81 / 99
第五章
81:僕って卑怯。広域強盗犯以上に
しおりを挟む
でも、そんな零の前に、俺のために生きろというどうしようもなく欲望剥き出しな男が現れてしまった。
「いや、違うか。僕が、部屋来る?って誘ったんだ。大寒波の夜に。身から出た錆というかなんというか。エイト、この例え、分かるかなあ?」
笑いが込み上げてくる。
やっぱり自分は生きたかったのかもしれない。
それを、エイトに代弁させた。
零は指輪を撫でた。
「僕って卑怯。広域強盗犯以上に」
エイトがこの指輪を他人に預けるのがどういう意味を持つのか零には痛いほど分かっていた。
大寒波の夜に指輪を拾いに行く男だ。零にその姿を見せたいという演技だったとしたら、そっと部屋は抜け出さない。万が一、一連の話が嘘だったとしても、この指輪だけは彼にとっては手放せない物なはずなのだ。
零は再度、起き上がろうとした。
「腕すら上がらない。このまま布団に身体が沈んでいきそう」
子供時代に何度もこんな状態になった。
その度に母親が医者に「覚悟してください」と言われたと聞かされた。
「……生きなきゃ……いけないのに」
あの後を追う宣言、本気なのかもしれない。
身を落ち着ける場所として辿り着いた組織は、むしろその逆で、その後出会った自分に安住の地のようなものを覚えた。
とすると、エイトはこの世に未練などないのだ。
未練を残すほど、この世で幸せな体験をしていないから。
「うわあ」
零は心の底から呻いた。
「本当、僕、絶対に死ねないや。エイトにいろんな楽しいことがあるんだって覚えさせなきゃ」
違う選択をすると大寒波の夜に決めた。
「だから、足掻く」
零は「病院」と呟いて防犯スティックを取り寄せようとした。
救急車を呼ぶ気力すら残されていない。民間警備会社を呼ぼう。そして、治療によっては寛解率二十五パーセントもあるって言ってくれた医者がいる病院へ行く。
なんとか布団から抜け出して床を這いかけていると
「ドドドドッ」
と急に部屋の扉が叩かれた。
「何?」
ドアノブが乱暴に回される音がする。
「救急隊です。救急隊です」
と若い男の声がした。
「お騒がせしてます。この部屋で救急車を呼んだ重病人がいます」
とまた。きっと、廊下にいた住人へ呼びかけているのだろう。
「救急隊?」
零は怪訝に思った。
自分は、防犯スティックは押していない。だったら、エイトが呼んだのだろうか。
「いや、違うか。僕が、部屋来る?って誘ったんだ。大寒波の夜に。身から出た錆というかなんというか。エイト、この例え、分かるかなあ?」
笑いが込み上げてくる。
やっぱり自分は生きたかったのかもしれない。
それを、エイトに代弁させた。
零は指輪を撫でた。
「僕って卑怯。広域強盗犯以上に」
エイトがこの指輪を他人に預けるのがどういう意味を持つのか零には痛いほど分かっていた。
大寒波の夜に指輪を拾いに行く男だ。零にその姿を見せたいという演技だったとしたら、そっと部屋は抜け出さない。万が一、一連の話が嘘だったとしても、この指輪だけは彼にとっては手放せない物なはずなのだ。
零は再度、起き上がろうとした。
「腕すら上がらない。このまま布団に身体が沈んでいきそう」
子供時代に何度もこんな状態になった。
その度に母親が医者に「覚悟してください」と言われたと聞かされた。
「……生きなきゃ……いけないのに」
あの後を追う宣言、本気なのかもしれない。
身を落ち着ける場所として辿り着いた組織は、むしろその逆で、その後出会った自分に安住の地のようなものを覚えた。
とすると、エイトはこの世に未練などないのだ。
未練を残すほど、この世で幸せな体験をしていないから。
「うわあ」
零は心の底から呻いた。
「本当、僕、絶対に死ねないや。エイトにいろんな楽しいことがあるんだって覚えさせなきゃ」
違う選択をすると大寒波の夜に決めた。
「だから、足掻く」
零は「病院」と呟いて防犯スティックを取り寄せようとした。
救急車を呼ぶ気力すら残されていない。民間警備会社を呼ぼう。そして、治療によっては寛解率二十五パーセントもあるって言ってくれた医者がいる病院へ行く。
なんとか布団から抜け出して床を這いかけていると
「ドドドドッ」
と急に部屋の扉が叩かれた。
「何?」
ドアノブが乱暴に回される音がする。
「救急隊です。救急隊です」
と若い男の声がした。
「お騒がせしてます。この部屋で救急車を呼んだ重病人がいます」
とまた。きっと、廊下にいた住人へ呼びかけているのだろう。
「救急隊?」
零は怪訝に思った。
自分は、防犯スティックは押していない。だったら、エイトが呼んだのだろうか。
0
お気に入りに追加
57
あなたにおすすめの小説

好きなあいつの嫉妬がすごい
カムカム
BL
新しいクラスで新しい友達ができることを楽しみにしていたが、特に気になる存在がいた。それは幼馴染のランだった。
ランはいつもクールで落ち着いていて、どこか遠くを見ているような眼差しが印象的だった。レンとは対照的に、内向的で多くの人と打ち解けることが少なかった。しかし、レンだけは違った。ランはレンに対してだけ心を開き、笑顔を見せることが多かった。
教室に入ると、運命的にレンとランは隣同士の席になった。レンは心の中でガッツポーズをしながら、ランに話しかけた。
「ラン、おはよう!今年も一緒のクラスだね。」
ランは少し驚いた表情を見せたが、すぐに微笑み返した。「おはよう、レン。そうだね、今年もよろしく。」

ハンターがマッサージ?で堕とされちゃう話
あずき
BL
【登場人物】ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ハンター ライト(17)
???? アル(20)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
後半のキャラ崩壊は許してください;;

鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】
彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』
高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。
その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。
そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?

男子高校に入学したらハーレムでした!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
ゆっくり書いていきます。
毎日19時更新です。
よろしくお願い致します。
2022.04.28
お気に入り、栞ありがとうございます。
とても励みになります。
引き続き宜しくお願いします。
2022.05.01
近々番外編SSをあげます。
よければ覗いてみてください。
2022.05.10
お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。
精一杯書いていきます。
2022.05.15
閲覧、お気に入り、ありがとうございます。
読んでいただけてとても嬉しいです。
近々番外編をあげます。
良ければ覗いてみてください。
2022.05.28
今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。
次作も頑張って書きます。
よろしくおねがいします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる