上 下
25 / 99
第二章

25:抱き上げ?!

しおりを挟む
 鳴り続けていた電話がようやく止まり、零がそれを枕の下に隠した。そしてそのまま布団の中に潜り込む。
 元気がないみたいだ。
「あんた、無理したろ。俺のせいで」
 見知らぬ男、しかも元犯罪者と一緒の夜を過ごすのは相当な精神的緊張があったはずだ。
「助かっているよ。話していると気持ちが和むし」
「俺には、あんたが引くような犯罪ネタしか話題がねえぞ」
「それでもいいよ」
「よかねえわ、俺が」
 かすかに見えている額から後頭部に向かって少し力を入れて手を滑らす。
「き、気持ちいい」
「だろ。女にこれやってやると、グズっててもすぐ寝る」
 後頭部まで滑らせた手を今度は布団に突っ込む。
 相手が女であれば、ベットにグイグイ入っていって抱きしめて背中や頭を撫で回す。ポイントは決して胸や下半身には触れないこと。
 だが、相手は男だ。
 昨夜の風呂はダイカンパが起こしたイレギュラー。
 エイトは零の手を探し出した。布団から少し引き出す。
 手の平を軽くもんでやると、指の股に差し掛かった辺りで、零がうっと軽く呻いた。 
「そういやあ、目覚めたとき、俺ら手を繋いでたな。俺も指を動かすと、股の部分が痛かった」
 零が布団から顔を出した。
「それは、エイトがっ」
 なにやら怒っている。
「俺が何?」
「指の傷を放置したまま寝ちゃってたから、消毒して止血剤を塗ってやったら掴んで離してくれなくて。僕、免疫弱いんだからそこまでさせんな」
「そりゃー、すんませんしたー。でも代わりにあんたを抱き上げてベットに運んでやったろ。こたつで寝て風邪引かねえように」
「抱き上げ?!」
 湯気の上がる風呂で見た身体で細いなとは思ったが、抱き上げたら成人男性とは思えないほどの軽さだった。そのとき、感じたのは皮膚からの薬臭い匂いだった。かなり前から大量に薬を飲んできたのかもしれない。
「メシ作るわ」
 布団の中で身体を軽くバタつかせている零の肩を叩き、エイトはベットを離れる。
 また心がざわざわし始めたからだ。
 零とはなんの共通項もない。母子家庭で父親の顔は知らないのは一緒だったが、母親は上流と下流ぐらい違いが有ったはずだ。難しい教科書だって持っていたし、服だってエイトが絶対に着ない優等生みたいなセンスだし。
 買ってきた食材が入った袋を持ってキッチンに向かう。 
「なんか、俺、変だわ」
と呟きながら、こんもり膨らんだベットをチラ見。
 昨晩、あいつに助けられてから、心の中が騒がしい。
 今まで生きてきてこんなこと一度も無かったのに。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

少年ペット契約

眠りん
BL
※少年売買契約のスピンオフ作品です。 ↑上記作品を知らなくても読めます。  小山内文和は貧乏な家庭に育ち、教育上よろしくない環境にいながらも、幸せな生活を送っていた。  趣味は布団でゴロゴロする事。  ある日学校から帰ってくると、部屋はもぬけの殻、両親はいなくなっており、借金取りにやってきたヤクザの組員に人身売買で売られる事になってしまった。  文和を購入したのは堂島雪夜。四十二歳の優しい雰囲気のおじさんだ。  文和は雪夜の養子となり、学校に通ったり、本当の子供のように愛された。  文和同様人身売買で買われて、堂島の元で育ったアラサー家政婦の金井栞も、サバサバした性格だが、文和に親切だ。  三年程を堂島の家で、呑気に雪夜や栞とゴロゴロした生活を送っていたのだが、ある日雪夜が人身売買の罪で逮捕されてしまった。  文和はゴロゴロ生活を守る為、雪夜が出所するまでの間、ペットにしてくれる人を探す事にした。 ※前作と違い、エロは最初の頃少しだけで、あとはほぼないです。 ※前作がシリアスで暗かったので、今回は明るめでやってます。

理香は俺のカノジョじゃねえ

中屋沙鳥
BL
篠原亮は料理が得意な高校3年生。受験生なのに卒業後に兄の周と結婚する予定の遠山理香に料理を教えてやらなければならなくなった。弁当を作ってやったり一緒に帰ったり…理香が18歳になるまではなぜか兄のカノジョだということはみんなに内緒にしなければならない。そのため友だちでイケメンの櫻井和樹やチャラ男の大宮司から亮が理香と付き合ってるんじゃないかと疑われてしまうことに。そうこうしているうちに和樹の様子がおかしくなって?口の悪い高校生男子の学生ライフ/男女CPあります。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

ハイスペックストーカーに追われています

たかつきよしき
BL
祐樹は美少女顔負けの美貌で、朝の通勤ラッシュアワーを、女性専用車両に乗ることで回避していた。しかし、そんなことをしたバチなのか、ハイスペック男子の昌磨に一目惚れされて求愛をうける。男に告白されるなんて、冗談じゃねぇ!!と思ったが、この昌磨という男なかなかのハイスペック。利用できる!と、判断して、近づいたのが失敗の始まり。とある切っ掛けで、男だとバラしても昌磨の愛は諦めることを知らず、ハイスペックぶりをフルに活用して迫ってくる!! と言うタイトル通りの内容。前半は笑ってもらえたらなぁと言う気持ちで、後半はシリアスにBLらしく萌えると感じて頂けるように書きました。 完結しました。

同僚に密室に連れ込まれてイケナイ状況です

暗黒神ゼブラ
BL
今日僕は同僚にごはんに誘われました

初体験

nano ひにゃ
BL
23才性体験ゼロの好一朗が、友人のすすめで年上で優しい男と付き合い始める。

【完結】神様はそれを無視できない

遊佐ミチル
BL
痩せぎすで片目眼帯。週三程度で働くのがせいっぱいの佐伯尚(29)は、誰が見ても人生詰んでいる青年だ。当然、恋人がいたことは無く、その手の経験も無い。 長年恨んできた相手に復讐することが唯一の生きがいだった。 住んでいたアパートの退去期限となる日を復讐決行日と決め、あと十日に迫ったある日、昨夜の記憶が無い状態で目覚める。 足は血だらけ。喉はカラカラ。コンビニのATMに出向くと爪に火を灯すように溜めてきた貯金はなぜか三桁。これでは復讐の武器購入や交通費だってままならない。 途方に暮れていると、昨夜尚を介抱したという浴衣姿の男が現れて、尚はこの男に江東区の月島にある橋の付近っで酔い潰れていて男に自宅に連れ帰ってもらい、キスまでねだったらしい。嘘だと言い張ると、男はその証拠をバッチリ録音していて、消して欲しいなら、尚の不幸を買い取らせろと言い始める。 男の名は時雨。 職業:不幸買い取りセンターという質屋の店主。 見た目:頭のおかしいイケメン。 彼曰く本物の神様らしい……。

sugar sugar honey! 甘くとろける恋をしよう

乃木のき
BL
母親の再婚によってあまーい名前になってしまった「佐藤蜜」は入学式の日、担任に「おいしそうだね」と言われてしまった。 周防獅子という負けず劣らずの名前を持つ担任は、ガタイに似合わず甘党でおっとりしていて、そばにいると心地がいい。 初恋もまだな蜜だけど周防と初めての経験を通して恋を知っていく。 (これが恋っていうものなのか?) 人を好きになる苦しさを知った時、蜜は大人の階段を上り始める。 ピュアな男子高生と先生の甘々ラブストーリー。 ※エブリスタにて『sugar sugar honey』のタイトルで掲載されていた作品です。

処理中です...