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第二章
24:対して効かない薬だけど飲んだし、午後にはよくなるよ。
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「昔は一晩で五百万円とかちょろかったのになあ」
オレンジ色の買い物かごを腕にかけながら人参を選んでいると、側にいた主婦らしき女が、そそくさと側から逃げていった。
頭のおかしい男か、もしくはヤバい筋のと思われたかもしれない。
注意しないと。
刑務所と違って一般社会は情報の渦で、まだその処理が上手くいかない。
それに犯罪の構造だって半年、もしくはそれよりも短いスパンで変わっていく。三年も現場から離れていた自分は使い物にならない。自分より若い者の目には何度も刑務所に舞い戻ってくる老人と同じような存在に見えるのかもしれない。
「ダセえ」
それ以上に情けない。
零の部屋に戻ると、部屋を出る前にエイトがセットしてやった加湿器がコポコポと音を立てていた。
零はベットに横たわり目を瞑っている。
静かに買ってきた物が入った袋を床に置くと、
「おかえり」
真っ当な人が吐く真っ当な言葉は、昨日飲ませて貰った熱いコーヒーみたいにエイトの身体に染みていった。
近寄っていって首筋に手を当てると、明らかに熱い。
「ひゃっ」
と言って、零が首をすくめる。
「あ……。悪い」
触ってから相手は男だったと気づいた。
ヒモの習性だ。相手が弱っているときにこうやって恩を売っておく。
零が薄目を開けている最中に、エイトは貰ったコートをハンバーにかけ、フックに吊るす。
「ゴショモーのを今から作るけど、食えそうか?まあ、冬だし二、三日もつだろうが」
「対して効かない薬だけど飲んだし、午後にはよくなるよ。食べたら大家さんとこに報告に行かなくちゃ」
「何の?」
「再発の。入院したらもうここには帰ってこられないかもしれないって。ちょっと前から明らかに具合がおかしかったから検査して、結果が昨日出たんだ」
枕元に置かれた零の携帯が鳴った。
上原先生とディスプレイに出ていて、それを見た零が携帯を裏返しにした。
「僕のことを長く見てくれている大学病院の先生。早く入院手続きしろっていう催促だと思う」
「あんたの周りって親切なのが多いんだな」
「普通の医者はこんなことはしないよ。けど、母さんも看取ってくれた人だから」
「もういねえのか、母親?」
「僕と同じ病気。血液細胞の。僕は子供の頃からで、母さんは急性だった。まあ、遺伝なんだろうね」
「父親は?」
「早くに事故で死んだ。記憶は全然無い。頼れる親戚もいないから、母さんがいざというときはって上原先生と大家さんに話をつけてくれていたんだ」
オレンジ色の買い物かごを腕にかけながら人参を選んでいると、側にいた主婦らしき女が、そそくさと側から逃げていった。
頭のおかしい男か、もしくはヤバい筋のと思われたかもしれない。
注意しないと。
刑務所と違って一般社会は情報の渦で、まだその処理が上手くいかない。
それに犯罪の構造だって半年、もしくはそれよりも短いスパンで変わっていく。三年も現場から離れていた自分は使い物にならない。自分より若い者の目には何度も刑務所に舞い戻ってくる老人と同じような存在に見えるのかもしれない。
「ダセえ」
それ以上に情けない。
零の部屋に戻ると、部屋を出る前にエイトがセットしてやった加湿器がコポコポと音を立てていた。
零はベットに横たわり目を瞑っている。
静かに買ってきた物が入った袋を床に置くと、
「おかえり」
真っ当な人が吐く真っ当な言葉は、昨日飲ませて貰った熱いコーヒーみたいにエイトの身体に染みていった。
近寄っていって首筋に手を当てると、明らかに熱い。
「ひゃっ」
と言って、零が首をすくめる。
「あ……。悪い」
触ってから相手は男だったと気づいた。
ヒモの習性だ。相手が弱っているときにこうやって恩を売っておく。
零が薄目を開けている最中に、エイトは貰ったコートをハンバーにかけ、フックに吊るす。
「ゴショモーのを今から作るけど、食えそうか?まあ、冬だし二、三日もつだろうが」
「対して効かない薬だけど飲んだし、午後にはよくなるよ。食べたら大家さんとこに報告に行かなくちゃ」
「何の?」
「再発の。入院したらもうここには帰ってこられないかもしれないって。ちょっと前から明らかに具合がおかしかったから検査して、結果が昨日出たんだ」
枕元に置かれた零の携帯が鳴った。
上原先生とディスプレイに出ていて、それを見た零が携帯を裏返しにした。
「僕のことを長く見てくれている大学病院の先生。早く入院手続きしろっていう催促だと思う」
「あんたの周りって親切なのが多いんだな」
「普通の医者はこんなことはしないよ。けど、母さんも看取ってくれた人だから」
「もういねえのか、母親?」
「僕と同じ病気。血液細胞の。僕は子供の頃からで、母さんは急性だった。まあ、遺伝なんだろうね」
「父親は?」
「早くに事故で死んだ。記憶は全然無い。頼れる親戚もいないから、母さんがいざというときはって上原先生と大家さんに話をつけてくれていたんだ」
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