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第六章

91:あんたの側で何かしたいんだけど、何も思い浮かばねえんだわ。真っ当なことでできることが何も

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「迷惑?何言ってんだよ。新しく住む場所は大家が見繕ってくれたからな」
と告げると、零が「どこ?」と目を輝かせる。
 最近、零は未来の話が好きだ。
 ようやく自分の人生は明るいと思えてきたのだろう。
 だが、エイトはまだそこまで至っていない。
「瀬戸内。移住者が多く住んでいて温暖だ。セキュリティがしっかりしたマンションだ。いざというとき診てくれる大きな病院までは車で一時間ほど。エイトに決めて欲しいって言われたから俺がドクダンで選んじゃったけど本当によかったのか?」
「残党が僕のことを探し回ってるかもしれないんでしょ?だったら、僕の希望なんか考えずエイトが決めてくれた方がいい。それに、どの地方だって、エイトと二人で暮らせるなら最高だ。ワクワクする。ずっと、一緒に居られるね」
「そうだな」
「あれ?反応がいまいち?重かった、僕」
「いいや」
 エイトは軽く首を振る。
「医者にも、できるなら半年は二十四時間体制で側に居てやれって言われているから、そのつもりだった。でも、零はどんどん元気になっていくだろうし、俺のサポートは必要無くなるわけで、実質ヒモみたいなもんになっちまうなあ、俺って思ってたとこ。あんたの側で何かしたいんだけど、何も思い浮かばねえんだわ。真っ当なことでできることが何も」
 零がエイトの手を取った。
「だから、最近浮かない顔をしていた?事件の後処理もほぼ済んで、気が抜けたんだと思っていた。エイトは僕よりも何歩も前に進んでいるんだねえ。できれば置いていかないで欲しいな」
 手を絡めると、零が付けている指輪がエイトの指に触れた。
「悪い……。あんたはまだ一日、一日を過ごすのが大変な時期だってのに。俺は、あんたが生きている幸せを噛みしめるべきなのに」
 零がエイトを抱き寄せてきた。
「エイト。君に退院祝いをあげるね」
「普通、俺があげるもんだろ?」
「キメセクしてやっから」
 少し落ち込んでいたエイトは吹き出す。
「そのセリフ」
「そう。闇組織にお互い拐われ、離れ離れになって電話越しでエイトが言ったセリフだよ。あんな状況なのに痺れたなあ」
 毛量の戻った零の髪を撫でる。
 その感触に、零は確かに生きているとエイトは思う。

 零が退院して一年が過ぎた。つまり、日常生活に戻って半年。
 越してきた瀬戸内は、温暖で過ごしやすい。海辺では朝市が立ち、新鮮な野菜や魚が驚くほど安い値段で売られている。
 夕暮れになって海で足を浸すのが二人の日課だ。もう暦は秋なのだが、半袖にハーフ丈のズボン、ビーチサンダルでいける。 
 零は、まだ細いが身体も以前より大分ふっくらしてきた。親指にはエイトが渡したシルバーの指輪が光っている。
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