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第一章 バロン
15:お目覚めですか?こちらにどうぞ
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寝室では、白髭を蓄えた老齢の男が鞄から医療器具を取り出している最中だった。名前はタイラーというとキースが教えてくれた。
背後にいたキースがバロンの着ていた軍コートを脱がせ、裸にさせる。
絶対に、ひどいことをされるんだ。
そう覚悟したバロンだったが、正反対の結果に終わった。
健診され、ケガをした部分には丁寧に薬が塗られた。そして最後に栄養剤が注入され、すぐに眠気が襲って来た。
過度に疑った自分を恥じたくなった直後に、こういう結末か。
廃棄はしないと言ったくせに。
これを機に、彼と接してみようとマスコミに答えたくせに。
機密データ、結局渡せずじまいだったけど、どうしよう。
すとんと深い眠りに落ちたバロンは、やがて目覚める。
意識を手放していたのは、数十秒?いや、数時間?
健診を受けた寝台に寝かされていて、枕元には服が置かれてあった。これを着ろということなのだろう。
下着、ズボン。シルクの肌触りのいいシャツにかっちりとしたジャケット。
殿下の着なくなった服とキースが言っていたが、新品同様だ。触っただけで質がよいものと分かる。
エドワードの身長は、百八十七センチと王室情報に載っている。
二センチしか差はないわけだが、バロンが着るとシャツと上着はダブダブだった。
筋肉の差なのだろう。
あんな男の服を着なければならないなんて嫌だなと思いながら、ベッドでそれを身に着け居間へと出ていく。
居間の窓から、明るい陽射しが差し込んでいた。雪が止んで、青空が見える。
ベックス宮殿にやってきたのは明け方だったから、やはり数時間は眠っていたようだ。
奥の食堂では、キースがお茶の準備していた。
「あの……」
「お目覚めですか?こちらにどうぞ」
笑顔で促され、そちらに向かうと、彼は椅子を引いてくれた。
こんなに丁寧に接せられることは今までになかったから、バロンは居心地が悪い。
「栄養剤とともに、睡眠薬も投与されていたのでしょうか?」
「殿下がそのようにと。医師から説明はありませんでした?」
バロンは、首を振る。
「それは失礼いたしました。以後、気と付けるように……」
キースの丁寧ぶりが、ささくれだった神経を刺激する。
「ただ、そうだったか聞きたかっただけです。気にしないでください。ご存知でしょうけど、俺、男娼です。そんなに丁寧じゃなくていいです。それに、エドワード王太子殿下も、俺のことを客人として扱うなと」
すると、キースは微笑んで言う。
「おもてなしをするのも、ジェントルマン・イン・ウエイティングの仕事です」
「……」
「どうか、されました?」
バロンは恥ずかしくなって、自分の髪の毛をくしゃっと触る。
「キースさんは、プロなんですね。俺みたいなドメインとは全然違います。さすが、人間って感じだ」
「そんなこと、ありませんよ」
キースは左手の白手袋を外した。数字の羅列の刻印がある。
「貴方もドメインだったんですか?白手袋のせいで、全然、気が付きませんでした。あの、ドメインは手の甲を隠してはならないというルールがありますよね?エドワード王太子殿下が、物凄く怒りそうですけど」
背後にいたキースがバロンの着ていた軍コートを脱がせ、裸にさせる。
絶対に、ひどいことをされるんだ。
そう覚悟したバロンだったが、正反対の結果に終わった。
健診され、ケガをした部分には丁寧に薬が塗られた。そして最後に栄養剤が注入され、すぐに眠気が襲って来た。
過度に疑った自分を恥じたくなった直後に、こういう結末か。
廃棄はしないと言ったくせに。
これを機に、彼と接してみようとマスコミに答えたくせに。
機密データ、結局渡せずじまいだったけど、どうしよう。
すとんと深い眠りに落ちたバロンは、やがて目覚める。
意識を手放していたのは、数十秒?いや、数時間?
健診を受けた寝台に寝かされていて、枕元には服が置かれてあった。これを着ろということなのだろう。
下着、ズボン。シルクの肌触りのいいシャツにかっちりとしたジャケット。
殿下の着なくなった服とキースが言っていたが、新品同様だ。触っただけで質がよいものと分かる。
エドワードの身長は、百八十七センチと王室情報に載っている。
二センチしか差はないわけだが、バロンが着るとシャツと上着はダブダブだった。
筋肉の差なのだろう。
あんな男の服を着なければならないなんて嫌だなと思いながら、ベッドでそれを身に着け居間へと出ていく。
居間の窓から、明るい陽射しが差し込んでいた。雪が止んで、青空が見える。
ベックス宮殿にやってきたのは明け方だったから、やはり数時間は眠っていたようだ。
奥の食堂では、キースがお茶の準備していた。
「あの……」
「お目覚めですか?こちらにどうぞ」
笑顔で促され、そちらに向かうと、彼は椅子を引いてくれた。
こんなに丁寧に接せられることは今までになかったから、バロンは居心地が悪い。
「栄養剤とともに、睡眠薬も投与されていたのでしょうか?」
「殿下がそのようにと。医師から説明はありませんでした?」
バロンは、首を振る。
「それは失礼いたしました。以後、気と付けるように……」
キースの丁寧ぶりが、ささくれだった神経を刺激する。
「ただ、そうだったか聞きたかっただけです。気にしないでください。ご存知でしょうけど、俺、男娼です。そんなに丁寧じゃなくていいです。それに、エドワード王太子殿下も、俺のことを客人として扱うなと」
すると、キースは微笑んで言う。
「おもてなしをするのも、ジェントルマン・イン・ウエイティングの仕事です」
「……」
「どうか、されました?」
バロンは恥ずかしくなって、自分の髪の毛をくしゃっと触る。
「キースさんは、プロなんですね。俺みたいなドメインとは全然違います。さすが、人間って感じだ」
「そんなこと、ありませんよ」
キースは左手の白手袋を外した。数字の羅列の刻印がある。
「貴方もドメインだったんですか?白手袋のせいで、全然、気が付きませんでした。あの、ドメインは手の甲を隠してはならないというルールがありますよね?エドワード王太子殿下が、物凄く怒りそうですけど」
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