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第三章
50:まさか、ディープなのはされてねえだろうな
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「……エイト」
彼は零を掴んで、人通りのない路地へと入っていく。
「走ってどっか行ったってふざけたことをあいつが言うもんだから。よかった、見つかって」
大丈夫、大丈夫というように、エイトが零の背中をさすってきた。
そこでようやく自分の身体が震えていることに気づいた。
「なんかされたんだろ?絞めといたぞ。強烈なデコピンしてやったからな」
エイトが続けて情けない声で言う。
「どうして、俺のやることは、こう、裏目に出ちゃうんだろ。なあ、何された?」
「……キス」
「あの野郎」
「一応、聞かれた。キスしていいかって。でも、されたら、なんか」
冬の戸外なので泣くと涙がびっくりするほど熱かった。
彼はこれまで見たことのないような慈悲深い顔で零の唇に親指を押し当ててきてぐいっと拭う。
「これで、無かったことになったから」
「何それ?」
零は泣きながら笑う。
「まさか、ディープなのはされてねえだろうな」
「ちょっとされた」
「今から、デコピン九十九発見舞ってくる。それで、脳震盪ぐらいは起こせる」
「いいって。こんなの二丁目じゃ日常茶飯事だろうし」
「俺はあんたのことを心配してんの。ここの常識なんてどうでもいい。大人しそうな店だっと思ったのによ」
「エイトのセレクトは悪くなかった。素敵な店」
「帰れそうか?」
「新宿駅は人が大勢で辛いな」
「じゃあ、タクシー?」
「ここら辺にはいたくないけれど、まだ部屋には戻りたくない気分」
「なら歩いて少し落ち着こうぜ。今日の寒さはダイカンパほどじゃねえ」
しばらく歩くと小さな公園が見えてきた。そこのベンチに座らされる。エイトが近くにあった自販機に歩いていって二本の缶を持って戻ってきた。
「お汁粉?」
「間違えて買った。こういう時、男は黙ってブラックなはずなのに締らねえな」
エイトがプルタブを開けてくれて、まだ震えている手に缶そっと持たせてくれる。
「甘い」
「いっちょ前に餅っぽいのが入ってらあ」
零は時間をかけてそれを飲み干す。
「逃げながら、想像してた。死ぬ前に経験したいからってあの人とホテルに行っても、終わった後、虚しかっただろうなって。それがよく分かった。僕にはああいう出会いは向かない」
「ん」
「でも、誰かとちゃんと出会ってみたいって思った」
空になりつつある缶を握りしめると、丸まった零の背中にエイトが手を回してくる。
「出会える」
彼は零を掴んで、人通りのない路地へと入っていく。
「走ってどっか行ったってふざけたことをあいつが言うもんだから。よかった、見つかって」
大丈夫、大丈夫というように、エイトが零の背中をさすってきた。
そこでようやく自分の身体が震えていることに気づいた。
「なんかされたんだろ?絞めといたぞ。強烈なデコピンしてやったからな」
エイトが続けて情けない声で言う。
「どうして、俺のやることは、こう、裏目に出ちゃうんだろ。なあ、何された?」
「……キス」
「あの野郎」
「一応、聞かれた。キスしていいかって。でも、されたら、なんか」
冬の戸外なので泣くと涙がびっくりするほど熱かった。
彼はこれまで見たことのないような慈悲深い顔で零の唇に親指を押し当ててきてぐいっと拭う。
「これで、無かったことになったから」
「何それ?」
零は泣きながら笑う。
「まさか、ディープなのはされてねえだろうな」
「ちょっとされた」
「今から、デコピン九十九発見舞ってくる。それで、脳震盪ぐらいは起こせる」
「いいって。こんなの二丁目じゃ日常茶飯事だろうし」
「俺はあんたのことを心配してんの。ここの常識なんてどうでもいい。大人しそうな店だっと思ったのによ」
「エイトのセレクトは悪くなかった。素敵な店」
「帰れそうか?」
「新宿駅は人が大勢で辛いな」
「じゃあ、タクシー?」
「ここら辺にはいたくないけれど、まだ部屋には戻りたくない気分」
「なら歩いて少し落ち着こうぜ。今日の寒さはダイカンパほどじゃねえ」
しばらく歩くと小さな公園が見えてきた。そこのベンチに座らされる。エイトが近くにあった自販機に歩いていって二本の缶を持って戻ってきた。
「お汁粉?」
「間違えて買った。こういう時、男は黙ってブラックなはずなのに締らねえな」
エイトがプルタブを開けてくれて、まだ震えている手に缶そっと持たせてくれる。
「甘い」
「いっちょ前に餅っぽいのが入ってらあ」
零は時間をかけてそれを飲み干す。
「逃げながら、想像してた。死ぬ前に経験したいからってあの人とホテルに行っても、終わった後、虚しかっただろうなって。それがよく分かった。僕にはああいう出会いは向かない」
「ん」
「でも、誰かとちゃんと出会ってみたいって思った」
空になりつつある缶を握りしめると、丸まった零の背中にエイトが手を回してくる。
「出会える」
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