上 下
43 / 99
第三章

43:エイトの過去、ほとんどを聞き尽くしたと思ってたよ。まだ底があったんだね

しおりを挟む
「ウソぉ?俺、中卒なの?」
 エイトの声が裏返った。心底驚いていた。
「それって、あまり行ってなかったってことだね?」
「あまりっていうかほぼな。ムショにも学校があるんだけれど、それすらついていけなかった。それは、マジやべーって。俺より頭おかしそうな奴らより、俺、頭が悪いのかよって。まあ、漢字が書けて読めるようになったところで劇的には変わりはしないだろうけれど、俺は色んな部分が陥没しているだろうから、それを埋めたい」
「きっと変わるよ。心が。努力は自信に変わると思う。最終的に生き様だって変わるんんじゃない?」
「だったらいいんだけどねー」
 まるで信じていない声色だ。
「院内学校の先生が言ってた。国語、数学、理科、社会、英語、物理、生物。色んな教科を学ばされるけれど、それってアプリみたいなもんなんだって」
「携帯に入っているあれか?」
「うん。アプリって開いて試してみないと良さがわかんないでしょう?教科も同じで、試してみて興味が持てそうなものを極めていけばいいって。エイトの場合、その出発点に立ったってことでしょ。こんなに大きい生徒に教えることになるとは思っても見なかったけれど、僕も夢が叶うことだしやってみよ。何年生ぐらいからする?小五ぐらい?」
「一から。俺さ、マジで小学校に指で数えられるほどしか行ってねえんだ。母親がほとんどいなかったから、小学生になったら平日は朝起きて小学校に行くっていう感覚が無くて。行ってもやれ服がボロいだの臭いだの馬鹿にされるしさ」
「じゃあ食事とかは、どうしていたの?」
「県営住宅っていうボロい長屋みたいなとこに住んでた。隣がスナック務めの女で 日中、部屋にいるからメシをたかりに行っていた。それが十代になるまで俺のサイユウセンジコウだった。えっと、伝わっている?」
「勉強よりも食べることが大事だったんだね。そりゃそうか」
 零の頭に小さなエイトが浮かんでくる。
 困り果てて泣いている。
「母親はその女が世話してくれることに味をしめてますます家に帰って来なくなって、俺、もうほとんどその女の家に住んでた」
「エイトの過去、ほとんどを聞き尽くしたと思ってたよ。まだ底があったんだね」
「また引かせたな。止めるか、この話」
「聞くよ。続けて」
 エイトはしばらく考えこんだ。
 喋ることを整理したかったようだが、うまくいかなかったようだ。ぽつり、ぽつりと語り始める。
「優しい女だったと思う。メシを食ったら歯を磨くとか、髪を梳かすとか、長く伸びたら切るとかその女は教えてくれたから。俺、六歳になってもそういうことすら知らなかったんだ。ええっと、あと何だ?」
 エイトが指を折り始める。
「服は寝巻きと普段着で分けるとか。布団の敷布は変えるとか。世の中には菓子パンやカップラーメン以外の食い物があるとか」
 堪らない気持ちになって、エイトの手に自分の手を重ねた。もう数えて欲しく無かった。
 でもエイトは喋り続ける。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

学園と夜の街での鬼ごっこ――標的は白の皇帝――

天海みつき
BL
 族の総長と副総長の恋の話。  アルビノの主人公――聖月はかつて黒いキャップを被って目元を隠しつつ、夜の街を駆け喧嘩に明け暮れ、いつしか"皇帝"と呼ばれるように。しかし、ある日突然、姿を晦ました。  その後、街では聖月は死んだという噂が蔓延していた。しかし、彼の族――Nukesは実際に遺体を見ていないと、その捜索を止めていなかった。 「どうしようかなぁ。……そぉだ。俺を見つけて御覧。そしたら捕まってあげる。これはゲームだよ。俺と君たちとの、ね」  学園と夜の街を巻き込んだ、追いかけっこが始まった。  族、学園、などと言っていますが全く知識がないため完全に想像です。何でも許せる方のみご覧下さい。  何とか完結までこぎつけました……!番外編を投稿完了しました。楽しんでいただけたら幸いです。

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?

名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。 そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________ ※ ・非王道気味 ・固定カプ予定は無い ・悲しい過去🐜 ・不定期

日本一のイケメン俳優に惚れられてしまったんですが

五右衛門
BL
 月井晴彦は過去のトラウマから自信を失い、人と距離を置きながら高校生活を送っていた。ある日、帰り道で少女が複数の男子からナンパされている場面に遭遇する。普段は関わりを避ける晴彦だが、僅かばかりの勇気を出して、手が震えながらも必死に少女を助けた。  しかし、その少女は実は美男子俳優の白銀玲央だった。彼は日本一有名な高校生俳優で、高い演技力と美しすぎる美貌も相まって多くの賞を受賞している天才である。玲央は何かお礼がしたいと言うも、晴彦は動揺してしまい逃げるように立ち去る。しかし数日後、体育館に集まった全校生徒の前で現れたのは、あの時の青年だった──

Take On Me

マン太
BL
 親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。  初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。  岳とも次第に打ち解ける様になり…。    軽いノリのお話しを目指しています。  ※BLに分類していますが軽めです。  ※他サイトへも掲載しています。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

処理中です...