回してもどこにもないようだけど、と紅茶をすすりながら思っていると、バロンが居間から紙の束を持ってきた。
「すごい!王室は、紙の新聞を購読しているんですね。初めて見ました」
「王都の住人のほとんどは、紙の新聞を読んでいると思いますよ」
「さすが、クラッシックシティー」
わざわざ紙で情報を読むなんて、なんて贅沢なんだろう。
バロンは、初めて触る紙の新聞の一面を開いた途端、紅茶を拭き出しそうになった。
自分が載っている。
タイトルは、こうだった。
『エドワード王太子殿下救出の男娼は、三年前、鹿の園に放火したバロンか?』
バロンは、むせながら、キースに聞いた。
「これ、全国版ですか?」
「ええ、そうです」とキースが答える。
写真のバロンは、エドワードが肩に掛けてくれた軍コートを着て、俯き涙ぐんでいた。
まるで、エドワードに助け出され心底安心しているといった表情だ。
事実は全く異なるのに。
いや、待てよ。これは、偶然か?
新聞を食い入るように見ながら、バロンは思う。
どうして、エドワードはあの瞬間に、自分に軍コートをかけた?
しかも、ホカホカに温めていたものを、「震えさせておけ」と言った自分に。
ラリーに、鹿の園時代のように髪を切らせたのは?
上階に連れられていったとき、エドワードが窓から階下を眺めていた理由は……、
「全て、ここにつなげるため?」
つまり、自分はいいように利用された?
バロンは、「エドワード王太子殿下はどちらにっ?」とキースに向かって叫んでいた。
「今の時間帯なら、年明け一回目の定例会見に出られているかと」
「テレビッ!この部屋にテレビはありますか?」
にこやかにキースが頷いて、「テレビ、オン」と壁に向かって言う。
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