6 / 99
第一章
6:怖くねえの、俺のこと?
しおりを挟む
零は自分がからかわれているのでは?と思った。
「あそこにいる人たちって皆、坊主頭だろ」
「三ヶ月前から髪は伸ばせる。場所は川越刑務所」
「へえ。川越に刑務所なんてあるんだ。初耳」
半袖男がようやく振り向く。
「これで、もう部屋来るって言えないだろ?俺、ショーシンショーメー犯罪者だし。特殊詐欺で三年。実刑。満期出所」
二人して沈黙している間、半袖男は顔を歪めていた。それは、寒さから来るものだけでは無いのが零には感じ取れた。自分だってきっと同じような顔をしている。
不安なのだ。どうしようもなく。
半袖男は凍死しかねない現状に。零は閉ざされてしまった未来に。
「行くあてが無さそうな俺にジヒの心ってのを出しちゃってんの?なんで、俺が素早く動けたか不思議に思わないのか?俺もぼんやりしているあんたなら、財布を奪いやすそうだなって思ってたんだよ。実際にやったりはしねえけどよ。だから、先手を打たれて俺の獲物に手を出しやがってって腹が立って、気がついたらあの野郎に蹴りを入れた」
「ひったくりもやったことあるの?」
「ガキの頃に」
「正直だね」
「アホ。すぐに騙されやがって。特殊詐欺で三年だって噓かもしれないじゃないか」
「じゃあ、刑務所に入ってたってことだって噓かもしれないね。うう、寒い。もう限界。行こ」
あえてそっけなくし、零は自分のマンションに向かって歩き出す。
振り向かない。
振り向きたいけれど、あえてそうしない。
独り言のように言う。
「これまでの僕なら、君みたいないかついタイプには声をかけるどころか近づきもしなかった。でも、真逆のことをしようって決めたんだ」
「なんでまた?いつ?」
声だけが追いかけてくる。
「理由はここじゃあ話したくない。重くなるし。いつ?になら返答できる。さっき。コンビニに買い出しに行く直前」
やがて、同じ方向に歩き出す足音が聞こえてきた。
「さっき、言った事、全部本当だからな。怖くねえの、俺のこと?」
「根っからの犯罪者なら、普通隠すよね?」
「明日には強盗殺人の被害者が部屋に転がっているかもな」
零は立ち止まって「いいよ。それでも」と言うと、止まりきれなかった半袖男が背中にぶつかってくる。そして、
「よくねえわ。俺が」
と低い声で言って、いたずらするように零をドンッと膝で押してきた。
狭い三和土の端でスニーカーを脱いだ半袖男はきっりとそれを揃えて中に入った。こういうタイプなら脱ぎ散らかしそうなものなのに、ギャップのある男だ。
エントランス付近で名前を聞くと、三階の玄関に着いたときにようやく「エイトだ」と名乗った。
栄斗だろうか、それとも瑛人?漢字を脳内で浮かべていると、半袖男は零の目を見つめ覚悟を決めたみたいに言う。
「あそこにいる人たちって皆、坊主頭だろ」
「三ヶ月前から髪は伸ばせる。場所は川越刑務所」
「へえ。川越に刑務所なんてあるんだ。初耳」
半袖男がようやく振り向く。
「これで、もう部屋来るって言えないだろ?俺、ショーシンショーメー犯罪者だし。特殊詐欺で三年。実刑。満期出所」
二人して沈黙している間、半袖男は顔を歪めていた。それは、寒さから来るものだけでは無いのが零には感じ取れた。自分だってきっと同じような顔をしている。
不安なのだ。どうしようもなく。
半袖男は凍死しかねない現状に。零は閉ざされてしまった未来に。
「行くあてが無さそうな俺にジヒの心ってのを出しちゃってんの?なんで、俺が素早く動けたか不思議に思わないのか?俺もぼんやりしているあんたなら、財布を奪いやすそうだなって思ってたんだよ。実際にやったりはしねえけどよ。だから、先手を打たれて俺の獲物に手を出しやがってって腹が立って、気がついたらあの野郎に蹴りを入れた」
「ひったくりもやったことあるの?」
「ガキの頃に」
「正直だね」
「アホ。すぐに騙されやがって。特殊詐欺で三年だって噓かもしれないじゃないか」
「じゃあ、刑務所に入ってたってことだって噓かもしれないね。うう、寒い。もう限界。行こ」
あえてそっけなくし、零は自分のマンションに向かって歩き出す。
振り向かない。
振り向きたいけれど、あえてそうしない。
独り言のように言う。
「これまでの僕なら、君みたいないかついタイプには声をかけるどころか近づきもしなかった。でも、真逆のことをしようって決めたんだ」
「なんでまた?いつ?」
声だけが追いかけてくる。
「理由はここじゃあ話したくない。重くなるし。いつ?になら返答できる。さっき。コンビニに買い出しに行く直前」
やがて、同じ方向に歩き出す足音が聞こえてきた。
「さっき、言った事、全部本当だからな。怖くねえの、俺のこと?」
「根っからの犯罪者なら、普通隠すよね?」
「明日には強盗殺人の被害者が部屋に転がっているかもな」
零は立ち止まって「いいよ。それでも」と言うと、止まりきれなかった半袖男が背中にぶつかってくる。そして、
「よくねえわ。俺が」
と低い声で言って、いたずらするように零をドンッと膝で押してきた。
狭い三和土の端でスニーカーを脱いだ半袖男はきっりとそれを揃えて中に入った。こういうタイプなら脱ぎ散らかしそうなものなのに、ギャップのある男だ。
エントランス付近で名前を聞くと、三階の玄関に着いたときにようやく「エイトだ」と名乗った。
栄斗だろうか、それとも瑛人?漢字を脳内で浮かべていると、半袖男は零の目を見つめ覚悟を決めたみたいに言う。
0
お気に入りに追加
57
あなたにおすすめの小説
ハンターがマッサージ?で堕とされちゃう話
あずき
BL
【登場人物】ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ハンター ライト(17)
???? アル(20)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
後半のキャラ崩壊は許してください;;

