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第二章

30:素直に受け答えする愛玩動物みたいにしてりゃ、よくしてもらえた。

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「まさか、俺が奴隷みたいに働かされてたと思っている?天国だったぜ?暇を持て余したし社長夫人とか実業家の女とか、とにかくそいつらは金を持ってるわけ。サオ役はいくら若いっていっても射精したら連続はきついから、女みたいに一日五人、六人相手にするんじゃなくて、昼から夕方、夜から明け方までとか。いいとこの学校の制服を着せられて待ち合わせ場所まで車で送られて、メシもファミレスじゃなくてレストラン。服だって百貨店ブランド。セックスったってガキのテクだから、そこはあんま期待されてなくて、素直に受け答えする愛玩動物みたいにしてりゃ、よくしてもらえた。ねだれば小遣いも薬も。デリヘル業者にだって、客が男なのは絶対に勘弁って言えば分かってもらえた。融通が効いたんだ。こっちの主張が通ったんだ。それって俺には凄いことだった。まあ、身体がデカくなりすぎちゃって、指名がとんどん減って十四で廃業したけどな。そっからのヒモ転身ってわけ」
 零が声を震わせながら言う。
「エイト、それ、普通じゃないよ。天国でもない。学生なら勉強して部活して」
「残念。俺の周りにはそういうのしかいなかった」
「助けてくれる大人は?法の介入は?」
「ねえよ、そんなもん。そこでも利用されるだけだ。だから、自分の身体使うか犯罪に走るかして生き残るしかなかった」
「最終的に捕まったら意味ないでしょ」
「ああ。ごもっとも。あんたは俺みたいに汚れてないし、まっとうな性欲を持っているみたいだから、してーことをしてみたらって提案をしたかっただけ。特殊詐欺より引いたか?だったら出ていくぜ」
「もしかして、慰めてくれてたの?」
「さあな」
 少しの沈黙。
「一種の洗脳なんだろうね。清らかな恋愛をして結ばれてっていうドラマや映画からの。キリスト教系の病院だったからなのかな?真面目な本や少女漫画しかなかったし。過剰反応してごめん」
「で、どういう女が好み?」
 エイトは身を乗り出した。
「お気持ちだけで結構です」
「ん?どういう意味だ?なあ、教えろって」
 しつこく聞くのには理由があった。
 数少ない手札が繋がったのだ。
 あの汚部屋を見た時と零の願いが。
 夜になるのをジリジリと待った。
 正しく言うのなら、零が風呂に入る時間をだ。
 昨晩みたいに一緒に入りたいわけではない。むしろ、その逆。エイトは一人になりたかった。
「お風呂、入ってくるね」
 寝巻きを持って彼が風呂場に消えて三十秒後、コートを着込んで賞与金の封筒が入った財布をポケットに突っ込み、七階の大家の部屋へ。
 インターフォンを押すと、彼がすぐに出てきた。
 エイト一人なので怪訝な顔をされる。でも時間がない。
「あのさ」
と切り出した。
「汚部屋の掃除業者って決まったのか?」
「何だい、急に」
 エイトはまっとうな大人の男と話をしたことがほとんど無い。だから、何が正しい振る舞いなのか未だに分からない。とりあえず自己紹介。
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