上 下
53 / 99
第四章

53:……する

しおりを挟む
 キスがどういうものか知らないうちにセックスを覚えさせられた自分とまるで違う。
 その後、朝食を食べ、キス---とはならなかった。代わりに部屋の掃除を手伝わされた。
 クローゼットの半分が空くほど服が少なくなり、雑貨類は綺麗さっぱり消えた。部屋の隅にあった折り畳める椅子や勉強机も処分。ローボードの中にあったかなり古いDVDやCDも。明日はキッチンをやると言う。疲れるのか、ふうふうと息を付きながらやっていた。
 出会った日よりも昨日、そして今日の方が具合が悪くなっているのがエイトにも分かった。
 掃除が終わりやることが無くなった。
 サオやヒモをしていた頃の相手に猫みたいにすり寄っていちゃこらしているうちに向こうがやる気になってセックスに持ち込めば、義務を果たしたことになった。
 でも、今回の相手は違う。
 赤ペンを持ってドリルを差し出してくる。
 こみ上げてくるのを我慢していると、零が「何で笑うの?」と聞いてきた。
「いや、昔の俺なら、百点取ったらキスしていいか?って聞くだろうなって。でも、あんたそういう条件みたいなの嫌いだろ?だから、まるで思いつかねえ。どうしたもんだろと思って」
「ドリルやれよ。時間無いって」
「もう、全部終わらせましたぁー。解くページは一枚もありません」
 実は、零が目を覚ます前にやってしまったのだ。花丸が欲しかったから。
「噓?!凄いね」
「だろ」
 採点が終わりたくさんの花丸がもらえた。
 そこから零が黙り込んだので、エイトは両肘を枕にするようにこたつ板に平行につき、そこに顎を乗せ、上目遣いでこの部屋の主を眺めた。
「零」
「な、何だよ。ずっとあんた呼びだったのに」
 エイトはジリジリと距離を詰めいていく。
「キスしよ」
「やだ。それ、照れる。いつものエイトじゃない」
「リーマンにされたベロチューの取り消しはいらねえのか?」
 エイトに腕を掴まれた零は顔を大きくそむけてしまった。
「そんな高度なの、できない」
「リーマンとはしたくせに」
「あれは不可抗力。えっと、その顔、単語の意味が分からない?じゃあ、辞書で調べろ。紙の辞書な!電子だと頭に入らないから」
「分かった。あとでやります。で、ベロチューの取り消しはするの、しねえの?」
「……する」
 うつむきながら零が言った。
 耳まで真っ赤だ。かわいい。
 こたつの角まで彼を引き寄せた。
 エイトが目を瞑り顔を寄せると、零も顔を傾けキスに答えようとする仕草を見せた。
 慎重に唇を押し付ける。
 抱き寄せると、零が自分の腕の中で蕩けていく様子が分かる。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

僕のために、忘れていて

ことわ子
BL
男子高校生のリュージは事故に遭い、最近の記憶を無くしてしまった。しかし、無くしたのは最近の記憶で家族や友人のことは覚えており、別段困ることは無いと思っていた。ある一点、全く記憶にない人物、黒咲アキが自分の恋人だと訪ねてくるまでは────

好きなあいつの嫉妬がすごい

カムカム
BL
新しいクラスで新しい友達ができることを楽しみにしていたが、特に気になる存在がいた。それは幼馴染のランだった。 ランはいつもクールで落ち着いていて、どこか遠くを見ているような眼差しが印象的だった。レンとは対照的に、内向的で多くの人と打ち解けることが少なかった。しかし、レンだけは違った。ランはレンに対してだけ心を開き、笑顔を見せることが多かった。 教室に入ると、運命的にレンとランは隣同士の席になった。レンは心の中でガッツポーズをしながら、ランに話しかけた。 「ラン、おはよう!今年も一緒のクラスだね。」 ランは少し驚いた表情を見せたが、すぐに微笑み返した。「おはよう、レン。そうだね、今年もよろしく。」

ハイスペックストーカーに追われています

たかつきよしき
BL
祐樹は美少女顔負けの美貌で、朝の通勤ラッシュアワーを、女性専用車両に乗ることで回避していた。しかし、そんなことをしたバチなのか、ハイスペック男子の昌磨に一目惚れされて求愛をうける。男に告白されるなんて、冗談じゃねぇ!!と思ったが、この昌磨という男なかなかのハイスペック。利用できる!と、判断して、近づいたのが失敗の始まり。とある切っ掛けで、男だとバラしても昌磨の愛は諦めることを知らず、ハイスペックぶりをフルに活用して迫ってくる!! と言うタイトル通りの内容。前半は笑ってもらえたらなぁと言う気持ちで、後半はシリアスにBLらしく萌えると感じて頂けるように書きました。 完結しました。

浮気な彼氏

月夜の晩に
BL
同棲する年下彼氏が別の女に気持ちが行ってるみたい…。それでも健気に奮闘する受け。なのに攻めが裏切って…?

僕を拾ってくれたのはイケメン社長さんでした

なの
BL
社長になって1年、父の葬儀でその少年に出会った。 「あんたのせいよ。あんたさえいなかったら、あの人は死なずに済んだのに…」 高校にも通わせてもらえず、実母の恋人にいいように身体を弄ばれていたことを知った。 そんな理不尽なことがあっていいのか、人は誰でも幸せになる権利があるのに… その少年は昔、誰よりも可愛がってた犬に似ていた。 ついその犬を思い出してしまい、その少年を幸せにしたいと思うようになった。 かわいそうな人生を送ってきた少年とイケメン社長が出会い、恋に落ちるまで… ハッピーエンドです。 R18の場面には※をつけます。

そばにいられるだけで十分だから僕の気持ちに気付かないでいて

千環
BL
大学生の先輩×後輩。両片想い。 本編完結済みで、番外編をのんびり更新します。

アビス ~底なしの闇~

アキナヌカ
BL
アビスという骸骨に皮をはりつけたような食人種がいた、そして彼らを倒すものをアビスハンターと呼んだ。俺はロンというアビスハンターで、その子が十歳の時に訳があって引き取った男の子から熱烈に求愛されている!? それは男の子が立派な男になっても変わらなくて!! 番外編10歳の初恋 https://www.alphapolis.co.jp/novel/400024258/778863121 番外編 薔薇の花束 https://www.alphapolis.co.jp/novel/400024258/906865660 番外編マゾの最強の命令 https://www.alphapolis.co.jp/novel/400024258/615866352 ★★★このお話はBLです、ロン×オウガです★★★ 小説家になろう、pixiv、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、fujossyにも掲載しています。

イケメンモデルと新人マネージャーが結ばれるまでの話

タタミ
BL
新坂真澄…27歳。トップモデル。端正な顔立ちと抜群のスタイルでブレイク中。瀬戸のことが好きだが、隠している。 瀬戸幸人…24歳。マネージャー。最近新坂の担当になった社会人2年目。新坂に仲良くしてもらって懐いているが、好意には気付いていない。 笹川尚也…27歳。チーフマネージャー。新坂とは学生時代からの友人関係。新坂のことは大抵なんでも分かる。

処理中です...