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第二章

28:あんたって童貞?

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「するかどうかは分からない。たぶん、耐えられなくなって最終的にはするかもしれないけれど、病院で治療を受けてしんどい思いをしながら多少生きるのが長くなるよりは、自宅に少しでも長くいれた方がいいかなって。あの部屋で死んだりしないからさ、もう少しだけいさせて欲しいんだ」
「二回、寛解しているなら三回目だって。治療法はあるんだろ?」
「検査してくれた先生が期待しない方がいいって。治療しないのなら余命は半年。身辺整理しろって。でもまあ、エイトも側にいてくれるし。あ、彼、友だちになったんだ。なんでも頼める。だから、僕の部屋はこの部屋の借り主みたいにならないようにするね。じゃ、行こう、エイト」
 零は自室へと向かい始める。エイトはちらりと大家を見てから、追いかけた。まだ何か大家は話したげだ。
「余命半年だなんて初耳なんだけど」
「へへ。ごめん」
 大家に報告したかったのと同時に、自分にも聞かせたかったのだろうか、この男はとエイトは思った。
「ってことで、僕、結構人生が限られちゃっている。直前は動けなくなるだろうし、意識も無くなるだろうから動ける時間はもっと短い。それまでに、エイトも生活を立て直しなよ」
 部屋の中に入ると零がショールをクローゼットに仕舞った。
 エイトは先にこたつに入る。遅れて零も。
「俺の生活の前にまずあんただろ。やりたいことはねえの?俺、手伝う。拾ってくれた礼」
「やりたいこと?う、うーん」
「行きたい場所とか、食いたいものとか、欲しいもんとか」
「昨日も考えたんだけど思いつかなくて。あ、この部屋の掃除。できるだけ物は少なくなるように生前整理しておきたい」
「それって他人のためだろ。じゃあ、会いたい人とかいないのか?幼なじみとか友達とか。それか好きな人」
「こんなのが友達や恋人だったら迷惑。いつ具合が悪くなるから約束すらできない」
「相手がどうこうじゃなくて、あんたの気持ちを聞いてんだけど」
 零がこたつ布団に顔を埋める。
「けど」
「けどは無し」
 エイトは、白くて細いうなじから目をそらす。
 欲求を上手く伝えられない親切男がもどかしかった。ずっと他人に遠慮して生きていたのなら、残された時間は自分のために使うべきだ。
「あんたって童貞?」
 相手は答えない。急速に耳まで真っ赤になる。
 そんなに恥ずかしいことだろうか?
 エイトが生きてきた世界では、セックスは挨拶、もしくはお礼的な意味が強かった。まあ、金を貰ってしまえば、それは仕事に変わるのだが。
 もちろん、零みたいな普通の人間が生きる世界では違うというのは感覚で分かっていた。恋とか愛とかいう類のものが介入してきて、貴方だけという特別感や精神的な契約が生まれるのだ。
 零は顔は悪くないし、喋りも知的でそこそこ面白い。でも、オクテなようだ。
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