上 下
52 / 99
第四章

52:俺は、ゲイバーのリーマンより真面目なキスをしたと思うぞ

しおりを挟む
 国語のドリルと格闘するエイトを零が見ている。
「何?」
 エイトが顔を上げると、ふっと顔をそらす。
 自分は、意識されているようだ。
 昨晩は、家に帰ってきてもぶり返したように零が泣くので、こたつの中でずっと抱きしめていた。
 やがて泣きつかれてそのまま寝そうになったので、風呂も着替えもすっ飛ばしてベットに上げエイトも中に入った。
 目覚めると零の目は少し腫れていて、湯で絞ったタオルで顔を拭いてやった。されるがままの姿は子供みたいで可愛かった。
 そして、覚醒してきたのか昨晩のことを侘び始めた。
「……あの、ごめん。昨日は、かなり気持ちが不安定だったんだ。診断確定されてさ、上原先生がリビングニーズ特約を使えって勧めてきたのが僕にはショックで。ほんと、僕ってもうすぐ死ぬんだなあって数日かけてじわじわと」
「リビング何とかって?」
「余命宣告された場合、その特約を付けていると死亡保険金の前払いができるんだ。僕には家族がいないから、自分のために使える」
「ほう」
「上原先生の言うように、請求してみるのもいいかなあと思えてきた。エイト。何か欲しいのある?」
 満面の笑顔は空元気だと手に取るように分かった。
「また一緒のバイト。酒も飲みたい。勉強も見てほしい」
「いい子の答えはいいよ」
「本音だけど?金や物は要らねえよ。あんたの命を値段に変えたものなんか。あ、もっぺんキスしてみてえかも」
「なん、なん、何でだよ。エイトはゲイじゃないだろ。バイでもないだろ」
 ばっと物凄い速さで零が口を押さえた。
「そうじゃなきゃ、キスしちゃ駄目だって決まりでもあんのか?」
「……遊びも興味本位も嫌だよ。昨日のは同情。その場の流れ。そんなの分かっているよ。本気にしないから安心して」
「俺は、ゲイバーのリーマンより真面目なキスをしたと思うぞ」
 こたつから這い出た零が、口元を抑えたまま廊下の方に消えていった。
 顔は茹でダコみたいに真っ赤だ。
「ウブだなあ」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

僕のために、忘れていて

ことわ子
BL
男子高校生のリュージは事故に遭い、最近の記憶を無くしてしまった。しかし、無くしたのは最近の記憶で家族や友人のことは覚えており、別段困ることは無いと思っていた。ある一点、全く記憶にない人物、黒咲アキが自分の恋人だと訪ねてくるまでは────

好きなあいつの嫉妬がすごい

カムカム
BL
新しいクラスで新しい友達ができることを楽しみにしていたが、特に気になる存在がいた。それは幼馴染のランだった。 ランはいつもクールで落ち着いていて、どこか遠くを見ているような眼差しが印象的だった。レンとは対照的に、内向的で多くの人と打ち解けることが少なかった。しかし、レンだけは違った。ランはレンに対してだけ心を開き、笑顔を見せることが多かった。 教室に入ると、運命的にレンとランは隣同士の席になった。レンは心の中でガッツポーズをしながら、ランに話しかけた。 「ラン、おはよう!今年も一緒のクラスだね。」 ランは少し驚いた表情を見せたが、すぐに微笑み返した。「おはよう、レン。そうだね、今年もよろしく。」

ハイスペックストーカーに追われています

たかつきよしき
BL
祐樹は美少女顔負けの美貌で、朝の通勤ラッシュアワーを、女性専用車両に乗ることで回避していた。しかし、そんなことをしたバチなのか、ハイスペック男子の昌磨に一目惚れされて求愛をうける。男に告白されるなんて、冗談じゃねぇ!!と思ったが、この昌磨という男なかなかのハイスペック。利用できる!と、判断して、近づいたのが失敗の始まり。とある切っ掛けで、男だとバラしても昌磨の愛は諦めることを知らず、ハイスペックぶりをフルに活用して迫ってくる!! と言うタイトル通りの内容。前半は笑ってもらえたらなぁと言う気持ちで、後半はシリアスにBLらしく萌えると感じて頂けるように書きました。 完結しました。

僕を拾ってくれたのはイケメン社長さんでした

なの
BL
社長になって1年、父の葬儀でその少年に出会った。 「あんたのせいよ。あんたさえいなかったら、あの人は死なずに済んだのに…」 高校にも通わせてもらえず、実母の恋人にいいように身体を弄ばれていたことを知った。 そんな理不尽なことがあっていいのか、人は誰でも幸せになる権利があるのに… その少年は昔、誰よりも可愛がってた犬に似ていた。 ついその犬を思い出してしまい、その少年を幸せにしたいと思うようになった。 かわいそうな人生を送ってきた少年とイケメン社長が出会い、恋に落ちるまで… ハッピーエンドです。 R18の場面には※をつけます。

何故か正妻になった男の僕。

selen
BL
『側妻になった男の僕。』の続きです(⌒▽⌒) blさいこう✩.*˚主従らぶさいこう✩.*˚✩.*˚

姫を拐ったはずが勇者を拐ってしまった魔王

ミクリ21
BL
姫が拐われた! ……と思って慌てた皆は、姫が無事なのをみて安心する。 しかし、魔王は確かに誰かを拐っていった。 誰が拐われたのかを調べる皆。 一方魔王は? 「姫じゃなくて勇者なんだが」 「え?」 姫を拐ったはずが、勇者を拐ったのだった!?

隠れSubは大好きなDomに跪きたい

みー
BL
⚠️Dom/Subユニバース 一部オリジナル表現があります。 ハイランクDom×ハイランクSub

溺れる鳥〜ノンケだった彼女もちDDが友人の彼氏とセッ×スしたことでハマっていく話〜

ルシーアンナ
BL
ノンケだった彼女もちDD×ゲイな友人の彼氏が、セックスしたことでハマっていく話。 ノンケ攻め,ゲイ受け,大学生,NTR,浮気,全編通して倫理観なし 1年ほど前に別名義で書いたのを手直ししたものです。

処理中です...