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第一章 バロン
13:さっさと来い。首に縄をつけられたいのか?
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この世の仕事の底辺といわれる男娼なのだから、罪が明らかになっても生きのびたいなんて思わない。
二つの願いが叶えば、消えてしまってもいいと思ってこの三年を生きてきた。
一つ目は、エドワードに機密データを返すこと。
そして二つ目は、行方不明になってしまった知り合いの生死をはっきりさせることだ。
一つ目の願いは叶いかけているが、今、ありかを素直に伝えたところで、冷たい牢獄でダラダラと生かされる可能性が高い。
これは、交渉の道具としてとっておかなければ。
バロンは再び、軍コートの下で右手を握りしめた。
地方都市セブノークスから車に揺られて数時間、王都クラッシックシティーまでやって来て、馬車に乗り換えさせられた。
クラッシックシティーは、中心部にエドワードら王族が住むベックス宮殿、それを取り囲むように貴族の邸宅と商業施設がある。そして、さらにそれを広大な森が包んでいる。
第三次世界大戦で、敵国から爆弾を落とされることなく生き残り、中世からの姿を奇跡的に保っていた。
クラッシックシティーに住民登録されていない人間の出入りは極端に制限されており、それが昔ながらの街並みを残す結果となっている。
第三次世界大戦で、世界各地の遺産は、ことごとく破壊されてしまったから、クラッシックシティーのような中世の街並みがほぼそのまま残り、そこで人間が生活している都市は貴重中の貴重だ。
科学的な物、現代的な物は目に触れられないように作られていて、クラッシックシティー内の移動は馬車。車の使用は超緊急時のみと決まっている。服装規定があり、外出するときは男性は丈の長いクラッシックスーツ、女性はドレスと決められている。
クラッシックシティーは、世界一科学技術が進んだ街だが、同時に回顧主義が非常に強く、第三次世界大戦以前から、貴族たちは祖先のような暮らしと格好を好んでするようになった。
エドワードが、馬車の小窓を開けた。
馬車はクラッシックシティーの中央通りを走っていた。別名、官公庁通りだ。貴族のタウンハウスをそのまま利用して造った、見た目はアンティークな通りだが、壁には実は大型のテレビが埋め込まれていて、緊急時には映像を映し出す。
第三次世界大戦中はしょっちゅう街頭テレビは、緊急放送を映し出してきたが、平和を取り戻しつつある今は、その回数も大分減ったことだろう。
中央通りをこのまま真っ直ぐ行けば、ベックス宮殿に辿りつく。
ネオクラッシク様式という古代ローマ・ギリシャ時代を彷彿させる建物で、上品な白い石がふんだんに使われている。大きさは五万平方メートル。公式サッカーコート場の約十二倍の広さだ。
通常、王族と関係者のみしか出入りは許されず、一般人が入れるのは勲章授与式など、特別行事に限られる。
内部は公開されておらず、どんな部屋にどんな美術品があるのか、など、一般人が興味を湧くような情報は知ることができない。
ここは、造られて五百年が経過した古い城だ。きっと地下には牢獄だってあるはず。きっと、そこに入れられるのだ。
エドワードが馬車の扉を開けると、案の定、ベックス宮殿前だった。
「来い」
とエドワードがバロンの腕を掴んで引きづり降ろす。
「さっさと来い。首に縄をつけられたいのか?」
ベックス宮殿前には二名の衛兵がいて、バロンを冷たく眺めていた。エドワードが命令をすれば、一斉に襲い掛かってくることは間違いない。
黙って引きずられることで恭順を示すと、エドワードはベックス宮殿の中に入っていった。
二つの願いが叶えば、消えてしまってもいいと思ってこの三年を生きてきた。
一つ目は、エドワードに機密データを返すこと。
そして二つ目は、行方不明になってしまった知り合いの生死をはっきりさせることだ。
一つ目の願いは叶いかけているが、今、ありかを素直に伝えたところで、冷たい牢獄でダラダラと生かされる可能性が高い。
これは、交渉の道具としてとっておかなければ。
バロンは再び、軍コートの下で右手を握りしめた。
地方都市セブノークスから車に揺られて数時間、王都クラッシックシティーまでやって来て、馬車に乗り換えさせられた。
クラッシックシティーは、中心部にエドワードら王族が住むベックス宮殿、それを取り囲むように貴族の邸宅と商業施設がある。そして、さらにそれを広大な森が包んでいる。
第三次世界大戦で、敵国から爆弾を落とされることなく生き残り、中世からの姿を奇跡的に保っていた。
クラッシックシティーに住民登録されていない人間の出入りは極端に制限されており、それが昔ながらの街並みを残す結果となっている。
第三次世界大戦で、世界各地の遺産は、ことごとく破壊されてしまったから、クラッシックシティーのような中世の街並みがほぼそのまま残り、そこで人間が生活している都市は貴重中の貴重だ。
科学的な物、現代的な物は目に触れられないように作られていて、クラッシックシティー内の移動は馬車。車の使用は超緊急時のみと決まっている。服装規定があり、外出するときは男性は丈の長いクラッシックスーツ、女性はドレスと決められている。
クラッシックシティーは、世界一科学技術が進んだ街だが、同時に回顧主義が非常に強く、第三次世界大戦以前から、貴族たちは祖先のような暮らしと格好を好んでするようになった。
エドワードが、馬車の小窓を開けた。
馬車はクラッシックシティーの中央通りを走っていた。別名、官公庁通りだ。貴族のタウンハウスをそのまま利用して造った、見た目はアンティークな通りだが、壁には実は大型のテレビが埋め込まれていて、緊急時には映像を映し出す。
第三次世界大戦中はしょっちゅう街頭テレビは、緊急放送を映し出してきたが、平和を取り戻しつつある今は、その回数も大分減ったことだろう。
中央通りをこのまま真っ直ぐ行けば、ベックス宮殿に辿りつく。
ネオクラッシク様式という古代ローマ・ギリシャ時代を彷彿させる建物で、上品な白い石がふんだんに使われている。大きさは五万平方メートル。公式サッカーコート場の約十二倍の広さだ。
通常、王族と関係者のみしか出入りは許されず、一般人が入れるのは勲章授与式など、特別行事に限られる。
内部は公開されておらず、どんな部屋にどんな美術品があるのか、など、一般人が興味を湧くような情報は知ることができない。
ここは、造られて五百年が経過した古い城だ。きっと地下には牢獄だってあるはず。きっと、そこに入れられるのだ。
エドワードが馬車の扉を開けると、案の定、ベックス宮殿前だった。
「来い」
とエドワードがバロンの腕を掴んで引きづり降ろす。
「さっさと来い。首に縄をつけられたいのか?」
ベックス宮殿前には二名の衛兵がいて、バロンを冷たく眺めていた。エドワードが命令をすれば、一斉に襲い掛かってくることは間違いない。
黙って引きずられることで恭順を示すと、エドワードはベックス宮殿の中に入っていった。
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