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第五章
71:同棲っぽい
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「来たっぽいぞ」
エイトが零の携帯を見つめている。
配車アプリでタクシーを数十分前に頼んだ。それが到着したのだろう。
荷物はすでに準備していた。
といっても財布と薬ぐらいしかない。
強盗事件があったばかりなので周りには警察がウロウロしている。闇組織の連中がそんな中で見張るようなことはしないだろうが、大荷物でいると転居しようとしているのがバレるかもしれないので念のため軽装をしている。
服装も変え、大家の地味なコートを二人とも着ていた。
零はボアがついた厚手のマウンテンパーカー。エイトは、キルトのライナーが裏地についた黒いかっちりとしたビジネスマン風のコート。下がスウェットなので全然、似合っていないのだが、一瞬の目くらましにはいいだろう。
「気を付けて」
玄関前で大家と別れの挨拶を交わす。
衣類や食料を持って昼過ぎに転居先に来てくれることになっているので、永遠の別れでは無いのだが、なぜか湿っぽかった。
「行くぞ」
エイトに急かされ、エレベーターに乗り込む。
タクシーで移動を開始し、 数駅先のマンションの手前で降りる。ちょっと遠回りして、付けてくるのがいないか確認したのち、中に入った。
玄関にはコンシェルジュがいて、こちらの気も知らずににこやかに笑っていた。
大家が言った通り、オートロックは二重になっていて、渡された鍵でそれを解除する。
ホテルみたいな廊下を歩きたどり着いた十階の部屋はワンルーム。玄関のロックはなんと三つ。テレビやベットは無く布団が二組置かれてある。
「電子レンジとか冷蔵庫は備え付けなんだね。あ、乾燥機付きの洗濯機まで有る。便利だな」
まるで新居に引っ越してきた気分だ。
「青空だ」
カーテンの無い窓からは、雲のない空が広がっていた。布団の上に置かれていたカーテンを見つけてエイトが早速取り付けてくれる。
「疲れたろ?」
「そんなでも無いよ」
極端に食欲が落ち、身体が軽い。血が足りてないのかクラクラすることもあった。
今、調子が良いのは緊張感からくる小康状態で、慣れればまた具合が悪くなる。
あとどれだけエイトと一緒にいられるのかな?
そう思うと、目がじわっと濡れてきて参った。
「同棲っぽい」
カーテンを付け終わったエイトは振り向いた。
「ごめん。そんな悠長な状態じゃないね。はしゃいじゃった」
彼を危険な目に合わせているのは確かだ。
自分が死んだら、母が命を引き換えに残してくれた財産はどうせ国に取られるだけなのだから、一部をエイトに渡してやってほしいと彼が風呂で不在にした時に大家に相談していた。もちろん難色は示されたが、我を通した。
「この事件が終わったら、しようぜ」
エイトが話に乗ってくるとは思わなくて、ちょっとびっくりした。
「ここまで、ええっと、追い込みってヤツ?を僕、かけられているのに?」
「逃げ切れる。俺に考えがあるから。東京を離れて暮らそう。西がいいな。冬でも温かいところ。ド田舎だと目立つかもしれないから、そこそこ大きい都市で」
エイトが零の携帯を見つめている。
配車アプリでタクシーを数十分前に頼んだ。それが到着したのだろう。
荷物はすでに準備していた。
といっても財布と薬ぐらいしかない。
強盗事件があったばかりなので周りには警察がウロウロしている。闇組織の連中がそんな中で見張るようなことはしないだろうが、大荷物でいると転居しようとしているのがバレるかもしれないので念のため軽装をしている。
服装も変え、大家の地味なコートを二人とも着ていた。
零はボアがついた厚手のマウンテンパーカー。エイトは、キルトのライナーが裏地についた黒いかっちりとしたビジネスマン風のコート。下がスウェットなので全然、似合っていないのだが、一瞬の目くらましにはいいだろう。
「気を付けて」
玄関前で大家と別れの挨拶を交わす。
衣類や食料を持って昼過ぎに転居先に来てくれることになっているので、永遠の別れでは無いのだが、なぜか湿っぽかった。
「行くぞ」
エイトに急かされ、エレベーターに乗り込む。
タクシーで移動を開始し、 数駅先のマンションの手前で降りる。ちょっと遠回りして、付けてくるのがいないか確認したのち、中に入った。
玄関にはコンシェルジュがいて、こちらの気も知らずににこやかに笑っていた。
大家が言った通り、オートロックは二重になっていて、渡された鍵でそれを解除する。
ホテルみたいな廊下を歩きたどり着いた十階の部屋はワンルーム。玄関のロックはなんと三つ。テレビやベットは無く布団が二組置かれてある。
「電子レンジとか冷蔵庫は備え付けなんだね。あ、乾燥機付きの洗濯機まで有る。便利だな」
まるで新居に引っ越してきた気分だ。
「青空だ」
カーテンの無い窓からは、雲のない空が広がっていた。布団の上に置かれていたカーテンを見つけてエイトが早速取り付けてくれる。
「疲れたろ?」
「そんなでも無いよ」
極端に食欲が落ち、身体が軽い。血が足りてないのかクラクラすることもあった。
今、調子が良いのは緊張感からくる小康状態で、慣れればまた具合が悪くなる。
あとどれだけエイトと一緒にいられるのかな?
そう思うと、目がじわっと濡れてきて参った。
「同棲っぽい」
カーテンを付け終わったエイトは振り向いた。
「ごめん。そんな悠長な状態じゃないね。はしゃいじゃった」
彼を危険な目に合わせているのは確かだ。
自分が死んだら、母が命を引き換えに残してくれた財産はどうせ国に取られるだけなのだから、一部をエイトに渡してやってほしいと彼が風呂で不在にした時に大家に相談していた。もちろん難色は示されたが、我を通した。
「この事件が終わったら、しようぜ」
エイトが話に乗ってくるとは思わなくて、ちょっとびっくりした。
「ここまで、ええっと、追い込みってヤツ?を僕、かけられているのに?」
「逃げ切れる。俺に考えがあるから。東京を離れて暮らそう。西がいいな。冬でも温かいところ。ド田舎だと目立つかもしれないから、そこそこ大きい都市で」
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