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第五章

72:いいな、それ。逃亡者みたいで

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「何する、そこで?」
「引きこもってゲーム三昧。ジダラクな生活ってヤツ」
「うーん。定住前に、点々とするのは?一週間とか十日単位でさ」
「いいな、それ。逃亡者みたいで」
「ケーキ屋とか行きまくろう」
 エイトが吹き出す。
「一気にハードボイルド感が無くなった」
 想像は楽しかった。自分はすっかり健康な人で、エイトと一緒に観光をしている。
「へへ。楽し」
と笑うと、エイトが目元を拭ってくれた。
 昼過ぎに大家が大荷物を抱えてやってきて、衣類や食料を置いていた。鍋や包丁なども買ってきてくれた。
 民間警備会社と契約したそうで、首からかけるスティック型の防犯ブザーを零もエイトも渡される。スティックから出ているヒモを引けば、民間警備会社に直通で連絡が行くらしい。
「これで安全だね」
と零が言うと、
「もしこの部屋に奴らが押し入ってきたとしてそのヒモを引いたって駆けつけてくるまで、十分近くかかる。たぶん、奴ら近くで他でも事件を起こして、到着を遅らせるぐらいのことはする」
「そうなの?」
「経験談。事務所にある金庫破りをする場合、盗む予定のない幾つかの事務所の窓ガラスを割って強盗が入ったように見せかけカクランすんだよ」
 エイトはスティックを突き出す。
「まあ、これに絶対的な安心は無い。あるだけマシってぐらいかな。金融系のチノウハンでも無い限り、犯罪者って頭を使ってないように見えるだろ?そんなことない。用意周到だ。捕まりたくないから」
「そこまで頭を使えるなら、普通に仕事すればいいのに。強盗って最悪死刑になるかもしれないんだろ」
「闇組織まで堕ちてくるようなのは、普通の世界ってもんと上手くコミュニケーションが取れねえ。それは俺が一番良くわかっている。そんなのが働ける普通の仕事はテイチンギンか、食えていけてもめちゃくちゃノルマがきついか」
「そっか」
「ま、だから犯罪していいって訳じゃねえけど」
「だね」
「テレビがないと暇だな。闇組織のニュースと雪の情報しかやってねえだろうけれど、音があった方が気が紛れそうだ」
「音楽でも聞く?」
「昔から全然、興味なかったからなあ」
「僕も。愛だの恋だの、全然共感できなくて。常に病気のことを気にしているせいで、何かを好きなる余力が無かった。家から出られないから映画はよく見ていたけれどね。あと、本」
「ふうん。映画と本ねえ。俺、そういうのすぐに眠くなるんだよなあ」
「でも、ハマれるのに出会ったら最高に楽しいよ。それがシリーズものであったらなおさらだ」
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