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第四章

64:新田。てめえ、出てきてそうそうにこれか?

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 叱られた。それも、なかなかいいもんだ。相手に全く興味がなければ、注意なんてしない。少なくともエイトの幼少期に周りにいた大人の殆どがそうだった。きちんとしつけてくれたのは指輪をくれた女ぐらい。
 無意識に指輪を左右にひねっていた。
「はい」
 目の前に、フォークに突き刺さったケーキがあった。
「ん?」
「あーんして食べて。恥ずかしいだろ?」
 これは、一瞬でもよそ見をした罰か?
「全然」と言ってケーキに食らいつく。口に生クリームがついたって構いやしない。
 零がおかしそうに笑って、口元を拭ってくれた。
 この笑顔を曇らせたくなかった。
 医者の上原のことを嫌がっているようでも長い付き合のようだし、「お前、利用されそうになってるのかもしんねえぞ」と言えばショックを受ける。
 治療法が無いのだって噓かもしれない。零が元気になってしまえば、手懐けられなくなる。前払いできる零の死亡保険金だけじゃなく、母親のも手に入れられなくなる。
 どう話したもんかと思いながら家に戻る。
 遠くに音を出さずに赤色灯が回っているパトカーが数台。
「うちのマンションの辺りだ。何かあったのかな?あれ、大家さんから何回も連絡が入ってる」
 零は何度かかけ直したが、大家は出なかったようだ。三階に向かうと、ショールを羽織った大家が廊下でPOLICEと背中に白地で書かれたジャンバーを着た男ら数人と話し込んでいる。
「零!」
 大家が駆け寄ってきながら、警察に目配せをした。
「ちょっと来てもらおうか」
とエイトは彼らに腕を掴まれる。
 開け放たれた零の部屋は、現状がわからないほど荒らされていた。布団中を切り裂いてまで金目の物を探したのか、白い羽毛がごっそり床に落ちている。
「新田。てめえ、出てきてそうそうにこれか?」
 警察の一人は見たことがある男だった。
「森?!」
「てめえんとこの組織の野郎の髪の毛が残ってたんだよ。てめえがタタキを手引したんだろうが。住人連れ出して確実に不在にさせるんのは新しいやり口か?」
「はあ?」
 エントランスまで連れ出され、横付けされていたパトカーに後頭部を捕まれ押し込まれる。
 車のドアが締まる瞬間、
「違うんです。その人、僕とずっと一緒にいたんです」
と叫ぶ零の声が聞こえてきた。

 留置所には一日しかいなかった。嫌疑不十分で釈放だ。
 当たり前だ。携帯は持っていても、契約はできていない。組織と連絡を取り合ったという証拠がない。そして、犯行が起こったとき零とずっと一緒にいた。
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