【完結】そっといかせて欲しいのに

遊佐ミチル

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第五章

81:僕って卑怯。広域強盗犯以上に

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 でも、そんな零の前に、俺のために生きろというどうしようもなく欲望剥き出しな男が現れてしまった。
「いや、違うか。僕が、部屋来る?って誘ったんだ。大寒波の夜に。身から出た錆というかなんというか。エイト、この例え、分かるかなあ?」
 笑いが込み上げてくる。
 やっぱり自分は生きたかったのかもしれない。
 それを、エイトに代弁させた。
 零は指輪を撫でた。
「僕って卑怯。広域強盗犯以上に」
 エイトがこの指輪を他人に預けるのがどういう意味を持つのか零には痛いほど分かっていた。
 大寒波の夜に指輪を拾いに行く男だ。零にその姿を見せたいという演技だったとしたら、そっと部屋は抜け出さない。万が一、一連の話が嘘だったとしても、この指輪だけは彼にとっては手放せない物なはずなのだ。
 零は再度、起き上がろうとした。
「腕すら上がらない。このまま布団に身体が沈んでいきそう」
 子供時代に何度もこんな状態になった。
 その度に母親が医者に「覚悟してください」と言われたと聞かされた。
「……生きなきゃ……いけないのに」
 あの後を追う宣言、本気なのかもしれない。
 身を落ち着ける場所として辿り着いた組織は、むしろその逆で、その後出会った自分に安住の地のようなものを覚えた。
 とすると、エイトはこの世に未練などないのだ。
 未練を残すほど、この世で幸せな体験をしていないから。
「うわあ」
 零は心の底から呻いた。
「本当、僕、絶対に死ねないや。エイトにいろんな楽しいことがあるんだって覚えさせなきゃ」
 違う選択をすると大寒波の夜に決めた。
「だから、足掻く」
 零は「病院」と呟いて防犯スティックを取り寄せようとした。
 救急車を呼ぶ気力すら残されていない。民間警備会社を呼ぼう。そして、治療によっては寛解率二十五パーセントもあるって言ってくれた医者がいる病院へ行く。
 なんとか布団から抜け出して床を這いかけていると
「ドドドドッ」
と急に部屋の扉が叩かれた。
「何?」
 ドアノブが乱暴に回される音がする。
「救急隊です。救急隊です」
と若い男の声がした。
「お騒がせしてます。この部屋で救急車を呼んだ重病人がいます」
とまた。きっと、廊下にいた住人へ呼びかけているのだろう。
「救急隊?」
 零は怪訝に思った。
 自分は、防犯スティックは押していない。だったら、エイトが呼んだのだろうか。
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