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第二章

35:うつ病でコミュ障か。忙しいな

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 一部屋空けば、そこにゴミ袋をためて置ける。
「もう終わろう。この時間帯は帰宅者が多いから迷惑になる」
「そうだな」
「明日いっぱい使って細かいゴミを出して、明後日大型家具かな」
 零は指示出し上手だ。効率よく作業する方法を考え出すのが上手い。きっと指輪を雪の中から見つけてくれたのも頭を使ってくれたのだろう。
 エイトは、こういう作業はとんと苦手だと初めて知った。手当たり次第やろうとしてしまう。犯罪の準備や手配は神がかったように手際がよかったのだが、普通の仕事となるとてんで駄目だ。
「もう数袋だけ出す。あんたは先に風呂に入ってて。終わった頃に俺、戻るわ」
「分かった」
 零は少し疲れているようだ。明日も手伝おうとするだろうから無理はさせたくない。
 エイトも疲れ切ってはいたが、力を振り絞って何倍もの速さでゴミをまとめて最後に数往復する。
 鍵を大家に返しに行ったら、顔を背けられた。
「ひでえ。あんたの物件なのに」
「君さ、零とはどんな関係なんだ?大学の友達か?」
「いや。そんなんじゃねえよ。困ってたら助けてくれたから、その恩返しにあいつの要求を聞いている」
「零が君に何か買えって?」
「違う。買ってやりたいのは俺の善意」
 エイトは汚部屋の鍵を大家に突き出した。
「あのさあ、一日じゃ終わんなかったから、明日、細かいのを出す。明後日は大型家具の予定。零には手伝わせない」
 ざっくりした予定を伝え、エイトは部屋に戻る。
 そして、「臭っえっ!!」と言いながらシャワーを浴びた。それも数度。でも、まだ、なんとなく臭う気がして再度洗った。
 零が洗っておいてくれたスウェットはふわふわだった。刑務所の寝間着は冬でもゴワゴワで薄っぺらかったから、このスウェットだけでエイトは天国気分だ。しかも、女みたいに鼻が曲がる匂いがする柔軟剤を入れることがない。当人いわく、吸水率が悪くなるうえに臭い匂いのする液体に金を払う人は気が狂っているそうだ。そういうところは、性格が出ていて面白い。
 それを着てこたつの部屋に行くと、ビールが数本並んでいた。しかも、お高いビール。
「買って来たのか?」
 今朝の時点で、冷蔵庫にはそんな物は入っていなかったはずだ。
「ううん。ドアノブに数本入った袋が引っ掛けられていた。たぶん、大家さん」
「あいつ、鍵を返しに行ったとき、何も言ってなかったぞ」
「コミュ障だから」
「うつ病でコミュ障か。忙しいな」
 笑いながら零がプルタブを開ける。
 エイトもそれに習った。
「三年ぶりだ」
「僕は初めて。エイトと出会った日、実はスイーツだけじゃなく酒も買おうとしてたんだ。でも、買い忘れちゃってさ」
 零が缶を煽りごくっと喉を鳴らした後、顔をしかめた。 
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