ある少年の体調不良について
雨水林檎
BL
皆に好かれるいつもにこやかな少年新島陽(にいじまはる)と幼馴染で親友の薬師寺優巳(やくしじまさみ)。高校に入学してしばらく陽は風邪をひいたことをきっかけにひどく体調を崩して行く……。
BLもしくはブロマンス小説。
体調不良描写があります。

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

好きなあいつの嫉妬がすごい
カムカム
BL
新しいクラスで新しい友達ができることを楽しみにしていたが、特に気になる存在がいた。それは幼馴染のランだった。
ランはいつもクールで落ち着いていて、どこか遠くを見ているような眼差しが印象的だった。レンとは対照的に、内向的で多くの人と打ち解けることが少なかった。しかし、レンだけは違った。ランはレンに対してだけ心を開き、笑顔を見せることが多かった。
教室に入ると、運命的にレンとランは隣同士の席になった。レンは心の中でガッツポーズをしながら、ランに話しかけた。
「ラン、おはよう!今年も一緒のクラスだね。」
ランは少し驚いた表情を見せたが、すぐに微笑み返した。「おはよう、レン。そうだね、今年もよろしく。」

鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
手紙
ドラマチカ
BL
忘れらない思い出。高校で知り合って親友になった益子と郡山。一年、二年と共に過ごし、いつの間にか郡山に恋心を抱いていた益子。カッコよく、優しい郡山と一緒にいればいるほど好きになっていく。きっと郡山も同じ気持ちなのだろうと感じながらも、告白をする勇気もなく日々が過ぎていく。
そうこうしているうちに三年になり、高校生活も終わりが見えてきた。ずっと一緒にいたいと思いながら気持ちを伝えることができない益子。そして、誰よりも益子を大切に想っている郡山。二人の想いは思い出とともに記憶の中に残り続けている……。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる