【完結】そっといかせて欲しいのに

遊佐ミチル

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第二章

26:もしよかったら、エイトもついてきてくれない?

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 しまいには、昨晩湯船で見えた零の白い肌がちらついて、「うおっ」と寒いキッチンで声を上げていた。

 宣言通り零は午後には普通に動き回れるようになった。
 体内時計ならぬ病気時計のようなものが備わっていて、どれぐらいで体調が良くなるかわかるらしい。
「凄えな」と褒めると、「病人生活に年季が入っているからね」と返された。
 ところでネンキって何だ?
 話をしていると、たまに分からない単語を出される。
 頭のいい証拠だ。
 エイトの周りには、やべえとか、ぱねえとかそんな言葉を使うのしかいなかった。
 そういうのが犯罪を犯す。まれにコウガクレキなのもエイトのいる世界に堕ちてきたが、そいうのはたぶん生まれついておかしい。そして、零みたいなまともなのは絶対に犯罪は犯さない。
 知識は普通の世界で生きるための切符みたいなものなんだろうなと感じていたがその取得方法が分からない。刑務所に三年入って考えても答えは出なかった。
 シチューは白いのと黄色いのと両方作らされた。
 朝、コンビニ前でどっちがいいか聞いてもちゃんと答えなかったから、ルーを両方買ってきたら、両方作れと言われたのだ。聞き分けが良さそうで、案外、我儘だ。
 浅い皿に少しずつよそって差し出す。きちんとパンも添えた。ふわふわな食パンだ。刑務所でもパン食はあるが、コッペパンで週二回ほどしか出ない。
「エイトはシチュー嫌い?」
 食が進まないのを不思議がって零が聞いてくる。
「実はさっき、たくさん味見して。スーパーでも買い食いした。砂糖が乗ったギトギトのでかいパンを三個。釣りが余ったら使っていいって言ってくれたからそれに使わせてもらった。どうもな」
 暴飲は今のところ無いが、暴食が止まらないのだ。
 目の前にある全てを食べ尽くしたくなる。昨晩は甘い物を目の前にして零がいるのにやらかしてしまった。確実に引いていたし、なんか、恥ずかしかった。
「味見のおかげか旨いよ。手料理っていいね」
 零に言われて、ふわっと心が暖かくなる。
「……おう」
 こんなのヒモ時代に女に飽きるほど作ってきた。
「美味しいぃ」
「また作ってぇ」
 テンプレートの褒め言葉だってたくさん貰った。
 でも、普通の人からもらう言葉には重みを感じる。
 ああ、調子が狂うとエイトは頭を掻いた。
「さて」
 よそってやった分を全て食べ終えた零が腰までの毛糸のカーディガンを着てさらにクローゼットからちょっと分厚いショールを取り出し羽織った。手編みのようで花柄はちょっと不格好だ。
「大家さんとこ行ってこようかな。もしよかったら、エイトもついてきてくれない?友達が来ているって言えば、報告だけでさらっと終われる」
「いいのか、そんなんで」
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