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第四章

53:……する

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 キスがどういうものか知らないうちにセックスを覚えさせられた自分とまるで違う。
 その後、朝食を食べ、キス---とはならなかった。代わりに部屋の掃除を手伝わされた。
 クローゼットの半分が空くほど服が少なくなり、雑貨類は綺麗さっぱり消えた。部屋の隅にあった折り畳める椅子や勉強机も処分。ローボードの中にあったかなり古いDVDやCDも。明日はキッチンをやると言う。疲れるのか、ふうふうと息を付きながらやっていた。
 出会った日よりも昨日、そして今日の方が具合が悪くなっているのがエイトにも分かった。
 掃除が終わりやることが無くなった。
 サオやヒモをしていた頃の相手に猫みたいにすり寄っていちゃこらしているうちに向こうがやる気になってセックスに持ち込めば、義務を果たしたことになった。
 でも、今回の相手は違う。
 赤ペンを持ってドリルを差し出してくる。
 こみ上げてくるのを我慢していると、零が「何で笑うの?」と聞いてきた。
「いや、昔の俺なら、百点取ったらキスしていいか?って聞くだろうなって。でも、あんたそういう条件みたいなの嫌いだろ?だから、まるで思いつかねえ。どうしたもんだろと思って」
「ドリルやれよ。時間無いって」
「もう、全部終わらせましたぁー。解くページは一枚もありません」
 実は、零が目を覚ます前にやってしまったのだ。花丸が欲しかったから。
「噓?!凄いね」
「だろ」
 採点が終わりたくさんの花丸がもらえた。
 そこから零が黙り込んだので、エイトは両肘を枕にするようにこたつ板に平行につき、そこに顎を乗せ、上目遣いでこの部屋の主を眺めた。
「零」
「な、何だよ。ずっとあんた呼びだったのに」
 エイトはジリジリと距離を詰めいていく。
「キスしよ」
「やだ。それ、照れる。いつものエイトじゃない」
「リーマンにされたベロチューの取り消しはいらねえのか?」
 エイトに腕を掴まれた零は顔を大きくそむけてしまった。
「そんな高度なの、できない」
「リーマンとはしたくせに」
「あれは不可抗力。えっと、その顔、単語の意味が分からない?じゃあ、辞書で調べろ。紙の辞書な!電子だと頭に入らないから」
「分かった。あとでやります。で、ベロチューの取り消しはするの、しねえの?」
「……する」
 うつむきながら零が言った。
 耳まで真っ赤だ。かわいい。
 こたつの角まで彼を引き寄せた。
 エイトが目を瞑り顔を寄せると、零も顔を傾けキスに答えようとする仕草を見せた。
 慎重に唇を押し付ける。
 抱き寄せると、零が自分の腕の中で蕩けていく様子が分かる。
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