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エピローグ
98:そういやあ、最近、大家のヤツ、来ねえな
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そこからさらに数年。
零はエイトの夢に出てきた物件を取得し、とうとう塾兼カフェをオープンさせた。
荒れ放題の家をリノベーションするのは正直大変だった。土台と屋根だけは専門家に直してもらって、あとの力仕事の殆どはエイトと大家がやった。零は細かい作業を。壁を塗り、畳を貼り、障子を入れ、どんどん廃屋が家らしくなっていくのが嬉しかった。
零もエイトも、塾とカフェは趣味の延長でやるスタンスだったのだが、大家がそれを許さなかった。徹底的に利益の追求をさせられ、夢でたまにうなされた。
カラカラと鳴る玄関を入って左が零の塾。引きこもりなので勉強が遅れがちな子のための塾だ。右がエイトの濃厚チーズケーキとコーヒーが売りのカフェ。畳のある和室と、テーブル席と二種類、合計二十席ある。
土日には、日中になれば満席になるがリノベーション代が結構かかってしまったのでまだまだ赤字だ。
客の波が落ち着き、このまま閉店かなと軽く疲れの残る身体で椅子に腰掛け、零とコーヒーを飲む時間がエイトのシフクのヒトトキだ。
窓から見えるのは苦労して作った庭。そして、少し先には海が見える。
「そういやあ、最近、大家のヤツ、来ねえな。店がオープンするまでは、嫌になるぐらい来ていたのに」
ふっと、幻の創業メンバーのことを口に出す。
「そうだね。最近、連絡も来ない。夜にでも連絡してみようかな。東京でのこと、忘れたわけじゃないけれど、このところ忙しくて。エイトも電話口に出る?」
「う、うーん。まあ、その場のノリで」
「まだ苦手?」
エイトの態度に零が笑い出す。
だから、「いや、ヤツとはマブダチよ」とエイトは言い返してやった。
すると、店の外で「ごめんくださーい」と声がする。
すっかり顔なじみになった郵便局員の声だ。
「あ。オレ行く」
立ち上がろうとする零を制して、エイトがハンコを持って出ていくと、伝票の品名には「遺骨」と書いてあった。
ただならぬ予感がして、「零!零って!遺骨が届いた」と店内にいる彼を呼ぶ。
「送り主は大家と違う名前だが、名字は一緒だ」
「遺骨?まさか、大家さんの?どんなたちの悪い冗談だよ」
上がりかまちの上で急いで中を開けると、絹の袋に包まれた白い陶器が入っていた。
「嘘、だろ。え……。死んだなんて」
手紙も添えられている。
拝啓から始まるそれは、大家の親戚を名乗る人物からだった。
手紙の内容は大家は、一年ほど前から隠居生活に入っており、全物件は自分が引き継いだ。遺言で遺骨を貴方に送りつけるよう約束させられていた。それをやらなかったら呪ってやると言われていて。
字は綺麗だが年齢は若いのかもしれない。
後半は、大家の言葉そのまま書いたと手紙には書かれてあった。
遺骨は駅のトイレに流して欲しい。瀬戸内の海に流れていくだろうし。貴方達と出会えて、消えてしまいたいという思いが薄れた。ありがとう。
「死因、書いていないね」
読み終わった零がぽつんと言った。
目から涙が溢れ出し頬を濡らしていく。
「大家さん。何で勝手に死んじゃったんだよ」
「書いてあるだろ。零の存在が大家の死期を遅くしたって」
そこに自分も少しでも加われていたら嬉しいのだけれど。
大家はエイトにとっていけ好かないちゃんとした大人だった。
例えるなら、友人の父親みたいな、近いけれど遠い関係。
でも他人じゃない。
零が泣きながら箱から骨壷を取り出す。
底にまだ物がありエイトはそれを取り出した。
「これ、母さんのショール」
