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第一章

20:自分で言うのも何だけど 、ムショ帰りの俺なんて無価値、むしろ、マイナス要素しかないぜ

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 ハハハと乾いた声が響いた。
「そんなんじゃねえよ。いた場所は天国」
 いい場所にいて性欲が枯れる?
 十四才以前で?なんだ、それ?
 びゅうっと風が吹く。
 エイトが亀みたいに首を縮こめた。
「う、寒ぃ。さっさとヤサを確保しないと」
 零の頭の中では、ヤサってなんだろうと知らない単語がグルグル巡る。
「ヤサは家のこと。ま、なんとかするわ。公衆電話が都内に一台も無いってことはないだろ」
 エイトがベンチが腰をあげる。
「待って。エイト」
 零は呼びかけた。だが、話題は考えていなかった。
「ええっと」
 エイトは零に背を向けたまま立ち止まっている。
「まさか、あんた、また親切心出そうとしている?それって何で?自分で言うのも何だけど 、ムショ帰りの俺なんて無価値、むしろ、マイナス要素しかないぜ」
「そんなことない。ひったくりをぶん殴ってくれて、僕にはヒーローに思えたよ」
「……痒っ」
「僕はありがたかった。エイトの存在が」
 一旦はふざけたエイトが今度は黙った。
 積もって固くなった雪をスニーカーのつま先で軽く蹴り上げるザッっという音がする。
「あんた、ビョーキがどうのって言ってたっけ」
 やがてエイトは、言うべきことを見つけたというばかりに巻き毛のようなくるりとし髪に覆われた頭を指をピストルのような形にして突く。
「刑務所にシューカンされて刑期を全うしたって、犯罪テクニックまで消えたわけじゃない。弱さを見せると身ぐるみ剥がされるぞ」
「エイトが過去を僕に喋ってくれたのは弱さじゃないの?僕、身ぐるみ剥がした?」
 彼はダッフルコートのトングを指先でピンと跳ね上げる。
「いや、逆だったけど」
 彼も再起を測る上で、あらゆる物に警戒しているのかもしれない。
 ヒモをしていた女の元に転がり込めば昔と同じ状況になってしまうかもと思って、コンビニ側のベンチに座って動けなかったかもしれない。
 通行人の携帯がバックの中で鳴っていた。
 食べ物のCMソングだ。
「シチュー食べたいなあ」
 零は出会った昨日と同じく、エイトを置いて自宅方向に歩き出す。
 決めたのだ。
 これまでしたことのない選択をすると。
 ため息交じりの声の後、軽い舌打ちがした。やがて近づいてくる足音とともに、
「白いのか、黄色いのか」
という声。
 ホワイトシチューとコーンシチュー、どっちがいいのか聞いているらしかった。
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