【完結】そっといかせて欲しいのに

遊佐ミチル

文字の大きさ
上 下
57 / 99
第四章

57:その迂闊さでムショ行きになってないのは、俺のお陰だからな

しおりを挟む
「てめえ、余計なことをしたら、俺も余計なことをしてやるからな。しつけえ蛇みたいな警視庁の森、覚えてんだろ?」
 特殊詐欺専任の鬼刑事の名前を出すと、パンが脂肪にまみれた顔をぴくりと痙攣された。
「分かったって。熱くなっちゃって、ハジメンらしくないなあ。その患者ってハジメンの獲物なんだろ?ムショ出て一週間でどうやって見つけたのさ?相変わらず動物みたいな鼻の良さだね」
「うるせえっ」
 エイトはテーブルをひっくり返しそうなぐらいの勢いで立ち上がる。
「うわっとと」
 パンがコーヒーの雫がかからないようノート型パソコンを抱え上げた。
「その迂闊さでムショ行きになってないのは、俺のお陰だからな」
「はいはい」
「上原の件、明日まで」
「はいはい、え?」
「電話する」
 エイトはパンを置き去りにして喫茶店を出て、電車に飛び乗る。
 腹が立っていた。
 零は獲物ではない。ダイカンパの夜にコートから長財布が出ていたからひったくりやすそうだと思ったことはある。だが、思っただけで手は出していない。それにそれ以降は零を利用しようなんて考えなかった。犯罪能力を封印した無価値な自分でも、一緒にいてくれてありがたいと言ってくれたからだ。
 エイトは、パンから「特に黒い部分は無かったよ」という報告が後日あることを願った。
「上原ってのが本当に親切なだけの医者なら俺の勘は外れたってことになる。三年ムショにいて錆びついたんだ」
 それが一番いい。もう犯罪の世界には戻れないという印になるから。
 エイトは、最寄りの駅で降り、ドラッグストアに寄った。今後、零との関係が進むとしたら必要になるであろうものを幾つか買う。
 部屋に戻る。
 零はまだ大家の部屋のようだった。だから、「でっかいうんこしてくる」というメモ書きを丸めてゴミ箱に捨てる。
 食事は済ませたし、零もたらふく食ってくるだろうから、準備はいらない。ドリルは全部終わらせてしまったし、何もやることがない。
 テレビをつけた。
 タイから指示役が移送され、飛行機の中で逮捕されたという速報がテレビ画面上部に走った。
 日本の刑務所と違って、あちらは看守に金を握らせれば、かなり自由が効く。豪華な食い物、薬、女。そのせいか、刑務所暮らしでも脂肪で顔がたるみきっている。
「下手打ったな。あんたら、駒を使い捨てにした報いだよ」
 直接手は下していなくても、奴らの指示で大勢の人間が死んでいる。
 無期懲役?もしくは死刑?
 組織の上層部が放った刺客に殺されるかもしれない。年間百人の変死が刑務所では出るので絶対にないとは言い切れない。
「ただいま」
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

青少年病棟

BL
性に関する診察・治療を行う病院。 小学生から高校生まで、性に関する悩みを抱えた様々な青少年に対して、外来での診察・治療及び、入院での治療を行なっています。 ※性的描写あり。 ※患者・医師ともに全員男性です。 ※主人公の患者は中学一年生設定。 ※結末未定。できるだけリクエスト等には対応してい期待と考えているため、ぜひコメントお願いします。

見ぃつけた。

茉莉花 香乃
BL
小学生の時、意地悪されて転校した。高校一年生の途中までは穏やかな生活だったのに、全寮制の学校に転入しなければならなくなった。そこで、出会ったのは… 他サイトにも公開しています

家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!

灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。 何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。 仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。 思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。 みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。 ※完結しました!ありがとうございました!

男子高校に入学したらハーレムでした!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 ゆっくり書いていきます。 毎日19時更新です。 よろしくお願い致します。 2022.04.28 お気に入り、栞ありがとうございます。 とても励みになります。 引き続き宜しくお願いします。 2022.05.01 近々番外編SSをあげます。 よければ覗いてみてください。 2022.05.10 お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。 精一杯書いていきます。 2022.05.15 閲覧、お気に入り、ありがとうございます。 読んでいただけてとても嬉しいです。 近々番外編をあげます。 良ければ覗いてみてください。 2022.05.28 今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。 次作も頑張って書きます。 よろしくおねがいします。

視線の先

茉莉花 香乃
BL
放課後、僕はあいつに声をかけられた。 「セーラー服着た写真撮らせて?」 ……からかわれてるんだ…そう思ったけど…あいつは本気だった ハッピーエンド 他サイトにも公開しています

モテる兄貴を持つと……(三人称改訂版)

夏目碧央
BL
 兄、海斗(かいと)と同じ高校に入学した城崎岳斗(きのさきやまと)は、兄がモテるがゆえに様々な苦難に遭う。だが、カッコよくて優しい兄を実は自慢に思っている。兄は弟が大好きで、少々過保護気味。  ある日、岳斗は両親の血液型と自分の血液型がおかしい事に気づく。海斗は「覚えてないのか?」と驚いた様子。岳斗は何を忘れているのか?一体どんな秘密が?

処理中です...