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第四章

70:そこまでシューチャクしてもらえて、俺としてはものすごく嬉しいんだけど

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「簡単に言うなよ。奇跡的に寛解したって健康な人と同じくなれるわけじゃないんだぞ。ずっとしんどいままなんだぞ。だからさっき、そっと逝かせて欲しいって頼んだじゃないか!」
 大家が入ってきて、追加の枕を布団に上に置き、洗面器を引き取りながら言った。
「ここから数駅先に空き部屋がある。部屋は狭いが、二重オートロックでコンシェルジュもいる。電気やガス、水道も開通させた。新田、お前は零と一緒にそっちに移動しろ」
「大家。あんたな」
 エイトが顔を曇らせていると、
「我儘を通すことにしたそうだ。零は。お前と引き剥がすなら、死んだ後、呪ってやるとまで言われた」
 大家が和室を出ていった。
「……エイト。……側にいて」
「おう。大家のお許しが出たからな」
「そんなに長い時間じゃないよ。ギブアップして入院するって言い始めるまで三、四日もないと思う。口の中どころか、喉まで腫れちゃって、食事も消化できなくなってきちゃっているから」
 吐き疲れたのか、零が目を瞑る。
 エイトが布団に横たえさせようと身体を少し持ち上げるとさらに身体が軽くなった気がした。
 コートを脱いで隣に横たわる。
「ふふ、これって留置所の匂いなのかな。エイトから色んな匂いがする。味覚は駄目になったけれど、鼻はきくんだよねえ。本当、人間の身体って不思議」
「明日の朝、ここを出よう。通勤、通学の人通りが多い時間がいい。見張ってたとしても手出しできねえ」
「映画みたいだね」
 エイトは零の頭を抱き込んだ。
「ああ」 
「巻き込んじゃったね。エイトの存在が向こうにバレていたら闇組織と敵対することになっちゃう。ちゃんと逃走資金を渡すから」
「もう喋るな。寝ろ」
「分かっているんだ。エイトを危険に晒していること。今までの僕だったら一緒にいてなんて言わないっていうか、言えない。けど、もうこんなになっちゃたから、我儘言っちゃった。エゴ丸出しだ」
「そこまでシューチャクしてもらえて、俺としてはものすごく嬉しいんだけど」
 もしすでに自分の顔が割れていたら、闇組織は莫大な金をエイトが横取りしようとしていると考えているかもしれない。
 捕まれば、死ぬまで叩きのめされる。
 裏切り者やヘマして組織に損害を与えた者はそうやって処分されたのを何度も目にしていた。
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