41 / 99
第三章
41:俺は感情がぶっ壊れているらしいから
しおりを挟む
零の身体は、弱ってくると何段階かのサインが出る。
まずは倦怠感、微熱。それが強くなって、次は、嘔吐だ。
内蔵まで出てしまうんじゃないかというほど、食べた物をすべて吐く。
さらに病状が進めば、鼻や口など粘膜部分からの出血が始まる。
午前中から嘔吐がしばらく続きエイトは焦ったみたいだ。
ずっとトイレの扉の前に立ち、
「大丈夫か?なあ?」
と声をかけてくる。
ヒモをやっていただけあって、この男は甲斐甲斐しい。
掃除洗濯、食事作り。ゴミ出し。
零が気がつくと、ほとんどのことが終わっている。
風呂だって適温で、上がると手や頭皮を軽くマッサージまでしてくれる。
もちろん遠慮するけれど、大きな男の手でぐいぐい揉まれるのは気持ちがいい。安心する。
昨日、風俗嬢がやってきた話はあれ以降全く話題に出してこない。
余命わずかな青年に童貞喪失という機会を与えてやったと満足したのかもしれない。
見当違いもいいところだ。
「こんにちはー」とやってきた彼女は、鼻をそむけたくなる安臭い香水を身にまとっていた。
「どちらさまですか?」
と聞くと、「あれえ。この部屋で間違いないよね」と敬語もなく気安い。
断りもなく知り合いを呼んだのかと軽く怒りを覚えていると、手を突き出された。
「忘れないように先にお代。四万五千円」
とのたまう。
そこで、ようやく意味が分かった。
こたつの上に広げられていたお金の意味が。
失礼だとは思ったが十分で帰ってもらった。
もちろんこれが日常の場であれば常識的な対応をする。
でも、性的な物が絡んでくると全然駄目で、抱きしめられてもグネグネした脂肪をまとった身体に、こっちの身体は硬い岩みたいに強張ってしまい、ろくな受け答えもできなかった。
トイレを出てベットに突っ伏す。
エイトが薬袋から昼に飲む薬を取り出し、こたつの上に並べていた。教えていないのに覚えてしまったようだ。水の入ったコップも用意されている。
どれぐらい彼をここにいさせてあげられるだろう。
入院している間だって大家にことづけておけばもしかしたら。
いや、一切合切持って、いなくなってしまうか。
「何、笑ってんだ。機嫌を直してくれたのか?」
「別に。機嫌も直ってないよ」
「じゃあ、何で意味もなく笑う?」
「エイトは意味があっても笑わないよね」
相変わらずエイトは喜怒哀楽が分かりづらい。
生い立ちが関係しているのかもしれない。
デリヘルボーイに、ヒモ。並行して特殊詐欺。極めつけが刑務所。
きっと零に見せていない顔がまだたくさんある。
どうしようもなく冷酷で極悪な面もあるかもしれない。
けれど、汚部屋の清掃を一日で終わるはずと楽観視したり、童貞の零に風俗嬢をプレゼントしたら喜ぶはずだと短絡的なところがあったり。
老人みたいに人生を達観したところがあると思えば、ひどく子供な面もある。
「俺は感情がぶっ壊れているらしいから」
「感情は壊れないと思うよ。封印されてだけで。児童心理学だったかな。そう習った」
「大学でか?」
「うん。そう。あ、思い出した。退学届も出さなきゃ」
「勿体ねえな。病気だからって理由話して一旦ストップ出来ねえのか?」
「休学のこと?できるよ。でもさ、そういうの意味無さそうだし」
「そんなの解んねえじゃねえか」という表情をエイトはした。
「分かるよ。自分の身体のことだし」
まずは倦怠感、微熱。それが強くなって、次は、嘔吐だ。
内蔵まで出てしまうんじゃないかというほど、食べた物をすべて吐く。
さらに病状が進めば、鼻や口など粘膜部分からの出血が始まる。
午前中から嘔吐がしばらく続きエイトは焦ったみたいだ。
ずっとトイレの扉の前に立ち、
「大丈夫か?なあ?」
と声をかけてくる。
ヒモをやっていただけあって、この男は甲斐甲斐しい。
掃除洗濯、食事作り。ゴミ出し。
零が気がつくと、ほとんどのことが終わっている。
風呂だって適温で、上がると手や頭皮を軽くマッサージまでしてくれる。
もちろん遠慮するけれど、大きな男の手でぐいぐい揉まれるのは気持ちがいい。安心する。
昨日、風俗嬢がやってきた話はあれ以降全く話題に出してこない。
余命わずかな青年に童貞喪失という機会を与えてやったと満足したのかもしれない。
見当違いもいいところだ。
「こんにちはー」とやってきた彼女は、鼻をそむけたくなる安臭い香水を身にまとっていた。
「どちらさまですか?」
と聞くと、「あれえ。この部屋で間違いないよね」と敬語もなく気安い。
断りもなく知り合いを呼んだのかと軽く怒りを覚えていると、手を突き出された。
「忘れないように先にお代。四万五千円」
とのたまう。
そこで、ようやく意味が分かった。
こたつの上に広げられていたお金の意味が。
失礼だとは思ったが十分で帰ってもらった。
もちろんこれが日常の場であれば常識的な対応をする。
でも、性的な物が絡んでくると全然駄目で、抱きしめられてもグネグネした脂肪をまとった身体に、こっちの身体は硬い岩みたいに強張ってしまい、ろくな受け答えもできなかった。
トイレを出てベットに突っ伏す。
エイトが薬袋から昼に飲む薬を取り出し、こたつの上に並べていた。教えていないのに覚えてしまったようだ。水の入ったコップも用意されている。
どれぐらい彼をここにいさせてあげられるだろう。
入院している間だって大家にことづけておけばもしかしたら。
いや、一切合切持って、いなくなってしまうか。
「何、笑ってんだ。機嫌を直してくれたのか?」
「別に。機嫌も直ってないよ」
「じゃあ、何で意味もなく笑う?」
「エイトは意味があっても笑わないよね」
相変わらずエイトは喜怒哀楽が分かりづらい。
生い立ちが関係しているのかもしれない。
デリヘルボーイに、ヒモ。並行して特殊詐欺。極めつけが刑務所。
きっと零に見せていない顔がまだたくさんある。
どうしようもなく冷酷で極悪な面もあるかもしれない。
けれど、汚部屋の清掃を一日で終わるはずと楽観視したり、童貞の零に風俗嬢をプレゼントしたら喜ぶはずだと短絡的なところがあったり。
老人みたいに人生を達観したところがあると思えば、ひどく子供な面もある。
「俺は感情がぶっ壊れているらしいから」
「感情は壊れないと思うよ。封印されてだけで。児童心理学だったかな。そう習った」
「大学でか?」
「うん。そう。あ、思い出した。退学届も出さなきゃ」
「勿体ねえな。病気だからって理由話して一旦ストップ出来ねえのか?」
「休学のこと?できるよ。でもさ、そういうの意味無さそうだし」
「そんなの解んねえじゃねえか」という表情をエイトはした。
「分かるよ。自分の身体のことだし」
0
お気に入りに追加
57
あなたにおすすめの小説
ハンターがマッサージ?で堕とされちゃう話
あずき
BL
【登場人物】ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ハンター ライト(17)
???? アル(20)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
後半のキャラ崩壊は許してください;;

