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第一章

13:いなくなっちゃったのか

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 何だか面白くなかった。 
 友人なんてものを持たず過ごしてきたから、誰かを部屋に泊めるのはかなり勇気がいった。それを察して欲しいのに助けてやった男は指輪一つで動揺している。
 一人の夜を過ごさなくていいだけでありがたいはずなのに、感謝の気持ちは薄れている。
 だぶん、それは、行くあての無い男でも大切な人がいることが気に食わないのだ。
「何をしているんだろう、僕は」
 一分一秒が惜しいはずなのに。
 頭に浮かぶのはやりたいことよりも、やらなきゃいけないことばかり。
 荷物をできるだけ少なくすること。あとは身辺整理。
 パシャっと湯を跳ね上げる。こうやって自力で風呂に入れるのもそう多くはないはずだ 
 風呂からあがり、電気をつけたまま零はベットに入った。
 エイトとは頭の向きが逆なので寝顔は見えないが、スースーと規則正しい寝息がする。
 このまま眠れば、正直すぎる元犯罪者は零の首を締め、部屋を物色し、盗る物を盗って去ってくかもしれない。
「どうでもいいや」
 それでも電気は消せなかった。
 数十分してやがて眠りは訪れたが、やはり浅かった。
 他人と同じ部屋で眠ることに緊張しているのかもしれないし、相手のバックグラウンドにビビっているのかもしれない。
 ふっと目覚める。枕元の時計は午前三時。夜が明けるのはまだまだだ。
 寝息の音が聞こえてこないことを零は不審に思って、ベットから身体を起こした。
「いない」
 蛇の抜け殻みたいな形がこたつの裾に出来上がっていて、エイトが零を起こさないよう、そっと起き出したのがわかった。
 トイレだろうか、それとも寒くて再度風呂に?
 ベットから抜け出して確認してみたが、どちらにもエイトの姿は無かった。
「いなくなっちゃったのか」
 零があげたコートも無かった。でも、こたつの上に充電器に繋がれた携帯が置かれてある。
「じゃあ」
 零は腰まで隠れるロングカーディガンを着てコートを羽織った。靴下は二重履き、手袋もだ。
「ぶわっ」
 玄関の扉を開けると信じられないほど吹雪いていた。東京とは思えない。
 このままでいったら、きっと数センチは軽く積もる。朝の公共機関はきっと大混乱だ。
 零は玄関の傘を手に取り外に向かって歩き出す。
 雪を踏むと、ぎゅぎゅっと聞いたこともない音を立てた。
 幸い氷はまだ張っていないようだ。
 傘が風に飛ばされないよう踏ん張りながら、ひったくりにあったコンビニ近くまで行く。
「エイト!」
 零は地べたを這うようにして地面を見ている男に向かって叫んだ。しかし、吹雪のせいで聞こえないらしい。
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