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第四章

57:その迂闊さでムショ行きになってないのは、俺のお陰だからな

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「てめえ、余計なことをしたら、俺も余計なことをしてやるからな。しつけえ蛇みたいな警視庁の森、覚えてんだろ?」
 特殊詐欺専任の鬼刑事の名前を出すと、パンが脂肪にまみれた顔をぴくりと痙攣された。
「分かったって。熱くなっちゃって、ハジメンらしくないなあ。その患者ってハジメンの獲物なんだろ?ムショ出て一週間でどうやって見つけたのさ?相変わらず動物みたいな鼻の良さだね」
「うるせえっ」
 エイトはテーブルをひっくり返しそうなぐらいの勢いで立ち上がる。
「うわっとと」
 パンがコーヒーの雫がかからないようノート型パソコンを抱え上げた。
「その迂闊さでムショ行きになってないのは、俺のお陰だからな」
「はいはい」
「上原の件、明日まで」
「はいはい、え?」
「電話する」
 エイトはパンを置き去りにして喫茶店を出て、電車に飛び乗る。
 腹が立っていた。
 零は獲物ではない。ダイカンパの夜にコートから長財布が出ていたからひったくりやすそうだと思ったことはある。だが、思っただけで手は出していない。それにそれ以降は零を利用しようなんて考えなかった。犯罪能力を封印した無価値な自分でも、一緒にいてくれてありがたいと言ってくれたからだ。
 エイトは、パンから「特に黒い部分は無かったよ」という報告が後日あることを願った。
「上原ってのが本当に親切なだけの医者なら俺の勘は外れたってことになる。三年ムショにいて錆びついたんだ」
 それが一番いい。もう犯罪の世界には戻れないという印になるから。
 エイトは、最寄りの駅で降り、ドラッグストアに寄った。今後、零との関係が進むとしたら必要になるであろうものを幾つか買う。
 部屋に戻る。
 零はまだ大家の部屋のようだった。だから、「でっかいうんこしてくる」というメモ書きを丸めてゴミ箱に捨てる。
 食事は済ませたし、零もたらふく食ってくるだろうから、準備はいらない。ドリルは全部終わらせてしまったし、何もやることがない。
 テレビをつけた。
 タイから指示役が移送され、飛行機の中で逮捕されたという速報がテレビ画面上部に走った。
 日本の刑務所と違って、あちらは看守に金を握らせれば、かなり自由が効く。豪華な食い物、薬、女。そのせいか、刑務所暮らしでも脂肪で顔がたるみきっている。
「下手打ったな。あんたら、駒を使い捨てにした報いだよ」
 直接手は下していなくても、奴らの指示で大勢の人間が死んでいる。
 無期懲役?もしくは死刑?
 組織の上層部が放った刺客に殺されるかもしれない。年間百人の変死が刑務所では出るので絶対にないとは言い切れない。
「ただいま」
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