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第四章
52:俺は、ゲイバーのリーマンより真面目なキスをしたと思うぞ
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国語のドリルと格闘するエイトを零が見ている。
「何?」
エイトが顔を上げると、ふっと顔をそらす。
自分は、意識されているようだ。
昨晩は、家に帰ってきてもぶり返したように零が泣くので、こたつの中でずっと抱きしめていた。
やがて泣きつかれてそのまま寝そうになったので、風呂も着替えもすっ飛ばしてベットに上げエイトも中に入った。
目覚めると零の目は少し腫れていて、湯で絞ったタオルで顔を拭いてやった。されるがままの姿は子供みたいで可愛かった。
そして、覚醒してきたのか昨晩のことを侘び始めた。
「……あの、ごめん。昨日は、かなり気持ちが不安定だったんだ。診断確定されてさ、上原先生がリビングニーズ特約を使えって勧めてきたのが僕にはショックで。ほんと、僕ってもうすぐ死ぬんだなあって数日かけてじわじわと」
「リビング何とかって?」
「余命宣告された場合、その特約を付けていると死亡保険金の前払いができるんだ。僕には家族がいないから、自分のために使える」
「ほう」
「上原先生の言うように、請求してみるのもいいかなあと思えてきた。エイト。何か欲しいのある?」
満面の笑顔は空元気だと手に取るように分かった。
「また一緒のバイト。酒も飲みたい。勉強も見てほしい」
「いい子の答えはいいよ」
「本音だけど?金や物は要らねえよ。あんたの命を値段に変えたものなんか。あ、もっぺんキスしてみてえかも」
「なん、なん、何でだよ。エイトはゲイじゃないだろ。バイでもないだろ」
ばっと物凄い速さで零が口を押さえた。
「そうじゃなきゃ、キスしちゃ駄目だって決まりでもあんのか?」
「……遊びも興味本位も嫌だよ。昨日のは同情。その場の流れ。そんなの分かっているよ。本気にしないから安心して」
「俺は、ゲイバーのリーマンより真面目なキスをしたと思うぞ」
こたつから這い出た零が、口元を抑えたまま廊下の方に消えていった。
顔は茹でダコみたいに真っ赤だ。
「ウブだなあ」
「何?」
エイトが顔を上げると、ふっと顔をそらす。
自分は、意識されているようだ。
昨晩は、家に帰ってきてもぶり返したように零が泣くので、こたつの中でずっと抱きしめていた。
やがて泣きつかれてそのまま寝そうになったので、風呂も着替えもすっ飛ばしてベットに上げエイトも中に入った。
目覚めると零の目は少し腫れていて、湯で絞ったタオルで顔を拭いてやった。されるがままの姿は子供みたいで可愛かった。
そして、覚醒してきたのか昨晩のことを侘び始めた。
「……あの、ごめん。昨日は、かなり気持ちが不安定だったんだ。診断確定されてさ、上原先生がリビングニーズ特約を使えって勧めてきたのが僕にはショックで。ほんと、僕ってもうすぐ死ぬんだなあって数日かけてじわじわと」
「リビング何とかって?」
「余命宣告された場合、その特約を付けていると死亡保険金の前払いができるんだ。僕には家族がいないから、自分のために使える」
「ほう」
「上原先生の言うように、請求してみるのもいいかなあと思えてきた。エイト。何か欲しいのある?」
満面の笑顔は空元気だと手に取るように分かった。
「また一緒のバイト。酒も飲みたい。勉強も見てほしい」
「いい子の答えはいいよ」
「本音だけど?金や物は要らねえよ。あんたの命を値段に変えたものなんか。あ、もっぺんキスしてみてえかも」
「なん、なん、何でだよ。エイトはゲイじゃないだろ。バイでもないだろ」
ばっと物凄い速さで零が口を押さえた。
「そうじゃなきゃ、キスしちゃ駄目だって決まりでもあんのか?」
「……遊びも興味本位も嫌だよ。昨日のは同情。その場の流れ。そんなの分かっているよ。本気にしないから安心して」
「俺は、ゲイバーのリーマンより真面目なキスをしたと思うぞ」
こたつから這い出た零が、口元を抑えたまま廊下の方に消えていった。
顔は茹でダコみたいに真っ赤だ。
「ウブだなあ」
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