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第四章

65:エイトって一って名前だったんだね

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 だが、
「てめえの組織の人間が、てめえが世話になっている住人の家でタタキやってんだぞ。っまたとっ捕まえてやるからな」
が森の言い分。
 蛇のようにねちっこいこの男と再び出会ったのは、最悪だったが、タイミング的には悪くなかったように思える。
 エイトのいた組織の人間がタタキをやらかしたということは、リストが出回っているということだ。
 通称Fリスト。富裕者層の頭文字を取ったダサい名前のリストだ。
 出どころは百貨店の上客リスト。有名私立小学校の名簿。高級質屋の売却リスト。銀行の預金リスト。
 闇金に手を出して返せなくなっているようなのは、その取り立てから逃れたいがために簡単に顧客の資産データを盗んでくる。民間だけでなく、税務署職員だってそういうことをやるゴジセイだ。こっちの方がニュースにならないのは、国が隠したいから。生命保険の支払いリストの流出もそんな感じなんだろう。
「上原って医者を洗え。強盗の被害者は二重に狙われている」
 エイトの読みはこうだ。
 組織の上層部は、情報を売った生保の人間と上原から情報をもらい、零に狙いを定めた。パン曰くクリーンな犯罪で手が後ろに回ること無く金をせしめようとしたのに、別働隊、もしくは末端に近いグループがかすめ取ろうとした。
 この統率力の無さは、組織の崩壊が始まっているということだ。
 もしかしたらあのひったくりだって怪しく感じられてくる。
 そして、あの日からエイトは零の家に居着いた。
 だから、ひったくりが失敗に終わり、タタキも出来なくて、今日のような不在を狙ったのだとしたら。
 完全なロックオンだ。
 零に、逃げろと伝えなければならない。
 でも、面と向かって信じてくれるだろうか。
 パトカーに乗せられ連行されていくとことを見ていたことだし。普通の人には衝撃的な姿だろう。
「じゃあ、手紙?」
 状況をそれで説明し、こっちは姿を消すしか無い。
「……いい、感じだったのに。でも、しゃあねえか」
 罪を償ったとはいえ、それは法的にだ。社会では自分のような存在は許されないのだと切に感じた。
 エイトが昨晩のうちに連れてこられたのは池袋警察所だった。大きな道路に面しており、歩道にせり出すようにして建っているので、圧迫感がある。一階の受付から外を見ると道路が濡れていた。
 待合には、見覚えのある小柄な男が座っていた。
 エイトの姿を見て、零が立ち上がる。
「警察署って病院みたいな感じなんだね。思ってたより綺麗だ」
「何、呑気なこと言ってんだ。一人でうろちょろすんな。警察から聞かされなかったのか?」
「世間を騒がせている広域強盗犯の一人の髪の毛が見つかったって。京都の貴金属店に押し入った犯人だって言っていた。狙われてるかもしれないから十分注意してくださいって。あと、新田一からは離れろって。エイトって一って名前だったんだね」
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