【完結】そっといかせて欲しいのに

遊佐ミチル

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第二章

25:抱き上げ?!

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 鳴り続けていた電話がようやく止まり、零がそれを枕の下に隠した。そしてそのまま布団の中に潜り込む。
 元気がないみたいだ。
「あんた、無理したろ。俺のせいで」
 見知らぬ男、しかも元犯罪者と一緒の夜を過ごすのは相当な精神的緊張があったはずだ。
「助かっているよ。話していると気持ちが和むし」
「俺には、あんたが引くような犯罪ネタしか話題がねえぞ」
「それでもいいよ」
「よかねえわ、俺が」
 かすかに見えている額から後頭部に向かって少し力を入れて手を滑らす。
「き、気持ちいい」
「だろ。女にこれやってやると、グズっててもすぐ寝る」
 後頭部まで滑らせた手を今度は布団に突っ込む。
 相手が女であれば、ベットにグイグイ入っていって抱きしめて背中や頭を撫で回す。ポイントは決して胸や下半身には触れないこと。
 だが、相手は男だ。
 昨夜の風呂はダイカンパが起こしたイレギュラー。
 エイトは零の手を探し出した。布団から少し引き出す。
 手の平を軽くもんでやると、指の股に差し掛かった辺りで、零がうっと軽く呻いた。 
「そういやあ、目覚めたとき、俺ら手を繋いでたな。俺も指を動かすと、股の部分が痛かった」
 零が布団から顔を出した。
「それは、エイトがっ」
 なにやら怒っている。
「俺が何?」
「指の傷を放置したまま寝ちゃってたから、消毒して止血剤を塗ってやったら掴んで離してくれなくて。僕、免疫弱いんだからそこまでさせんな」
「そりゃー、すんませんしたー。でも代わりにあんたを抱き上げてベットに運んでやったろ。こたつで寝て風邪引かねえように」
「抱き上げ?!」
 湯気の上がる風呂で見た身体で細いなとは思ったが、抱き上げたら成人男性とは思えないほどの軽さだった。そのとき、感じたのは皮膚からの薬臭い匂いだった。かなり前から大量に薬を飲んできたのかもしれない。
「メシ作るわ」
 布団の中で身体を軽くバタつかせている零の肩を叩き、エイトはベットを離れる。
 また心がざわざわし始めたからだ。
 零とはなんの共通項もない。母子家庭で父親の顔は知らないのは一緒だったが、母親は上流と下流ぐらい違いが有ったはずだ。難しい教科書だって持っていたし、服だってエイトが絶対に着ない優等生みたいなセンスだし。
 買ってきた食材が入った袋を持ってキッチンに向かう。 
「なんか、俺、変だわ」
と呟きながら、こんもり膨らんだベットをチラ見。
 昨晩、あいつに助けられてから、心の中が騒がしい。
 今まで生きてきてこんなこと一度も無かったのに。
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