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第一章 バロン
2:アリス!とうとう二千五十年になったねえ
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マットレスのヘリをぎゅっと掴む。
「アアッ」
苦手な最奥を激しく突かれて、たまらず大声を上げた。
瞬時に内臓がせり上がってくる感覚がやってきて、「お願いっ……します。止めてっ」
と振り返って懇願した。
無精ひげの男が、不愉快極まりないという顔でバロンを見ている。髪と掴まれ束でねじって締め上げてきた。
「化け物みたいにただれたツラ、見せられると萎えるって言ってんだろ」
「……すみません」
反射的に、左の頬を抑える。
以前いた娼館でのケガだ。顔半分を覆う火傷の痕は、ケロイド状になっている。
男が、再びグラインドを始めた。早くなる腰の動きに、「アアッ、アアッ、アー」と半ばやけになってバロンもよがる。
やがて、背後でくぐもった声がして、内部で生温かい液を感じた。
気持ち悪い。
吐きそうだ。
男は、いつまでたっても雄を引き抜かず、体液をバロンの内壁になじませるかのように、ゆるゆると腰を動かし続ける。
「ロン。タバコ」
バロンは柔らかくなりかけた雄を受け入れたまま、ベッドの隣りの小机に置かれたタバコの箱を渡した。
「テレビ、オン」
タバコに火をつけながら男が言うと、壁に同化していたテレビがパッとついた。厚さは一mmもなく、紙のようにクルクルとまとめて、どこにでも持ち運ぶことができて、使用には声を使う。
「たった数十年で便利になったもんだよなあ。ロン、お前、テレビをつけるリモートコントローラーって知っているか?」
「話しには。けど、実物は見たことがありません」
そんなことより早く抜いてくれ。液が身体中に浸透していくようだ。
と思いながら、バロンは背中を突っ張らせ答える。
気持ち悪さに耐えるバロンを見るのが気分がいいのか、男は緩く腰を動かしながらしゃべり続ける。
「手のひらサイズ位の、なんつーかな、箱?それを使ってテレビを付けたり消したりしてたんだ。けど、それがソファーの隙間に入ったりとか、床に落ちていたりとかして、テレビを見るにはリモートコントローラー探しから始まる日もあったな。当然、その頃はおめーみたいな、人間じゃない存在もこの世には居なかった」
テレビ画面には、カウントダウンの数字が映し出されていた。
ゼロになると、『ハッピーニューイヤー!!』とにこやかに笑う男女2人が映し出される。
国営放送ABCテレビのアナウンサーで、男性は細面の中年。女性は肩までの髪に、眼鏡姿。低下した視力は眼科に行けば、数分で治すことができるので、眼鏡はファッションなのだろう。
「お、年が明けたか」
タバコの煙を吐き出しながら、男が言う。
『アリス!とうとう二千五十年になったねえ』
『そうね、ウイリアム。今年もよろしくね!さあ、各国のニューイヤーの様子をどうぞ』
短い会話が終わり、画面はアメリカニューヨークの夜空に打ち上がる花火、ロシアモスクワの赤の広場に集まって酒を酌み交わす人々の様子、日本東京の雪が降る中、神社詣をする人々の長い行列を順々に映し出していく。
最後に映ったのは、英国の王都クラッシックシティーにあるベックス宮殿だ。
バルコニーには、雪の中、黒いロングドレス毛皮のコートを纏い、ベールを被った女性が手を振っている。背後にはひっそりとヴァレット(近待)の女性がいて、気遣う視線を向けていた。
カメラが引いて、ベックス宮殿前にいる大勢の市民を映し出す。極寒の中、女王の新年の挨拶を聞きにやってきた人々だ。
「相変わらず辛気臭え女王だ。こいつが、テロで夫を亡くしたのは十五年も前だぞ」
男が不機嫌に言う。
第三次世界大戦を終わりに導いたアンは、英国だけでなく世界でも人気が高い。
「アアッ」
苦手な最奥を激しく突かれて、たまらず大声を上げた。
瞬時に内臓がせり上がってくる感覚がやってきて、「お願いっ……します。止めてっ」
と振り返って懇願した。
無精ひげの男が、不愉快極まりないという顔でバロンを見ている。髪と掴まれ束でねじって締め上げてきた。
「化け物みたいにただれたツラ、見せられると萎えるって言ってんだろ」
「……すみません」
反射的に、左の頬を抑える。
以前いた娼館でのケガだ。顔半分を覆う火傷の痕は、ケロイド状になっている。
男が、再びグラインドを始めた。早くなる腰の動きに、「アアッ、アアッ、アー」と半ばやけになってバロンもよがる。
やがて、背後でくぐもった声がして、内部で生温かい液を感じた。
気持ち悪い。
吐きそうだ。
男は、いつまでたっても雄を引き抜かず、体液をバロンの内壁になじませるかのように、ゆるゆると腰を動かし続ける。
「ロン。タバコ」
バロンは柔らかくなりかけた雄を受け入れたまま、ベッドの隣りの小机に置かれたタバコの箱を渡した。
「テレビ、オン」
タバコに火をつけながら男が言うと、壁に同化していたテレビがパッとついた。厚さは一mmもなく、紙のようにクルクルとまとめて、どこにでも持ち運ぶことができて、使用には声を使う。
「たった数十年で便利になったもんだよなあ。ロン、お前、テレビをつけるリモートコントローラーって知っているか?」
「話しには。けど、実物は見たことがありません」
そんなことより早く抜いてくれ。液が身体中に浸透していくようだ。
と思いながら、バロンは背中を突っ張らせ答える。
気持ち悪さに耐えるバロンを見るのが気分がいいのか、男は緩く腰を動かしながらしゃべり続ける。
「手のひらサイズ位の、なんつーかな、箱?それを使ってテレビを付けたり消したりしてたんだ。けど、それがソファーの隙間に入ったりとか、床に落ちていたりとかして、テレビを見るにはリモートコントローラー探しから始まる日もあったな。当然、その頃はおめーみたいな、人間じゃない存在もこの世には居なかった」
テレビ画面には、カウントダウンの数字が映し出されていた。
ゼロになると、『ハッピーニューイヤー!!』とにこやかに笑う男女2人が映し出される。
国営放送ABCテレビのアナウンサーで、男性は細面の中年。女性は肩までの髪に、眼鏡姿。低下した視力は眼科に行けば、数分で治すことができるので、眼鏡はファッションなのだろう。
「お、年が明けたか」
タバコの煙を吐き出しながら、男が言う。
『アリス!とうとう二千五十年になったねえ』
『そうね、ウイリアム。今年もよろしくね!さあ、各国のニューイヤーの様子をどうぞ』
短い会話が終わり、画面はアメリカニューヨークの夜空に打ち上がる花火、ロシアモスクワの赤の広場に集まって酒を酌み交わす人々の様子、日本東京の雪が降る中、神社詣をする人々の長い行列を順々に映し出していく。
最後に映ったのは、英国の王都クラッシックシティーにあるベックス宮殿だ。
バルコニーには、雪の中、黒いロングドレス毛皮のコートを纏い、ベールを被った女性が手を振っている。背後にはひっそりとヴァレット(近待)の女性がいて、気遣う視線を向けていた。
カメラが引いて、ベックス宮殿前にいる大勢の市民を映し出す。極寒の中、女王の新年の挨拶を聞きにやってきた人々だ。
「相変わらず辛気臭え女王だ。こいつが、テロで夫を亡くしたのは十五年も前だぞ」
男が不機嫌に言う。
第三次世界大戦を終わりに導いたアンは、英国だけでなく世界でも人気が高い。
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