「おい。大家、これはさすがにトイレには流せねえぞ。零に返すってことか?それでいいんだな?」
零はエイトの夢に出てきた物件を取得し、とうとう塾兼カフェをオープンさせた。
荒れ放題の家をリノベーションするのは正直大変だった。土台と屋根だけは専門家に直してもらって、あとの力仕事の殆どはエイトと大家がやった。零は細かい作業を。壁を塗り、畳を貼り、障子を入れ、どんどん廃屋が家らしくなっていくのが嬉しかった。
零もエイトも、塾とカフェは趣味の延長でやるスタンスだったのだが、大家がそれを許さなかった。徹底的に利益の追求をさせられ、夢でたまにうなされた。
カラカラと鳴る玄関を入って左が零の塾。引きこもりなので勉強が遅れがちな子のための塾だ。右がエイトの濃厚チーズケーキとコーヒーが売りのカフェ。畳のある和室と、テーブル席と二種類、合計二十席ある。
土日には、日中になれば満席になるがリノベーション代が結構かかってしまったのでまだまだ赤字だ。
客の波が落ち着き、このまま閉店かなと軽く疲れの残る身体で椅子に腰掛け、零とコーヒーを飲む時間がエイトのシフクのヒトトキだ。
窓から見えるのは苦労して作った庭。そして、少し先には海が見える。
「そういやあ、最近、大家のヤツ、来ねえな。店がオープンするまでは、嫌になるぐらい来ていたのに」
ふっと、幻の創業メンバーのことを口に出す。
「そうだね。最近、連絡も来ない。夜にでも連絡してみようかな。東京でのこと、忘れたわけじゃないけれど、このところ忙しくて。エイトも電話口に出る?」
「う、うーん。まあ、その場のノリで」
「まだ苦手?」
エイトの態度に零が笑い出す。
だから、「いや、ヤツとはマブダチよ」とエイトは言い返してやった。
すると、店の外で「ごめんくださーい」と声がする。
すっかり顔なじみになった郵便局員の声だ。
「あ。オレ行く」
立ち上がろうとする零を制して、エイトがハンコを持って出ていくと、伝票の品名には「遺骨」と書いてあった。
ただならぬ予感がして、「零!零って!遺骨が届いた」と店内にいる彼を呼ぶ。
「送り主は大家と違う名前だが、名字は一緒だ」
「遺骨?まさか、大家さんの?どんなたちの悪い冗談だよ」
上がりかまちの上で急いで中を開けると、絹の袋に包まれた白い陶器が入っていた。
「嘘、だろ。え……。死んだなんて」
手紙も添えられている。
拝啓から始まるそれは、大家の親戚を名乗る人物からだった。
手紙の内容は大家は、一年ほど前から隠居生活に入っており、全物件は自分が引き継いだ。遺言で遺骨を貴方に送りつけるよう約束させられていた。それをやらなかったら呪ってやると言われていて。
字は綺麗だが年齢は若いのかもしれない。
後半は、大家の言葉そのまま書いたと手紙には書かれてあった。
遺骨は駅のトイレに流して欲しい。瀬戸内の海に流れていくだろうし。貴方達と出会えて、消えてしまいたいという思いが薄れた。ありがとう。
「死因、書いていないね」
読み終わった零がぽつんと言った。
目から涙が溢れ出し頬を濡らしていく。
「大家さん。何で勝手に死んじゃったんだよ」
「書いてあるだろ。零の存在が大家の死期を遅くしたって」
そこに自分も少しでも加われていたら嬉しいのだけれど。
大家はエイトにとっていけ好かないちゃんとした大人だった。
例えるなら、友人の父親みたいな、近いけれど遠い関係。
でも他人じゃない。
零が泣きながら箱から骨壷を取り出す。
底にまだ物がありエイトはそれを取り出した。
「これ、母さんのショール」
「おい。大家、これはさすがにトイレには流せねえぞ。零に返すってことか?それでいいんだな?」
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