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第二章

23:せっかく禊が終わってシャバに出てきたっていうのに気分が悪ぃわ

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 どうして自分はこう犯罪に繋がることしか考えられないのか。零にも昨日注意されたばかりだった。
「さて、買い物、買い物」
 零からは、二千円を預かっていた。
 数十分前に、エイトを送りがてらコンビニに出たはずなのに財布を家に忘れたというのだ。
 元々、コンビニになど行くつもりは無かったのかもしれない。
 純粋にエイトを見送ろうと思って体調不良を押して外に出てきてくれたのなら、そんな相手はこれまで出会ったことがなかった。
 皆、エイトに利用価値があると思って近づいてきたのだから。
 だから、普通になろうとあがいている今の自分には何の価値もない。
 雪が溶けかけた道を歩き出す。ボロいスニーカーに水が染みて少し参った。
「ああ、なんか」
 エイトは鍵を握りしめながらコートの上から胸を押さえる。
 実を言うと、昨晩からずっと心がざわざわとしていた。
 そのざわめきを上手く言葉にすることができない。
 今朝、テレビでやっていた広域強盗犯のニュースも気になった。住人に金の在り処を吐かせ、抵抗するしないに関わらず殺してしまうようだ。
「タイの刑務所にいる男らが指示役らしい」とアナウンサーが告げていた。
「まるで、スパイ映画の世界ですね。我々からすると」とコメンテーターが。
 何言ってんだよ、とエイトは思う。
 振り込め詐欺グループは、海外に拠点を持っているところも多い。
 タイ、フィリピン、韓国など。闇バイトに応募してきた日本人を逃げられないようにそこに送り込んで、朝から晩までみちっり電話トレーニングをして一定のレベルにする。現地からオレオレ詐欺の電話をかけさせるのだ。エイトら手配師が用意した名簿を使ってだ。
 もちろんトレーニングしても使い物にならないのもいる。多少ぶん殴られたりするようだが、チャイナ資本のカンパニーに勧誘され中国に連れて行かれた場合、耳から膿が出るほど電話をかけさせられるらしいし、自分のいたカンパニーは待遇がいい方だったと思う。
 テレビに映っていたマグショット姿の男らの顔は全員見たことがあった。
「随分、雑な犯罪をするようになったな」
と零が寝ているのに、ぼやきそうになったぐらいだ。
 強盗は、武器か腕力。そして、度胸さえあればいい。
 最も金のかからない犯罪だ。その家に銀行に預けられない金があることがわかっていれば住人がいるときを狙って押し入り、金品の場所を吐かせ奪うので空振りも無い。
 上は、今日仕事があるから行けと初対面同士の駒でチームを組ませ強盗に向かわせる。
 成功すれば金が手に入る。失敗すれば駒が捕まるだけ。駒には上層部の情報は一切与えていないので、捕まっても警察に何も吐けない。
「それだけ、切羽詰まってるってことか」
 三年前に百名近くが捕まったが、残党がこのように凶悪化した。
「せっかく禊が終わってシャバに出てきたっていうのに気分が悪ぃわ」
 教えられたスーパーでシチューの材料を買い込む。ついでにパンも。
 賞与金の二万五千円からだって出せなくもなかったが、今は全財産はこれっきり。何か合ったときのために備えておかないとならなかった。それがちょっと情けなかった。
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