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第四章

55:オレオレ詐欺もすっかり一般人に知れ渡っちゃったからなあ。

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 エイトの組織が世話になっていた情報屋が、そこを根城のようにして暮らしていたからだ。
 気になることがあって彼に調べてもらいたかった。
 昨日、エイトはドリルを買いに行きがてら零から電話を借りてゲイバーを調べた。その際に、しょっちゅう電話をかけてくる上原という男にも連絡してみたのだ。
 引っ掛かりを感じたからだ。
 どんなに仲が良くても患者と医者。今後のことをどうするなんて、連絡してくるものだろうか。一度、二度ならまあ、分かる。でも、上原はしつこすぎるのだ。まるで何かに急かされているかのような電話の頻度だ。
 それに、零の命の期限も知りたかった。治療法が本当に無いのかも。
 上原という医者は、零の携帯を使ってエイトが電話してきたことにかなり驚いていた。それも、怯えを含んだ驚きだ。
 この手の怯えを持つ者を闇組織で腐るほど見てきた。いつか犯罪が明るみに出て警察に捕まるかもしれないという怯えだ。
 引っ掛かりは有耶無耶にしない方がいいのは、過去の経験から分かっていた。だから、真っ当に生きていきたいと思っているなら会うべきでではないのに、昔の知り合いを頼ろうとしていた。
 決定打となったのは、零が上原に勧められたという特約請求の件。
 監視カメラが数台設置された分厚いドアの前に立つと、カシャンと鍵が外れる音がした。
 エイトよりもガタイのいい黒服がいて、その背後から「アレアレアレエ?!ハジメーンじゃん?」とパーカーを来た小太りの男がノート型パソコンを小脇に抱えて出てくる。
 そして、エイトのダッフルコート姿を見て「ハジメン、服の趣味変わった?」と首を傾げた。
 ハジメ。数字で一と書く。名字は新田だ。
 小太り男はパンと言う。明らかな偽名だ。
「入れよ。チップで遊んでいきな」
 賭博場にはバカラしかない。二分の一で勝ち負けが決まるこのゲームは、エイトはそこそこ強かった。ドリルを買ったりゲイバーに飲みに行ったりして所持金が心許なくなっている今、一稼ぎしたいところだが、警察が踏み込んできたら面倒なことになる。
 この手の裏カジノは警察に引っ張られる要員がきちんと準備されていて、客もカードから手を放せばしょっぴかれることはないが、前科のあるエイトは面倒なことになりかねない。
「出られないか?ルノワール行こうぜ」
 パンはエイトの要求を断ることはできない。なぜなら、一緒に捕まってもおかしくなったのにパンの名前をエイトは謳わなかったからだ。
 オヤジの社交場ルノワールは、席数は十分あり夜遅くまでやっている。客は一般客とヤクザ。半グレ系はあまり見かけない。
 店に入るとコーヒーと誰かがくゆらす甘い葉巻の香りがした。
「出てこられたんだな」
「ん。一週間ぐらい前に。ニュース、見た。俺がいたとこ、相当ヤバいみたいだな」
「オレオレ詐欺もすっかり一般人に知れ渡っちゃったからなあ。ブレーンもこれで」
 パンはテーブルの下でエイトに向かって両手首をくっつけて見せてくる。
「んで、手っ取り早く素人にタタキ(強盗)をさせるってか?短絡的すぎて笑えやしない」
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