【完結】そっといかせて欲しいのに

遊佐ミチル

文字の大きさ
上 下
94 / 99
第六章

94:エイトが得意なことで贖罪をしてみたら?

しおりを挟む
「三年刑務所に入って償ったんだろ。もうあんなところに戻るのは嫌だって言ってたじゃないか」
「出所したての頃は、被害者のことなんてなんの気にもしたことがなかった。でも、最近は何か夢中になってやっている時に、ふっと思う。俺、こんなことやっていていいのかなって。被害金額は百億以上で俺が弁済できる額じゃねえ。謝りに行っても向こうの心臓が止まりそうになるだろうしな。また、犯罪を犯すために嗅ぎ回ってんんのかって思われると思う。今まで他人にどう思われようがどうでもよかった。でも、あんたと出会ってからは、ちょっと違うんだ。今までの自分がなんか、……まるで誇れねえなって。だから、あんがキラキラした未来の話をし始めると、胸がざわざわして乗ろうとしても乗れない」
「エイト。これ、僕の持論だけど」
 黙って耳を傾けていた零が、少し強くなってきた海風に髪を見出しながら言った。
「エイトが小さかった頃、周りの大人で全力で助けてくれた人はいなかったんだろ?犯罪はその結果だよ。困っている子供を見ぬふりした大人が悪いんだ。巡り巡っての犯罪。で、エイトは罪まで償わされた。じゃあ、充分すぎるじゃないか」
 ずっと息と止めていたらしい。吐き出すと、零が背中に手を添えた。
 エイトは軽く首を振る。
「全力じゃあねえけど、助けてくれたのはいた。飯くれたり、声かけてくれたり」
 でも、それはずっとじゃなかった。再度頼ろうとすると大抵は邪険にされ、エイトは次第に心を閉じた。
 零がエイトにもたれてくる。
「人間の欲求って五段階あるんだって。ベースが生理的欲求。次が、安全欲求。所属と愛情欲求、承認欲求。最後に自己実現欲求。エイトはさ、指輪の人に生理的欲求と安全欲求を満たしてもらって、デリヘルボーイ所属で愛情欲求を満たし、闇組織で承認欲求を満たした。先の四つは欠乏欲求って言われててね、自己実現欲求は成長欲求って言われている。これまでのとは違う段階に行こうとしているだから、悩んだり乱れたりして当然」
 急に、ザーッと波の音が耳に響き始めた。
 今までもずっと波の音はしていたのに、どうしたことだろう。
 音だけではなく視界すら一気に開けた気がした。
「過去にやったことがどうしても気になるなら、エイトが得意なことで贖罪をしてみたら?例えば、子供食堂ならぬ子供カフェとか」
 コンビニ食材ではない、ちゃんと手間暇かけて作られたもの。
 自分の子供時代にそんなのに出会えたらどれだけ人生が違っていただろうと、エイトは思う。
 だが、すぐに壁にぶち当たる。
「朝市ですら採算取れてねえのに?俺は、零の金を当てにするのは嫌なんだよ」
「だったら月一」
「そんなんで効果あんのか?」
「やってみなくちゃ分からないだろ。それは小さい取り組みかもしれないよ。徒労に終わるかもしれない。でも、両手を広げてぐるっと回った内側にいる人を助けられればそれでいいって院内学級の先生が言っていた。当時はよくわからなかったけれど、みんなが両手を広げれば全員助けられるっていう理論だもんね」
「ぱねえな」
「ぱねえでしょ」
 零が先に腰を上げ、エイトに向かって手を差し出して来る。
 今まで自分がこの男に手を差し伸べていたつもりでいた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

青少年病棟

BL
性に関する診察・治療を行う病院。 小学生から高校生まで、性に関する悩みを抱えた様々な青少年に対して、外来での診察・治療及び、入院での治療を行なっています。 ※性的描写あり。 ※患者・医師ともに全員男性です。 ※主人公の患者は中学一年生設定。 ※結末未定。できるだけリクエスト等には対応してい期待と考えているため、ぜひコメントお願いします。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

男子高校に入学したらハーレムでした!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 ゆっくり書いていきます。 毎日19時更新です。 よろしくお願い致します。 2022.04.28 お気に入り、栞ありがとうございます。 とても励みになります。 引き続き宜しくお願いします。 2022.05.01 近々番外編SSをあげます。 よければ覗いてみてください。 2022.05.10 お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。 精一杯書いていきます。 2022.05.15 閲覧、お気に入り、ありがとうございます。 読んでいただけてとても嬉しいです。 近々番外編をあげます。 良ければ覗いてみてください。 2022.05.28 今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。 次作も頑張って書きます。 よろしくおねがいします。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

処理中です...