ある少年の体調不良について
雨水林檎
BL
皆に好かれるいつもにこやかな少年新島陽(にいじまはる)と幼馴染で親友の薬師寺優巳(やくしじまさみ)。高校に入学してしばらく陽は風邪をひいたことをきっかけにひどく体調を崩して行く……。
BLもしくはブロマンス小説。
体調不良描写があります。

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

好きなあいつの嫉妬がすごい
カムカム
BL
新しいクラスで新しい友達ができることを楽しみにしていたが、特に気になる存在がいた。それは幼馴染のランだった。
ランはいつもクールで落ち着いていて、どこか遠くを見ているような眼差しが印象的だった。レンとは対照的に、内向的で多くの人と打ち解けることが少なかった。しかし、レンだけは違った。ランはレンに対してだけ心を開き、笑顔を見せることが多かった。
教室に入ると、運命的にレンとランは隣同士の席になった。レンは心の中でガッツポーズをしながら、ランに話しかけた。
「ラン、おはよう!今年も一緒のクラスだね。」
ランは少し驚いた表情を見せたが、すぐに微笑み返した。「おはよう、レン。そうだね、今年もよろしく。」

手紙
ドラマチカ
BL
忘れらない思い出。高校で知り合って親友になった益子と郡山。一年、二年と共に過ごし、いつの間にか郡山に恋心を抱いていた益子。カッコよく、優しい郡山と一緒にいればいるほど好きになっていく。きっと郡山も同じ気持ちなのだろうと感じながらも、告白をする勇気もなく日々が過ぎていく。
そうこうしているうちに三年になり、高校生活も終わりが見えてきた。ずっと一緒にいたいと思いながら気持ちを伝えることができない益子。そして、誰よりも益子を大切に想っている郡山。二人の想いは思い出とともに記憶の中に残り続けている……。

鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる