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第六章
93:あんたさ。過去に俺が犯した罪について何にも責めねえな。
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「月曜休み。火木金は塾にしようかと」
「金土日は?」
「カフェ」
「はあ?まさか、俺にやれって?」
「僕、出資する。エイトの腕を買ってるから。大家さんだって太鼓判押した」
「素人二人だろ」
「嫌な言い方」
「新田一の戸籍を偽造した件でいつ捕まるか分かんねえし」
「五年から十年だっけ?待つけど?」
当然だというように零が言う。
エイトは胸がざわつき始た。
それは、彼に大寒波の夜に拾われた頃に似ていた。
「塾の方は手伝う。掃除とか。チラシ配りとか」
ビーチサンダルに張り込んできた砂をほろいながら言うと、零が掴んでいた貝殻をぽんと海に投る。
「手を出して」
まるで婚姻指輪みたい、左の中指に指輪が嵌められた。
「僕、もう大丈夫だから、エイトに返すね」
エイトはポケットに手を突っ込んだ。その中で指を折り曲げると、硬い金属の感触を感じる。
零が笑う。
「それ、きっと、エイトの肉体の一部なんだよ。僕に長く貸していたから元気が無くなっちゃったんだよ」
病み上がりの相手に随分、気を使わせていたんだと気づいて、エイトはゆるゆると浜辺に座りこむ。零も寄り添うように隣に座った。
「最近、この幸せが壊れたらどうしようって思うんだ。パンとかが、やあハジメンってフラッと現れるとかさ」
「上原先生のことを調べてくれた人だっけ?引き入れちゃいなよ」
「はあ?お前、相手は生粋の犯罪者だぞ?」
「クリーンな仕事がいいってのは、エイトが実証済みでしょ」
「かなわねえなあ。六月礼王さんの肝の座り具合には」
エイトは頭を掻いたあと、膝を抱えた。
「最近、胸んあたりが苦しい。前もそんな感じになったけど、今の方が強え」
「息苦しいとか?病気じゃないよね?」
焦った顔で零が、無理やり腿と上半身の隙間に手を入れてエイトの胸に触れてくる。
「そんなんじゃねえ。たまに何で、俺、ここにいるんだろって自分が自分で分からなくなるときがあるんだ。もちろん、あんたに付いてきたからってことは分かっているだけど。どうして中学の勉強をしてんだろ、ケーキが上手く焼けて嬉しいって思うんだろ、映画を見て面白えって思えるんだろって」
「エイト。一人でも映画観るようになったもんね。料理がテーマのとか。小説だって読んでいるよね」
エイトは再び、ポケットから指輪を取り出した。中指に嵌ったそれをクルクルと回す。
「あんたさ。過去に俺が犯した罪について何にも責めねえな。非難めいたこと一つ言わない」
「金土日は?」
「カフェ」
「はあ?まさか、俺にやれって?」
「僕、出資する。エイトの腕を買ってるから。大家さんだって太鼓判押した」
「素人二人だろ」
「嫌な言い方」
「新田一の戸籍を偽造した件でいつ捕まるか分かんねえし」
「五年から十年だっけ?待つけど?」
当然だというように零が言う。
エイトは胸がざわつき始た。
それは、彼に大寒波の夜に拾われた頃に似ていた。
「塾の方は手伝う。掃除とか。チラシ配りとか」
ビーチサンダルに張り込んできた砂をほろいながら言うと、零が掴んでいた貝殻をぽんと海に投る。
「手を出して」
まるで婚姻指輪みたい、左の中指に指輪が嵌められた。
「僕、もう大丈夫だから、エイトに返すね」
エイトはポケットに手を突っ込んだ。その中で指を折り曲げると、硬い金属の感触を感じる。
零が笑う。
「それ、きっと、エイトの肉体の一部なんだよ。僕に長く貸していたから元気が無くなっちゃったんだよ」
病み上がりの相手に随分、気を使わせていたんだと気づいて、エイトはゆるゆると浜辺に座りこむ。零も寄り添うように隣に座った。
「最近、この幸せが壊れたらどうしようって思うんだ。パンとかが、やあハジメンってフラッと現れるとかさ」
「上原先生のことを調べてくれた人だっけ?引き入れちゃいなよ」
「はあ?お前、相手は生粋の犯罪者だぞ?」
「クリーンな仕事がいいってのは、エイトが実証済みでしょ」
「かなわねえなあ。六月礼王さんの肝の座り具合には」
エイトは頭を掻いたあと、膝を抱えた。
「最近、胸んあたりが苦しい。前もそんな感じになったけど、今の方が強え」
「息苦しいとか?病気じゃないよね?」
焦った顔で零が、無理やり腿と上半身の隙間に手を入れてエイトの胸に触れてくる。
「そんなんじゃねえ。たまに何で、俺、ここにいるんだろって自分が自分で分からなくなるときがあるんだ。もちろん、あんたに付いてきたからってことは分かっているだけど。どうして中学の勉強をしてんだろ、ケーキが上手く焼けて嬉しいって思うんだろ、映画を見て面白えって思えるんだろって」
「エイト。一人でも映画観るようになったもんね。料理がテーマのとか。小説だって読んでいるよね」
エイトは再び、ポケットから指輪を取り出した。中指に嵌ったそれをクルクルと回す。
「あんたさ。過去に俺が犯した罪について何にも責めねえな。非難めいたこと一つ言わない」
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