上 下
10 / 99
第一章

10:なんか、あんたってゼリーみたいだな

しおりを挟む
 零は腹を抱える。そこまで面白くないのに、笑いが止まらなかった。
「はあ、久しぶりに声を出して笑った。あ、これ、スウェットね。一回も袖を通していない新しいのだから。歯ブラシもね」
 いつ入院となるか分からない身体なので、旅行バックに入院セットはいつも常備していた。
「ドライヤーは洗面台」
「髪なら黙ってても乾く」
「風邪を引かれると困るんだ、僕が。免疫が人より低いから」
「おお。解った」
 納得したように頷いたエイトが洗面台に戻りドライヤーを使う音がする。それが止むと
 コートと同じくピチッとしたスウェット姿でエイトが戻ってきた。
「小さすぎて、ケツとかこことか形が丸わかりじゃね?」
 エイトは尻を触った後、股間に蓋をするような仕草を見せる。
 彼が冗談でやったのは分かっていた。零には少し性的に見えても、だ。
「これ」
 消毒液と軟膏を差し出すと、「ん」とエイトが髪をめくった。
 零は救急箱から脱脂綿を取り出し、消毒液を吹きかけた。それをエイトの傷口に押し当てる。
「っ痛」
「僕のせいでごめん。でも、止血剤は自分で塗って。手当してあげたいけれど、免疫がね。手って細かい傷があるから」
「なんか、あんたってゼリーみたいだな」
「ゼリー??」
「これは俺のドクトクの感覚かもしんないけれど、人ってさあ、硬い殻みたいなもんがあんだよ。特に普通に生きてきたのと、そうじゃないのが話している時、それを感じる。あんたにはそれが無いってこと」
 死のカウントダウンが始まって、エイトが言う殻のような物が剥がれてしまったのかもしれない。
「なあ。この菓子も食っていい?コンビニ代全部返すわ」
「いいよ。そんなの。あ、残り物でよければ、冷蔵庫からいろいろ出すけど。冷凍のおにぎりやチャーハンもある」
「食いてえ」
 リクエストに応えて、廊下の横に設置された長細いキッチンに立つ。
 こたつから出て、部屋と廊下の境目に佇んだエイトが、
「うわっ。さぶっ」
「うん。冷えるね。ここまで冷えるのは物心ついて初めてかも」
 その最中、チンッとけたたましく電子レンジの音が鳴る。
 そこから皿を取り出すと、
「マジ助かったわ」
 出来上がったチャーハンの匂いをかぎながら、エイトが自然にそれを受け取る。
「あんたとあのまま別れていたら絶対に風邪を引いていた。ネカフェも寒ぃからさ。そこでこじらせりゃあ、あっという間にあの世行きだ」
「エイトは何でこの街に?何か用があったの?」
と言いながら零は、今度はおにぎりをセットする。
「話す前に携帯を充電させてもらってもいいか?充電器も貸して欲しい」
と聞かれて、零は「どうぞ」と答えた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!

灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。 何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。 仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。 思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。 みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。 ※完結しました!ありがとうございました!

執着攻めと平凡受けの短編集

松本いさ
BL
執着攻めが平凡受けに執着し溺愛する、似たり寄ったりな話ばかり。 疲れたときに、さくっと読める安心安全のハッピーエンド設計です。 基本的に一話完結で、しばらくは毎週金曜の夜または土曜の朝に更新を予定しています(全20作)

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

Take On Me

マン太
BL
 親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。  初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。  岳とも次第に打ち解ける様になり…。    軽いノリのお話しを目指しています。  ※BLに分類していますが軽めです。  ※他サイトへも掲載しています。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

『これで最後だから』と、抱きしめた腕の中で泣いていた

和泉奏
BL
「…俺も、愛しています」と返した従者の表情は、泣きそうなのに綺麗で。 皇太子×従者

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

処理中です...