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第二章

31:誰かを部屋で待つっていいもんだね

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「俺、エイトって言う。あいつと一緒に掃除をさせてもらえないか。めちゃくちゃ綺麗にする。十万でいい。相場の四分の一だ」
 零と一緒にと言ったのは大家を安心させるためだ。
 予想通り、大家は渋い顔。
「零はそこまで作業できないだろうけれど、支払いは半々でいい。つまり、五万円、五万円。実は俺、あいつに買ってやりたいものがあるんだ。でも、金が足りなくて」
「怪我をされては困る。割れたガラスや注射針だってあるかもしれない」
「きちんと軍手するし、あんたに迷惑をかけないって誓約書も書く。なんなら携帯を監視カメラがわりにして清掃作業をリモートでずっと見ていてもいい」
「業者みたいな現状回復はできる訳ない」
「でも、ゴミがすっかり無くなるだけでも大分、金が浮くはずだぜ?ここのゴミ捨て場はでかいし、一気とまではいかなくても二回三回に別けて捨てればいい。一部屋綺麗になればゴミもためておける」
 大家は考え込む。
「早く決めてくんない?零の奴、新しいこと一つやるにしてもウダウダするからさ。病気の件はあんたもさっき聞いただろ。零に時間が無いってことは俺にも時間が無いってことだ」
「一晩考えさせてくれ」
と大家が言ったので、「明日、朝イチで行くからな」とエイトは念押ししエレベーターに飛び乗る。
 次の行き先は、コンビニだ。零がしてみたいことをポツポツとだか語り始め、ちょびっとだけ髪を茶色くしてみたいと言ったのだ。あと、バーにも言ってみたいと言っていた。
 毛染めをしたことがないのは、免疫が弱いから刺激が強すぎるのでやるなと医者に言われていたらしい。それでもしてみたいと言う。
 ブリーチよりヘアカラーの方が刺激が少ないはずなのでそっちを選び、賞与金から支払う。コンビニの袋を振り回しながら、部屋に戻る。残念ながら風呂場から音はしなかった。
 静かに玄関を閉めてこたつの部屋に向かう。
 こたつとベットの狭い隙間に身体をねじ込んで零がテレビを見ていた。
「おかえり」
「ん」
 零はエイトが突然いなくなったことに焦っていないようだ。
 スーパーに買い出しに出かけ戻ってきたときは、安堵の表情を見せてくれたのに。あの顔を期待していたので、ちょっと物足らなく思っていると、
「どこ行っちゃったのかなあっって思ってたけど、携帯が置きっぱだったから、そのうち帰ってくるだろうなって」
 深くこたつ布団に潜り込みながら零が付け足す。 
「誰かを部屋で待つっていいもんだね」
 しばらくエイトの顔を見てくれなかったのは、照れ隠しだったのかもしれない。

「え?ゴミの搬出?あの部屋の?」
 翌朝になった。エイトは朝食の後、零に提案してみた。
「おう。コンビニにヘアカラー剤を買いにいく途中で偶然大家に会ったんだ。ダメ元で申し出てみた。価格は十万。家主と俺で半々な」
「僕はそこまで体力ないよ」
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