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第四章

67:じゃあさ、最後まで僕のこと上手く騙してよ

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 なら、パンのいる裏カジノに転がり込むか。
 ……いや、それは。
「エイト!!」
 マンションのエントランスを出て歩いていると、零の声がする。
 エレベーターを使って降りてきたようだ。
 エイトは振り向いて忠告した。
「騒ぐな。見張られているかもしれない」
「大家さんとこ、一緒にいよう」
「俺は歓迎されてないだろ。警察に俺を謳ったのだってあいつだろうし。数日前からおかしなのが転がり込んできている。怪しいってな」
 また歩き出す。
「どこ行く気?もう向こう側に行っちゃ駄目だよ」
「行かねえけど、あんたともいねえ。疑ったろ。金目当てて近づいてきたんじゃないかって。ひったくりすらグルかもしれないって」
「そりゃ、考えたよ」
 零が手袋に落ちて消えていく雪を見ながら、
「でも、さ」
 自分の左の中指を摘んでくるくる。指輪を回すような仕草をしてみせる。
「落とした指輪にエイトは動揺して、夜中に探しにまで行った。どうしてもそこにたどり着いちゃうんだよねえ」
「指輪と金は別問題」
 そっけなく言うと、
「三億」
 零がまっすぐにエイトを見た。
「僕の資産」
「言うな。こんなところで」
 多くて数千万円だと思っていたので予想外の額と零の迂闊さに焦る。
「母さん、保険の外交員をしていたからノルマを達成できない時、保険料の安い保険に毎回入ってたんだ。それでもノルマが達成できないときは、他の種類のも。父さんのは、大手運送会社の当て逃げだったから、裁判して賠償金が支払われたんだって。そっちの方が多い」
「そのことを知ってんのは誰だ?」
「大家さんと上原先生。あと、エイト。それだけしかいないよ」
「いいや。税務署だって資産状況は把握している。金が振り込まれた金融機関の連中だって。当然、生保の奴も怪しい。そういう情報って、ヤクザの元に集められて闇組織に割り振りされんだよ。俺はそういうのを扱ってきた」
 零がニコリとした。
「じゃあさ、最後まで僕のこと上手く騙してよ。そうしたら、お金を奪っていっても枕元に立ったりしないからさ。あ、恨んで化けて出るっていう意味ね。枕元に立つっていう比喩は」
「あんた、セックスの真似ごとしてのぼせ上がっているんだ。頭を冷やせ」
 零が手袋を取って自分の鼻をこする。 
 血がついていた。
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