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第四章

58:昨晩から一緒に寝るのがカイキンされたわけだけど、今夜は?

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 玄関の開く音と同時に零の声がした。
「おう」
「おうじゃなくて、おかえりって言っ……」
 最後まで言わず、零はズカズカとエイトに近づいてきた。羽織ってたショールすら脱がず間近でしゃがみこむ。
「外に行ってた?それも長い時間。甘い香りがする」
 たぶん、それは葉巻の香りだ。
「行き先は風俗?男に勃った自分にびっくりして、自分は大丈夫なのかって女の身体を確かめたくなった?」
 さっさと風呂に入っておけばよかったと後悔したが、零がぷりぷり怒るのがなんだか心地よくもあった。
 しゃがんでいるのが辛くなったのか零はドラッグストアの銀色の袋の上に手を付く。
「なんか潰した。あれ、こ、これってコンドーム?それにローションまで。分かった。ヤサのところに行ったんだ。で、これ使ったんだ」
 怒りの形相を浮かべ、握りしめたコンドームの箱をエイトに向かって突き出してくる。物凄い妄想力だ。
 ここまで怒っているってことは、嫉妬?たぶん、そうなんだろう。
「開けてねえし」
「え?」
「それ、あんたとするとき用に買ったんだし」
 エイトは不意打ちで唇を奪う。
「大家の家で何食ったの?にんにく?」
「ぶ、豚とキャベツの塩バターにんにく鍋」
「美味そう。なかなかねえぞにんにく鍋のキスは。ちなみに俺は牛丼」
「信じらんない!食べた後にす、すぐ、キ、キスだなんて」
 エイトは零をつついた。
「なあ、今夜は?」
「ね、寝るよ」
「了解」
「……」
「残念そうな顔してらあ。へえ。あんたのシナリオではここは求めて欲しい場面なわけね。嫌だ、やめてってあんたがいくら言おうと、なあ、したい、させてって俺は迫る。んでグズグズのセックスをする」
「うあああ」と叫んだ零が、「その単語、ヤメロ」と言いながら耳を抑えた。

 風呂から出ると、零がもうベットに横たわっていた。こちらに背を向けた状態だ。
 へこまされたコンドームの箱とローションボトルが、床に転がっている。エイトはそれを袋に戻しリュックに突っ込む。
「寝ちゃうのか?」
「知らない」
「昨晩から一緒に寝るのがカイキンされたわけだけど、今夜は?」
 何のちょっかいも出さずに黙っていると、根負けしたように零が壁際に身体を寄せた。
「おじゃましまーす」
 腰に巻いていたタオルを外し、中に入って零を後ろから抱く。
「は、裸?!何で?」
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